前置き
先日のアビガンの審査報告書の記事は、予想に反して反響が大きく、1日で1300程のPVがありました。
熟練ブロガーさんにとっては、「鼻息で吹き飛ぶわらび餅のきなこぐらいの軽さ(さっきやらかした)」かもしれませんが、私にとっては衝撃でした。
専門家の方にもリツイートやコメント頂き、恐縮です。
さて、そんな流れの中で次はどうしようか?と。
変に緊張しながら悩んでいたわけですが、そんなに需要のある記事、気合の入れた記事をぽんぽこ出せるほどの知識も才能もありませんので、
いつも通り、「興味がある内容をちょっとだけ踏み込んで解説する流れ」で進めたいと思います。
また上手くいけば、たくさんの方に読んでいただけることもあるさー!と。
ちなみにアクセスの大半がTwitter経由であり、いわゆる〇〇砲はありませんでした。
と、いうことで、今日は先日スタートしたパイプライン紹介シリーズの2回目です。
え?最近コロナばかりで記憶にありませんか?
実は私も記憶にありませんが、下書きにはシリーズだと書いてありました。
あまりストックを寝かせておくと陳腐化してしまうので、適度に消費しないとですね。
(陳腐化ってCivでしか聞いたことないけど使い方あってます?)
今日は製薬会社やバイオベンチャーのパイプラインを2つ紹介させて頂きます。
対象疾患や医薬品候補化合物の特徴を把握して、今後の投資の一助になりましたら幸いです。
なお、本記事で紹介するパイプラインを有する会社の株購入を推奨するものではありませんので、ご注意ください。
ちなみに「パイプライン」という言葉は、一般的には石油や天然ガスを通す配管のことですね。
Mod入りMincraftではお世話になっています。
「製薬業界におけるパイプライン」とは、一般にその「企業の持つ医薬品候補化合物」のことを指します。
要は「医薬品のタマゴ」ということですね!
そのタマゴがかえる見込みはあるのか?(→進捗要注意)
そもそも腐っていないのか?(→将来性大事)
他所のタマゴのほうが有望でないか?(→客観的視点大事)
製薬企業に投資するのであれば、そういう視点でパイプラインを見ていく必要があります。
もっとも、どんな薬が開発中なのかな?という視点でパイプラインを眺めてみるのも、個人的には面白いと思います。
パイプライン紹介
T-817MA(edonerpic)(富士フイルム)
T-817MAは富士フィルムが開発している、早期アルツハイマー型認知症の治療薬です。
現在はヨーロッパでP2を開始しており、2023年の試験終了見込みです。
作用機序は神経細胞障害の軽減などの機能を有するシグマ受容体の活性化により、神経細胞保護効果や神経突起伸展促進効果を示すとのことです。
認知症だけではなく、脳卒中後のリハビリ効果を促す薬剤としても開発を進めているようです。
2014年よりアメリカで開始した、軽度から中等度のAD患者を対象としたP2試験では、脳脊髄液を採取できた患者群においてプラセボ群と比較してリン酸化タウの減少が確認されています
ご存知の通り、アルツハイマー型認知症の薬剤の開発は極めて難しく、ここ数年は失敗が続いています。
エーザイのアデュカヌマブも一時失敗だと騒がれましたが、詳細解析の結果申請にこぎつけましたね。
エーザイの株価の上下を見ると明らかなとおり、アルツハイマー型認知症治療薬の開発成否が株価に与える影響は絶大です!
この薬の成否が富士フィルムの今後の株価に影響を与えるのは確実です。(断言)
どうなるかは分かりませんが、ここ数年のうち、同社の株価は試験結果次第で上か下に大きく振れることになるでしょう。
今後の進捗を注視していきたいと思います。
ここ100年でヒトの寿命は大きく伸びました。
それに伴い認知症の患者数も増加しています。
ただ生きるのではなく、健康に生きることが大事だと思います。
製薬会社はただ生存期間を延ばすだけではなく、「患者さんのQOLを改善させる薬を開発すること」も重要な使命の一つだと思います。
命を救うことだけが薬の役割ではない!
と、私は思います。
この辺りのQOLに対する考え方は最近の医療技術評価(HTA)でも注目されている概念ですね。
・参考(海外サイト):
S-588410(塩野義/オンコセラピー)
S-588410は塩野義がオンコセラピー社から導入したがんペプチドワクチンです。
がんペプチドワクチンとは、がん患者さん自身の持っている免疫力を高めて、がんの増大を抑えることを目指して開発されている薬剤です。
ペプチドとはたんぱく質の断片化されたものですね。
このペプチドによって活性化された特異的な免疫細胞ががんを攻撃するというのが基本原理です。
・・・あっ、なんか怪しい系統の薬だと思いました?
変な民間療法ではなく、ちゃんとした会社が開発を進めている薬ですので、ご安心ください。
さてこのS-588410ですが、日本では食道がんや膀胱がんに対する臨床試験を実施中です。
この薬剤の面白いところはPD-L1を誘導する作用が認められているところです。
PD-L1に対する抗体はいわゆる免疫チェックポイント阻害剤のことです。
オプジーボが代表的な薬ですが、ノーベル賞を受賞したり、高額医薬品だと騒がれたり、何かと有名ですね。
このS-588410 投与によって腫瘍組織におけるPD-L1 の発現させることができれば、PD-L1の発現が少なく、免疫チェックポイント阻害剤の効果が少ない患者さんへの抗がん剤の効果増大が期待できます。
つまりS-588410 と抗PD-1 / PD-L1 抗体の併用による相乗効果の可能性があるということです。
塩野義さんというよりかは、オンコセラピーの株価に大きな影響を与えそうなこの薬剤。
今後の進捗に注目ですね!
・参考:食道がん患者を対象としたがん特異的ペプチドワクチンS-588410 に関する探索的研究成果発表のお知らせ(2019 年欧州臨床腫瘍学会年次総会)
まとめ
あまり踏み込みすぎると難解になりますので、あくまで表面的な触りにとどめていますが、パイプラインの雰囲気はつかめますでしょうか。
もしご興味のある方、投資対象として検討される方がおりましたら、各社のIRや該当する臨床試験の情報、関連論文等を詳しく確認されるとよいと思います。
私は半分興味、半分投資情報確認ぐらいの感じで読んでいます。
雑記
こうやって各社のパイプラインや長期間に渡る開発の経緯を見ていると、「変な民間療法がいかに変なのか」、よくわかるのではないかと思います。
そんなに効果があるなら臨床試験して証明してみせてよ!」
と、職業柄、よーく思います。
ご自身やご家族の健康を守るためにも、「エビデンスを客観的に確認していくことは大事」だと考えます。
自分で確認することが難しい場合は、ぜひ身近な医師や薬剤師に相談してみてくださいね!
もうほんと、ぜんぜん無理ならわたしでもいいです。
ただし、かなりマイナスのバイアスが入りますよ?
私は、そんなくだらないことでみなさんに健康を害してほしくないのです。
パイプラインシリーズ1回目