精神病治療薬に貼り薬(経皮吸収製剤)があるのはご存知ですか?
昨年秋に大日本住友製薬より、統合失調症治療薬として世界初の経皮吸収製剤「ロナセンテープ」が販売開始されました。
「貼り薬なんて他にもあるじゃない。何をそんな騒ぐ必要があるの?」と思われる方もおられるかもしれませんが、この系統の薬剤としては世界初となります。そしてこの疾患だからこそ、意義が大きいのです。今日はそのあたりについて考えてみたいと思います。
経皮吸収であることの意義:コンプライアンス (アドヒアランス)の向上
統合失調症は再発が多くみられます。その原因の一つが薬の服薬を途中でやめてしまうこと、つまり「服薬コンプライアンスが悪いこと」です。
飲み薬が嫌でも貼り薬なら服薬を続けられるという人はおりますし、そもそも「貼り薬」という治療の選択肢が増えることが、患者さんの治療に対しての納得度向上に寄与して、「服薬コンプライアンスが良くなる」との報告もあります。
飲み薬と違って、貼り薬は薬の「服薬状況が目に見えるという利点」もあります。ご家族の方も服薬管理がしやすいのではないでしょうか。
だったら何でも経皮吸収にしたら?って思われる方もおられるかもしれませんが、吸収率を考えるとなかなか難しいのが現状です。
特に精神科系統のお薬は用量調節が重要ですので、手を出しにくい分野だと思います。
ちなみに服薬状況といえば服薬コンプライアンス(医療従事者側の目線)という言い方が、まだ臨床開発の現場ではまだ主流かと思いますが、臨床現場ではアドヒアランス(患者側の目線)という言葉が一般的になりつつありますね。
私も学部の授業でそんなことを言われた記憶があります。数年前なのでおぼろげな記憶ですが。
飲み薬(経口投与)以外の精神病治療薬としては、他社ですがエビリファイメンテナ(アリピプラゾール:大塚製薬)という月1回の持続性注射剤もあります。エビリファイは双極性障害の適応だけではなく、大うつ病の適応も取得しております。大塚さんは育薬が本当に上手ですね。
特許切れを補う、剤型追加
特許については別の記事で取り扱う予定ですが、剤型を変更すれば、その剤型で特許を取得(※物質としての特許ではない)できますので、ジェネリック医薬品との差別化ができます。
それってずるいと思いますか?
先発医薬品メーカーが数多くの失敗のもとやっと生み出した医薬品です。
それをより患者さんのQOL向上のために改良したのですから、それは大変意義のあることだと思います。
私、個人的にジェネリックがあまり好きではないので、ぜひ画期的な医薬品を開発している先発医薬品メーカーさん頑張ってね!!という気持ちもあります。
参考:用語のまとめ
定型・非定型、抗精神病薬・向精神薬みたいに、なんだかこんがらがる用語が多いので、簡単にまとめました。
・向精神薬:中枢神経に作用し精神機能(心の働き)に影響を及ぼす薬物の総称
・抗精神病薬:主に統合失調症治療薬のことを指す
・定型抗精神病薬:第1世代の抗精神病薬、ドパミン抑制作用のみ持つ(古い薬)
・非定型抗精神病薬:第2世代の抗精神病薬、陽性症状にも陰性症状にも作用する(新しい薬)
ロナセンテープは「非定型抗精神病薬」ですので、簡単に言えば「新しい系統の統合失調症治療薬」ということですね。