最近はCOVID-19の治療薬の開発が盛んですね。
様々な作用機序がありますが、シンプルなのは抗ウイルス薬でしょう。
これはウイルスの増殖を抑えるお薬ですね。
一方で細菌に対して使用する薬剤として、抗菌剤というものがあります。
ひと昔前は抗菌剤の開発が盛んでした。
日本国内の製薬会社でも塩野義さんをはじめとして、多くの会社で開発が進められていました。
しかし、近年は抗菌剤の開発自体が下火になっています。
一方で昨年春に話題に挙がりましたセファゾリンの不足事件(抗菌薬の原料不足で抗菌薬の供給が滞った)でも浮き彫りとなったとおり、抗菌剤自体は医療現場で求められている薬剤になります。
今日は抗ウイルス薬ではなく、この抗菌剤の開発や薬価について、考えていきたいと思います。
Contents
要約
・抗菌剤は薬価が安く、ジェネリックも多い
・抗菌剤は使いすぎないこと推奨、短期間しか使われない
・薬価引き下げには強い圧力がある
・薬価引き下げに注力すると、日本での医薬品開発が滞る可能性
・よりよい抗菌剤を十分量、医療現場に供給していくことが、製薬会社のみならず行政の責務
なぜ抗菌薬の開発が進まないのか?
結論から申し上げますと、「抗菌薬は儲からない」という点が理由の一つとしてあります。
それはなぜでしょうか。
何点かポイントを挙げて考えてみましょう。
1.安い薬価
薬価算定制度上、抗菌薬は高い薬価がつきにくく、利益を上げづらい医薬品になります。
薬価算定制度の詳細は機会があれば別で取り上げようと思います。
2.ジェネリック医薬品の台頭
古くから使われており、特許が切れている医薬品には当然ジェネリックが出てきてしまいます。
特に抗菌剤は基本的に低分子医薬品であり製造も簡単なため、ジェネリックが出てきやすいという側面もあります。
3.使いすぎないことの推奨
抗菌剤は、耐性菌を出さないために無駄に使わないことが重要となります。
これは医療行政的にも医療現場としても重要なことではありますが、売り上げという局面からのみ考えると、マイナスとなる要因です。
4.短期間で終わる治療
上記の「使いすぎない」と似ていますが、抗菌薬がずっと使われることは基本的にはありません。
通常は菌がいなくなる、もしくは感染のリスクが低下すれば、抗菌薬の投与は終わります。
そのため、生活習慣病の薬のように長期間に渡って服薬されることがないのです。
以上4点の理由を挙げましたが、これだけでも抗菌薬の開発に及び腰となる、製薬企業側の立場が少しご理解いただけたのではないでしょうか。
製薬会社はボランティアではありません。
何百億かけて儲からない薬「ばかり」を開発できるほどの暇と体力はありません。
以前アンメットメディカルニーズの医薬品を世に出すことは製薬会社の使命だと記載しました。
これは私が強く思うところでもあります。
抗菌薬は及び腰なくせに、なんでアンメットメディカルニーズは出せるのか?と思われるかもしれませんが、いわゆる患者数の少ないオーファンドラッグは様々な面で優遇があり、開発しやすい環境もある程度整えられているのです。
アンメットメディカルニーズのお薬は、他に有効なものがなく、患者さんからも強く求められているという事情もあります。
抗菌薬は既に多くの医薬品が出ており、開発の余地が少ないという点もあります。
もう少し専門的にいうと、既存薬と非劣性では話にならないため、かなり強力な薬効が必要となります。
そして既存薬と比較して有意差を出すのはかなり難しいです。
(昔はちょこっと変えた医薬品でも世に出ていましたが、いまはそうはいきません。)
儲からないを解消するために(薬価の問題)
最大の問題である「抗菌薬は儲からない」を解決するためには薬価をどうにかすることが重要となります。
しかし医療費増大が問題となるとき、必ず薬価が叩かれる現状があります。
なぜでしょうか。この点についても何点かポイントを挙げて考えてみましょう
1.医療用医薬品薬価が医療費の「増大」の大きなウェイトを占めている
医療費「増大」の大きなウェイトを占める薬価を削ることが、医療費増大に歯止めをかけるために大きなインパクトがあるためです。分かりやすいですね。(参考:全国保険医団体連合会)
2.医師会や有権者の反発を受けにくい
診療費を削ることは極めて難しいです。
それは医師会の力が絶大だからです。
そして医療機関の現状を見れば、むしろ勤務医の給料は低いぐらいであり、診療費を削るべきではないと個人的には思います。
高齢者の医療費や生活保護者の医療費等、もっと議論できる部分はあるかと思いますが、有権者の一部の層の反発が強く、難しいのが現状となっていますね。
3.製薬企業はいじめやすい
一部世論では製薬会社は儲かりすぎなんて声も聞かれます。
給料がそこそこなので、それもあって反発を招いているのかもしれません。
薬価を下げるという動きは世論からの反発も少なく、製薬企業はちょうどよい的になっていますね。
しかしこの薬価引き下げの動きには、業界は大反発しており、特に外資系企業のキレっぷりは半端ではありません。
一部強硬な動きとしては、日本での開発の撤退を検討している企業もあるくらいです。
この動きが加速すれば、「国民に新薬がいきわたらなくなる」というのも割と現実としてありうる事態かと考えています。
薬価だけを目の敵にするのではなく、高齢者の医療費や生活保護の医療費の妥当性等についても十分に議論がなされるべきではないでしょうか。
安易に先発品の薬価を下げたり、ジェネリックを推奨することが、患者さんのためになるとは私は思えません。
医療費抑制は患者さんのためなんかじゃなくて、ただ国の財政のためですよ、と言われるとなかなか厳しいのですが、イノベーションの阻害が結果として、将来的な医療費増大を招く可能性もあります!(ちょっと抽象的な主張ですけど)
まとめ
抗菌薬の開発と薬価について考えてきました。
今回は医薬品開発側としての主張がやや強めの内容になりましたが、「抗菌剤が医療現場に、患者さんに必要とされていることは揺るがない事実」です。
「価格を上げてでもきちんと供給して!」という医療現場からのありがたいご意見もあります。
「よりよい抗菌剤を十分量、医療現場に供給していくことが、製薬会社のみならず行政の責務」ではないでしょうか。
今回、COVID-19に対して多くの企業が名乗りをあげていますが、治療薬が承認されたとしても、売り上げはそこまで大きくならないかもしれません。
それでも製薬企業は果敢に開発にチャレンジしているのです。
医療費削減に際して、薬価ばかりを目の敵にして、製薬企業をあまりいじめないで頂きたいという個人的要望をもって、今日はおしまいとしたいと思います。
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。