手軽に書けて、手軽に読める(と思われる)お薬の名前の由来シリーズ。
今日は2019年に承認された薬剤から何個かピックアップしました。
新薬なので、作用機序や豆知識的なことも加えてみました!
オンパットロ
AlnylamJapanのトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに対するお薬です。
あまり聞いたことのない疾患かと思いますが、いわゆる末梢神経障害でして、全身に様々な障害を来す病気です。
アンメットメディカルニーズど真ん中の疾患ですね。
名前の由来は「トランスサイレチン(TTR)のアミロイドタンパク質であるATTRが引き起こす疾患に対して投与(ON)するパチシラン(PATisiran)を組み合わせて「ONPATTRO(オンパットロ)」としたとのことです。
パチシランとはこの薬の一般名です。
TTRやATTRを活かさず、ONからとったのは分かりやすさを重視したのかもしれません。
名前としてはシンプルなのですが、日本人の発音的に、やや発音しにくいですね。
この会社は失礼ながら存じ上げておりませんでしたが、ニッチなところを攻めているよい会社だと思います。
今後も頑張っていただきたいです!
スインプロイク
こちらは塩野義さんのオピオイド誘発性便秘症に対する治療薬です。
オピオイドとはいわゆるモルヒネのような強力な鎮痛薬のことです。
つまりがんなどでモルヒネを使わざるをえないところ、副作用で便秘が出てしまった!
なんて時に使用するお薬ですね。
オピオイド誘発性の便秘には既存の便秘薬は効きにくいので、まさにアンメットメディカルニーズを満たすお薬になり得るのではないでしょうか。
名前の由来は「Control Symptoms of OIC(オピオイド誘発性の便秘をコントロールするという意味)」からです。
これはまた、すごいところから切り出しましたね。
バファリンじゃなくてバファスピとか言っていた私と、同じレベルのセンスでは?
でも、この英語に慣れているDr.にとっては分かりやすいのかもしれませんね。
名前の評判はどうなんでしょう?
セリンクロ
大塚製薬が開発したアルコール依存症に対する治療薬です。
作用機序の詳細は不明ですが、μ(みゅー)オピオイド受容体及びδ(でるた)オピオイド受容体に対しては拮抗薬として、κ(かっぱー)オピオイド受容体に対しては部分的作動薬として作用するらしいです。
拮抗薬はマイナス(ブロック)、部分作動薬はプラスマイナス(調節)のイメージですね。
導入元はCNS領域に強いルンドベックです。
武田さんの抗うつ薬トリンテリックスや大塚さんのエビリファイも導入元はルンドベックなんですよ。
日本ではややマニアックな会社ですが、日本法人もあります。
開発の方とお話したことがありますが、とても気さくな方たちでした。
さて、名前の由来ですが「Select, Increase and Control の 3 文字からなる造語」です。
このお薬を飲むと飲酒量を低減することにつながります。
飲酒量をコントロールする!みたいなイメージでしょうかねー?
タリージェ
タリージェは第一三共の開発した、末梢神経障害性の疼痛に対するお薬です。
糖尿病の方の合併症の一つに末梢神経障害があり、このお薬の需要はそれなりに高いのではないかと思います。
痛みはQOLに直結しますからねー
名前の由来は「Targeting を由来とした“Tar”、Ligand を由来とした“Lig”を組み合わせ、「タリージェ (Tarlige)」としたとのこと。
これは汎用的な由来ですね。どの薬にも当てはまりそうです。
ただこの薬剤は「電位依存性カルシウムチャネルのα2δ サブユニットに強力かつ特異的に結合するリガンド」であるため、あえてリガンドという言葉を強調したのかもしれません。
「舌足らずの3歳児が某コーヒーショップを頑張って読んだ感のある響き」です。
デエビゴ
以前ご紹介しましたが、名前の由来は「Day(日中)+Vigor(活力)+Go(ready to go)」からです
エーザイさんはCNS領域が得意な印象があります。
期待の星であるアルツハイマー型認知症のアデュカヌマブも頑張ってほしいですね!
デファイテリオ
日本新薬の開発した肝中心静脈閉塞症に対するお薬です。
日本新薬はアンメットメディカルニーズを攻める会社だなーと思います!
作用機序の詳細は不明ですが、アポトーシスの抑制、プラスミン活性増強等により血管内皮細胞を保護するようです。
名前の由来は「一般名であるDefibrotide」からです。
お名前の付け方はシンプルですね!
何となく読み上げたい名前だと思います。
トリンテリックス
こちらも以前ご紹介させて頂きましたね。
3 を意味する「tri」と、優れた抗うつ薬を意味する「brilliant」、「excellent」から「rint」と「x」を付けて命名しています。
CNSに力を入れ始めた武田さん渾身の新薬かと思います。
セロトニンの再取り込みを阻害し、シナプス間隙のセロトニンを増やすとともに、セロトニン受容体に対する直接効果もあるお薬です。
現在のところ同様の作用機序を持つお薬はありません。
個人的に、武田さんにはアンメットメディカルニーズど真ん中のナルコレプシーの新薬も期待しております。
CNS領域と言えば、手薄となっている「てんかん」についても積極的に進めて頂きたいところです。
こないだエーザイさんのてんかんの新薬も開発が頓挫してしまいましたし、TAK-935/OV935は負けないでほしいですね。
ノウリアスト
こちらは協和キリンの開発したパーキンソン病におけるウェアリングオフ現象の改善を目的とするお薬です。
パーキンソン病はバックトゥーザフューチャーの俳優さんが罹患している病気で有名ですね。
進行性の神経変性疾患になります。
完治させることはできずお薬でコントロールしていくことになりますが、病気が進むとお薬が効かなくなる時間帯が出てきてしまいます。
これがウェアリングオフです。
その現象を改善することを目的としているというわけです。
名前の由来はNourishment(滋養)とAssist(援助する)とを組み合わせて命名したとのこと
てっきり脳のアシストかと思っていましたが、ちょっとひねっていましたね!
FF7はすぐ買うべきかなー?
パーキンソン病も原因が明確でない疾患の一つです。
CNS領域の疾患は脳の炎症が原因ではないかという説もあります。
以前学会で聴講してきたので、今度記事にしてみようかと思います。
ムルプレタ
塩野義さんが開発した血小板増加薬です。
適応が「待機的な観血的手技を予定している慢性肝疾患患者における血小板減少症の改善」というマニアックな形となっています。
作用機序はヒトのトロンボポエチン受容体(TPO受容体)を刺激するとのことです。
名前の由来は「Mulpleta = Multiply(増やす,増加させる) + Platelets(血小板)」からです。
名前はシンプルで分かりやすいですね!
まとめ
2019年の新薬から一部を抜粋して紹介しました。
最近は神話からとったとか、そういう洒落たのはあまりないのですかね?
どれも納得のいく正統派の命名でした。
本当は塩野義さんのAD/HD治療薬ビバンセも、名前の由来がてら紹介したかったのですが、名前の由来が見つからず断念しました。
流通に制限のある特徴的なお薬なのですよ。
制限がありすぎて、患者さんに行き届かないなんてことにはならないとよいのですが。
私は基本的にインタビューフォームから調べるのですが、紹介したいお薬に限って、名前の由来が「なし」だったりします。
なんだかちょっと寂しい。
インタビューフォームを作成される方は、ぜひお名前の由来をきちんと書いていただけると嬉しいです!