うつ病は「こころの風邪」と言われるようになりました。精神科というとハードルが高く、縁遠いものだと考えていましたが、ストレスの多い現代社会において、うつ病のような精神疾患は意外と身近なものなのかもしれませんね。
さて、そのうつ病の治療薬(抗うつ薬)についてですが、昨年末に武田薬品工業からトリンテリックス(ボルチオキセチン)という新規作用機序の抗うつ薬が販売開始されました。この薬はどれくらい効くのでしょうか。これまでの抗うつ薬を蹴散らすほど強い薬なのでしょうか。
抗うつ薬の歴史は古く、既存の抗うつ薬も多種多様であり、何が効くのかどれが良いのか、迷われる方もおられるかもしれませんので、新規抗うつ薬トリンテリックスの紹介と併せて、一つ文献を紹介させて頂きます。
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うつ病の治療ガイドラインには何て書いてあるの?
まずは医師が治療の際に参考にするガイドライン「日本うつ病学会治療ガイドライン」には何て書いてあるか見てみましょう。ちなみにこのガイドラインは私たちのような一般人でも閲覧することが可能です。
このガイドラインには次のように書かれています。
「このガイドラインでは治療アルゴリズムを作成しなかった」
「多数の論文、国内臨床試験の結果を総合して、薬剤間の有効性、忍容性に臨床的に明確な優劣の差はない」(※ここでいう「薬剤間」というのは三環系等を除いた比較的新しい薬になります。)
要はガイドラインにも「どの薬を一番初めに使いましょう!」みたいなことが具体的に書かれていないということです。他の疾患よりかは複雑ですね。
抗うつ薬の比較研究について
Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis
さてガイドラインでは結局どの薬が一番良いのかわかりませんでした。ここで本題である抗うつ薬の比較研究の論文を紹介しましょう。この論文は一昨年の新聞でも紹介されていましたので、記憶にある方もおられるかもしれません。
内容はいわゆるネットワークメタアナリシスに基づく、論文の系統的レビューになります。「なによそれ?」となるかと思いますが、簡単に言えば、色々な臨床試験の結果を直接、間接含めて比較してみて、抗うつ薬の順位をつけてみたよ!!ということです。この論文では522の臨床試験、21の抗うつ薬について比較研究が行われました。
その結果、最も飲みやすく効果があるとされたのが、武田薬品工業の新規抗うつ薬トリンテリックスでした。ちなみに2位は持田製薬のレクサプロ(エスシタロプラム)です。
新規抗うつ薬トリンテリックスと株価への影響
大絶賛されたトリンテリックスですが、既に海外で既に広く使用されており、日本では治験失敗を乗り越えて、ようやく承認にこぎつけた薬剤です。
トリンテリックスはセロトニンの再取り込みの阻害だけではなく、セロトニン受容体を直接刺激するという既存の抗うつ薬と異なる作用機序を持ち、副作用も少ないことから、日本でも広く使用されていくのではないかと考えています。
認知機能(集中力低下や作業記憶の低下)を改善するとの報告もあるため、社会復帰を早める可能性も示唆されていますね。
抗うつ薬の市場規模はそこそこありますが、武田薬品工業の業績を激変させる程の力はなく、株価には大きな影響を与えていません。とはいっても、CNS領域に力を入れている武田さんとしては、日本における待望の一手だったかと思いますので、ぜひこれに続いて、さらなる画期的な新薬の開発を進めていって頂きたいですね(。・∀・。)
ちなみに武田さんはシャイアー買収に多額の借金をしていましたが、今年は無事に黒字化できる予想を立てています。ただタコ配が続いていますので、私としては購入は様子見中です。
まとめ:じゃあトリンテリックスが一番いいの?
上記の論文における結果では武田薬品工業のトリンテリックスが一番よい薬でした。
でもこれはあくまでも一つの論文における結果であり、「完全なる答え」ではありません。どの抗うつ薬が効くかは一概に述べることが難しく、実臨床におけるDr.の経験に基づく処方が重要となります。
ただしうつ病の治療における薬物療法は治療の中心ではなく、医師やカウンセラーとのお話が最も重要になると言われています。ですので、そのクリニック、その先生が自分に合うか合わないかが一番重要ということですね。
ただ薬物療法の効果を見極めるには1-2か月かかります。症状の改善が見られないからと言って、すぐに通院しなくなることは良くないことだと思いますので、その点は考慮しておくべきではないでしょうか。
(参考
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32802-7/fulltext
)
おまけ:トリンテリックスの名前の由来
うつ病の症状である精神症状・身体症状・認知機能の 3 面に好影響が期待できることから、3 を意味する「tri」と、優れた抗うつ薬を意味する「brilliant」、「excellent」から「rint」と「x」を付けて命名されたそうですよ。海外ではブリンテリックスという名前でしたが、他の薬剤名と似ていたため、名称変更されました。ちなみにブリンテリックスはブリリアントから名づけられました。
昨日からCSSやHTMLを勉強し始めました。ブログはただ文章を書くだけではないのですね。何か変なところがありましたら、勉強中ということでご勘弁ください><