るなの株と医療ニュースメモ
株や医薬品関連ニュースに一歩踏み込みます!
COVID-19関連

レプリコンワクチン、コスタイベの真実1!【審査報告書】

このブログも放置することはや2年になりますが、某素人倫理学会がレプリコンワクチンについて戯言を抜かし、SNSを沸かせておりましたので、ひとつ釘を刺しておこうと筆をとりました。

 

一番わかりやすく、かつ日本語で記載された資料として、レプリコンワクチンであるコスタイベ筋注の審査報告書をもとに、この新しいmRNAワクチンについて、気になるところを見ていきましょう。

本記事は前編としてレプリコンワクチンの特徴や残存性について軽く解説します。

後編は気が向いたら、臨床データパッケージや有効性/安全性を見ていきましょ。

 

なお本記事は業界外の方でも理解できるように、多少表現を丸めている部分もあります。

詳しくはおおもとの審査報告書をご覧ください。

無料で誰でも閲覧することができます。

 

 

 

 

COVID-19の現状

まずはSARS-CoV-2/COVID-19の現状について復習しましょう。

SARS-CoV-2 は、ニドウイルス目コロナウイルス科に属する一本鎖プラス鎖RNA ウイルスであり、2019 年に新たにヒトに感染し、病原性を示すコロナウイルスとして同定されました。(Lancet 2020; 395: 565-74Nat Microbiol 2020; 5: 536-44 等)

⇒コロナウイルスは実在しない派の方々はここで退場してください。ここまで読めただけでもキミたちにとっては満点です。

 

このSARS-CoV-2 による感染症が「COVID-19」ですね。

COVID-19は20201月にWHOにより国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International ConcernPHEIC)に該当するとされ、2023825日までに世界で 7.7 億人超が感染しました。いっぱい!

202355日には上記のPHEICの終結が宣言されております。

しかし、現在も SARS-CoV-2 の流行は続いており、感染性、伝播性等が変化した変異株の出現や、既感染者であっても再度感染する可能性があること、一部の患者には後遺症の報告もあり、SARS-CoV-2 の感染症への対応は依然として必要な状況であると言えます。

ワクチンの開発や接種推奨もこのような背景をもとに、続いているわけですね。

コスタイベ(レプリコンワクチン)とは?

コスタイベは、SARS-CoV-2 による感染症(COVID-19)の予防を目的としてアメリカの Arcturus Therapeutics 社によって開発された自己増幅型 mRNA ワクチンで、脂質ナノ粒子(LNP)で製剤化されています。

簡単に言うと壊れやすいmRNAを脂肪の膜で包んであげている製剤。ということですね。

この基本構造は大事ですので、覚えておいてください。 

 

さて、もう少し細かく見ていきましょう。

コスタイベの中心となる、いわゆる原薬は mRNA-2105(成分名:ザポメラン)と言います。

mRNA-2105は、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)由来のレプリカーゼタンパク質nsP1nsP2nsP3 及び nsP4)及び SARS-CoV-2(起源株由来)の S タンパク質全長(S1 及び S2)をコードする自己増幅型 mRNA となります。

 

…何言っているか、よくわかりませんね?

ここは一度、既存のmRNAワクチンの作用機序に立ち戻るとよいでしょう。

例えば、ファイザーのコミナティは「コロナウイルス修飾ウリジンRNA ワクチン」であり、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードするmRNAを有効成分とするワクチンです。

簡単に言えば、mRNAが細胞内でSタンパク質を生成させ、それに対する抗体をつくらせることで、予防効果を発揮させるというわけです。

なおヒトの細胞にはRNAをDNAに変換する逆転写酵素はありませんので、一般的人類であれば、mRNAウイルスが遺伝子に影響を与える可能性はありません。

 

では、レプリコンワクチンは既存のmRNAワクチンとは何が違うのでしょうか。

レプリコンワクチンにはウイルスのSタンパク質をコードする遺伝子に加えて、コピー機の役割を担うレプリカーゼをコードする遺伝子も含まれているのです。

だから、「自己増幅型」と言われるのですね。

簡易まとめ

・mRNAワクチンはSタンパク質を作らせ、それに対する抗体が産生されることで免疫がつく

・レプリコンワクチンはSタンパク質をコードする遺伝子だけでなく、コピー機能を持つレプリカーゼをコードする遺伝子も挿入されている

自己増幅の制御/体内動態

mRNAが自己増幅!?こわーってなる方がいます。

もちろん、無限に自己増幅して大変なことになる。なんてことはありません

データとともに見ていきましょう。

 

まず構造から改めて見てほしいのですが、

mRNA-2105 のレプリコンが VEEV (ベネズエラ馬脳炎ウイルス)に由来しているのは、先に述べたとおりです。

mRNA-2105 では、「VEEV では構造タンパク質をコードする配列」を「S タンパク質をコードする配列」に置換しています。

そのため、コスタイベの投与で「感染性ウイルス粒子は産生されません

脳炎ウイルス云々は原理上ありえない。

またこちらも先に述べましたが、逆転写酵素を欠くため、ヒトの DNA に mRNA-2105 の配列が挿入される心配もありません

 

ここまでは簡単かなと思います。

次にコスタイベが体内でどういう経過をたどるか?を考えてみましょうか。

コスタイベは、壊れやすいmRNA-2105 を LNP 製剤化したもの(脂肪の膜で保護してあげている)ということは覚えていますか?

 

コスタイベの筋肉内投与後は、主に投与部位の筋細胞及び抗原提示細胞にエンドサイトーシスにより、ぱくっと取り込まれると予想されています。(Vaccines (Basel) 2019; 7(4): 122、Vaccines (Basel) 2021; 9(2):147 等)。

その後LNP から細胞質内に放出された mRNA-2105は、VEEV レプリカーゼの複製機構により増幅し、細胞内リボソームによって S タンパク質抗原が翻訳される結果、期待される効果が得られるわけです。

そして細胞内で増幅した mRNA 及び翻訳タンパク質については、細胞内ヌクレアーゼ及び細胞内プロテアーゼによって分解・除去されると考えられています。(Vaccines (Basel) 2021;9(2):97)。

通常、投与された mRNAは、弱っちいので、生体内の核酸と同様に速やかに代謝されますが、LNPに封入することでmRNA が代謝されることなく細胞内に取り込まれることができるようになったのです。

これは言い換えれば、LNP に封入した mRNA の体内動態は、封入される mRNA ではなく、主に LNP の組成や粒子の大きさに依存するというわけです。(Mol Ther Nucleic Acids 2019; 15: 1-11、Nanomedicine (Lond) 2016; 11: 673-92)。

 

はーい。むずかしー。ので簡単に考えて。

・mRNAは速やかに代謝される。

・だからLNPで保護してあげている。

・つまり中身(mRNA)ではなく包んでいる膜(LNP)によって、どこに運ばれて、どうやって消えていくかが決まる」というわけ。

 

残存性のデータ

さて、このワクチンの体内動態がLNPに依存するということについて、お話してきました。では、実際のデータを見てみましょう。

 

薬物動態の参考資料として、マウスに、レプリカーゼとルシフェラーゼをコードする mRNA(LUCsamRNA)及びルシフェラーゼのみをコードするmRNA(LUC-mRNA)を LNP51)に封入して投与した際の残存性を評価した非臨床薬物動態試験が提出されています。

ルシフェラーゼは、簡単言うと標識ですね。

mRNAがどこに行ったかなんて、見えないわけですので、標識がないと行方不明になるのです。

要は「ワクチンに標識(マーカー)をつけたうえで、レプリカーゼありとなしの残存性を確認している」というわけです。

 

結果を見てみましょう。

あー。よくわかんない。と思うかもですが、シンプルな図です。

左の折れ線グラフを見ましょう。

縦軸はmRNAの量、横軸は時間と考えてください。

右の棒グラフは見なかったことにしていいですよ。

 

まずグラフ全体を見ると、筋肉内投与後、投与部位における両RNAの濃度は経時的に減少していることがが分かるかと思います。

ほら。線がさ、右斜め下に向かっていますね?

 

次に10 μg又は50 μgいずれの投与量でもLUC-mRNAと比較してLUC-samRNAの方が投与後8日目まで高い濃度を維持していました。

横軸真ん中のところ。赤と青のがグラフの上側にいるよね?

レプリコンワクチンのがよく残っているんだ。

 

しかし、投与8日目以降は両RNAともに筋肉内濃度は減少し、15~30日目はわずかに検出されるのみとなっていますね

グラフの右はじっこ。みんな一緒になっているよね?

レプリコンワクチンも消えちゃったんだよ。

 

つまり!

・筋肉内投与後、数日程度の短期間においては、レプリコンを含むsamRNAは、レプリコンを含まない場合に比べ組織中濃度が高く維持されている

・一方、投与後2週間~1カ月程度経過後には組織中RNA濃度はレプリコンの有無によらず著しく低下している!ということです。

これはレプリコンをコードすることで生体内での残存期間がレプリコンを含まないRNAよりも顕著に延長することはないと考えられるデータになるというわけですね。

これはとても分かりやすいデータかなと思います。

 

おまけ:有害事象の持続期間の比較

あんましピンとこない人のために、有害事象の持続期間についても加えておきます。

国内第Ⅲ相試験(ARCT-154-J01試験)で用いられた実薬対照はファイザーのコミナティになります。なんで実薬対照で試験しているの!とか、発症予防ではなく免疫原性を見ている。とかは以前コミナティの記事など解説していますので、省略します。

知っての通り、コミナティはレプリコンを含まない「普通の」RNAワクチンです。

1回接種あたりのRNA量が異なるため(コスタイベ5 µg、コミナティ30 µg)が異なるため、非臨床試験のように厳密なRNA接種量をそろえたレプリコンの有無別での比較はできないのですが、発生した特定有害事象の持続期間を比較したデータがあります。

何が言いたいのか?というと

臨床試験の特定有害事象の持続期間について、コスタイベとコミナティの群間に明らかな差は認められていないということです。

つまり「レプリコンを含むことで、副反応の症状が既承認RNAワクチンと比較して著しく持続又は延長する可能性は低い」と考えられるわけですね。

 

なお、安全性がより向上したか?については、審査報告書上のデータから読み取れませんでした。

特定局所有害事象の紅斑、腫脹、硬結など一部の事象については、発現割合がコミナティ群より低い値を示してはいるのですが、重症(Grade 3以上)での割合には特段の差は認められておらず、臨床的な意義がある差とまではいえないと機構も述べています。

レプリコンワクチンが既存ワクチンより安全性に優れる。という点は、まだ言い切れる段階にはない。というのが私の見解です。

 

さくっとかけたのはここまで。

あとはまた後日気が向いたら!

追記:中編は下記になります

レプリコンワクチン、コスタイベの真実2【審査報告書】本記事はレプリコンワクチンであるコスタイベについて解説した中編記事です。 前編ではレプリコンワクチンの概要や自己増幅性の制御、残存...