COVID-19のワクチンの臨床試験成績が明らかになりつつあり、世間の話題をさらっていますね。
ファイザー、モデルナ、アストラゼネカと、どこも高い感染予防効果を示しており、安全性も大きな懸念は今のところなさそうです。
さて、これらのワクチンの臨床試験結果に共通するところは何だと思いますか?
高い有効性と安全性と言われれば確かにそうなのですが、今日注目すべきはもう少し引いた視点です。
これらの試験に共通するのは主要評価項目、プライマリーエンドポイントです。
つまり試験のメイン目的を「感染予防効果の確認」としている点です。
今日はこのエンドポイントについて、事例を踏まえて考えてみましょう!
試験デザインとか複合エンドポイントとか難しい話はなしです。
今日の目的はエンドポイントの概略を掴み、昨今のワクチン開発について考えることです。
Contents
エンドポイント(評価項目)とは?
まずはエンドポイントについて軽くまとめます。
エンドポイントとは、臨床試験の目的に対して、臨床的に最も適切で説得力の
ある証拠を与える指標や項目と定義されます。
エンドポイントは目的によって大きく2つに分けられます。
- 主要評価項目(Primary Endpoint):試験のメイン目標
- 副次評価項目(Secondary Endpoint):試験のサブ目標
これは分かりやすい概念かと思われます。
副次評価項目は主要評価項目を支持する補足的な項目であり、主要評価項目とは異なる視点から有効性を評価する項目でもあります。
また諸事情あって、主要評価項目に添えにくいけど大事な項目を入れたりもします。(しない?)
簡単な概念ではありますが、一応例をあげましょう。
・糖尿病
主要評価項目:HbA1c変化量
副次評価項目:空腹時血糖、血清インスリン、安全性など
・大うつ病性障害
主要評価項目:MADRS
副次評価項目:HAM-D、C-SSRS、CGI-S/I、安全性など
・COVID-19
主要評価項目:臨床的回復に要する期間
副次評価項目:亡くなった方の割合、安全性など
こんな感じですね。
イメージはつけやすいかと思います。
評価項目において重要なことは信頼性や妥当性が確立した項目であることです。
ビルテプソやラジカットの審査報告書の記事でも評価項目については取り扱いましたので、記憶にある方もおられるかもしれませんが、主要評価項目は製薬会社がてきとーに選んでよいものではありません。
特に主要評価項目は選択/除外基準により選択された患者集団に対して、
臨床的に適切で重要な治療上の利益に関する妥当で信頼のおける項目であることが十分に検証されていなければなりません。
そのため用いる評価項目の妥当性の根拠についても、明示する必要があるわけです。
まぁこの辺はPMDAとも治験相談ですり合わせておきます。
グダグダ書いてきましたが、すみません。
これまではただの前置きです。
次にこのエンドポイントを違った視点で見てみます。
真のエンドポイントと代替エンドポイント
今日の本題はこちらです。
エンドポイントには真のエンドポイントと代替エンドポイントという考え方があります。
まずはそれぞれ簡単にご紹介しましょう。
- 真のエンドポイント(True endpoint)
本来の治療目的に直結した評価項目 - 代替エンドポイント(Surrogate endpoint)
真のエンドポイントによる直接的観察が困難な場合に、代わりに用いられる評価項目
これはイメージがつけにくいですね。
では例をあげましょう。
先に上げた糖尿病における真のエンドポイントは何でしょうか?
あなたが糖尿病だったとして、治療を受ける本来の目的は何だと思いますか?
血糖を下げることではないはずです。
だって血糖を下げても、別に何か体調がすぐに良くなるわけでもないですからね?
そもそも糖尿病だからと言ってすぐに体調が悪くなるわけでもありません。
では糖尿病の真のエンドポイントは何でしょうか?(2回目)
糖尿病の真のエンドポイント、すなわち治療の目的は、
細小血管の合併症や動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)の発症、進展を予防し、健康な人と変わりないQOL(生活の質)や寿命を保つことです。
これを臨床試験で有効性の指標にしろというのは無理な話ですよね。
しかし上にあげた事象に関するリスクが2型糖尿病患者で高まることや、そのリスクが血糖コントロールを適切に行うことで減少することが分かっています。
つまり血糖をコントロールすれば、真のエンドポイントにつながるというわけです。
だから代替エンドポイントとして、簡易に測定できる血糖値の指標であるHbA1cを用いるのです。
もう一つ例を挙げると大うつ病性障害における真のエンドポイントは、抑うつ状態の改善やQOLの向上、社会復帰等になりますね。
この抑うつ状態の改善というものは非常に評価が難しいですよね。
だから評価スケールとして、MADRSやHAM-Dを代替エンドポイントに据えるわけです。
イメージは付きましたか?
ここで用いる代替エンドポイントについては、
疾患領域で認知されよく用いられており、臨床的意義に疑いがなく、そして当然として真のエンドポイントに関連するものでなくてはなりません。
何だか一般受けしない内容になってきた感じがしますが、もう少し続けます。
次にこの真のエンドポイントと代替エンドポイントがミスマッチした事例を1つあげましょう。
代替エンドポイントでやらかした事例
Cardiac Arrhythmia Suppression Trial(CAST)
これは有名なお話なのでご存じの方も多いかと思います。
1989年というかなり古い試験なのですが、この試験は3種類の抗不整脈剤を用い、心筋梗塞を発症した患者を対象に不整脈を抑えることで心血管系疾患により亡くなることを防ぐことが可能か否かを検討した試験になります。
この試験では心室性期外収縮を抑制するという代替エンドポイントは満たされたのですが、予後の改善は認められず、逆に亡くなった方の割合が増加するという結果となってしまったのです。
要は代替エンドポイントは満たされたのに、真のエンドポイントは満たされないばかりか、逆効果であったということです。
これでは主要評価項目で有意差を出しても、臨床的意義があるだなんて到底言えないわけです。
この問題は遠い過去の事例のように思えますが、しばし表に出てくる問題でもあります。
https://www.luna1105kablog.com/entry/toukei-clinical-trials
なお逆に代替エンドポイントで有意差が出せなかったにもかかわらず、真のエンドポイントで有意差が認められたという稀有な事例もあります。
新型コロナウイルスワクチンのエンドポイントの妥当性
さてエンドポイントについてはだいたいお分かりになりましたでしょうか?
今日のメインディッシュはこれで終わりなのですが、デザートにいきましょ。
冒頭に挙げた新型コロナウイルスに対するワクチンのお話です。
先行の3ワクチンのエンドポイントは感染予防効果でした。
これはワクチンの真のエンドポイントが感染予防だからです。
これを検証するために数万人規模の臨床試験が必要であったのは、いつか述べたとおりです。
では代替エンドポイントはないのでしょうか?
結論から述べますと、現状はありません。
ただ代替エンドポイントの候補としては抗体価が考えられています。
ワクチン接種により、どれだけ抗体ができたか、ということですね。
しかしこの抗体価と感染予防の関連については、十分に検証できていないのです。
すなわち、抗体価が高いからといって、感染を予防できるとは限らないわけです。
言い換えれば、抗体価が上がってもワクチンとして有用なものであるか分からないということです。
だから現時点においては、原則発症予防効果を見て欲しいと規制当局は述べているわけですね。
つまりアンジェスのようにまだ感染予防効果を見る前の段階では、土俵にすら上がっていないということなのです。
いずれ数万人規模で感染予防効果を確認するとおっしゃっていますので、一安心かと思いきや、なぜか間に500人で免疫原性を確認するとのこと。
代替エンドポイントとして抗体価が認められるのを待っていたりして?なんて考えも少しよぎりますが。
まとめ
今日はエンドポイントについて、考えてきました。
このエンドポイントというものは、試験を成功させるうえで大変重要な項目になります。
そして試験をハンドリングする上でも、非常に重要になります。
だって、主要評価項目で有意差出せなきゃ負けですからね?
限られた集団の中でちょこちょこやるのも私たちのお仕事なのです。
この辺書きすぎるとアレなので、やめときます。
ともあれ、ワクチン開発において、抗体価でいいじゃん!とはならないということがお分かりになりましたでしょうか?
別にアンジェスいじめたいわけではないのですが、釘は刺しておこうと思います。
あ?もう穴だらけですって!?