COVID-19に対して間葉系幹細胞を用いた治療が進んでいるとか、遺伝子治療薬のゾルゲンスマが1億を超える薬価がついたとか、再生医療等製品が脚光を浴びています。
でもそもそも再生医療等製品ってどんなものかはご存知ですか?
今日は再生医療等製品の定義やどんなものが含まれているのか、どんな課題があるかについて見ていきたいと思います。
Contents
再生医療等製品ってなに?
再生医療等製品と聞いて、何を思い浮かべますか?
再生医療と言ったら、臓器を再生させたり、細胞を投与して組織を再生させたりするイメージの方が多いのではないでしょうか。
それは間違ってはいませんが、再生医療等製品の「ほんの一部」しか見ていないということになります。
そもそも「再生医療製品」ではないのです。
再生医療「等」製品なのです。
この「等」に色々含まれているのです。
では、厳密なる定義を見てみましょう
再生医療等製品の定義
再生医療等製品は、以下に掲げる製品であって、政令で定めるものをいいます。
思っていたより、範囲が広かったのではないでしょうか?
恐らく、一般に考えられているのは、上記の「(1)イ」の項目ではないかと思います。
つい先日ニュースとなった、iPS細胞による網膜の再生の臨床研究もこれに該当しますね。
それ以外にも細胞自体を投与して疾病の治療や予防を行うものがあります。
これは例えば、最近ニュースになったロート製薬のCOVID-19治療に用いる細胞製品等が該当しますね。
そして遺伝子治療については、色々と有名なアンジェスのコラテジェンや、超高額薬として世間をにぎわせたノバルティスのゾルゲンスマが該当します。
このように組織の構造や機能を再建したり修復したりするようなもの以外にも、再生医療等製品のカテゴリーに含まれるものは多いのです。
ちなみに再生医療等製品の治験における、「治験薬」のことは「治験製品」と呼ばれることが多いですね。
最近のトレンド
別途ご紹介させて頂こうかと思いますが、現在(2020/6/17)、日本において再生医療等製品は9製品承認されています。
日本が再生医療に力を入れていることもあり、割と積極的に開発が進められている印象がありますね。
この項目では最近のトレンドについて、AMEDの資料をもとに簡単にご紹介させて頂きます。
細胞の由来と傾向
細胞製品は大きく分けて自家細胞由来や他家細胞由来があります。
自家細胞とはその名の通り、自分からとってきた細胞を使う方法です。
患者さん自身からとってきたので、基本的には免疫拒絶されることがなく使いやすい細胞です。
ただし、いわゆるオーダーメイドになるので、時間的/金銭的コストが非常に高いです。
他家細胞はその逆で、他の人からとってきた細胞を使う方法です。
メリットデメリットは単純に自家細胞と逆で、他人の細胞なので免疫反応のリスクがありますが、オーダーメイドではないため、作成の時間的/金銭的コストは大幅に低くなります。
ただし、通常の医薬品と比較して、製造に手間やコストがかかるのは変わりません。
細胞製品としてはどちらが人気だと思いますか?
時間的/金銭的コストが低い他家細胞のほうが人気なのでしょうか?
上市品や開発中の品目を見ると、実は自家細胞の方が多いのです。
ただしがん治療以外では他家細胞が多いです。
少し異なった視点でまとめると、「細胞治療のターゲットは癌が圧倒的に多く、癌に対しては自家細胞を用いることが多いので、全体としては自家細胞による開発がトレンドということ」です。
細胞の種類と傾向
自家と他家というのは細胞の由来による分け方です。
他にも細胞の種類による分け方がありますね。
例えば有名なES細胞やiPS細胞、間葉系幹細胞、免疫細胞といった分け方です。
これらのうち、最も開発されている細胞は何だと思いますか?
iPSだと思われる方が多いのではないかと思います。
しかしこれらの中ではiPS細胞はかなり限定的な開発にとどまっています。
日本ではノーベル賞を受賞されたこともあり、非常に有名で報道も盛んにされていますが、世界に目を向けるとそこまで開発が進んでいるわけではないのですね。
これにはiPS細胞の造腫瘍性が懸念されているからではないかという意見もありますが、詳細なところは分かりません。
山中教授は特許については限定されないようにされているので、権利関係の問題ではないような気がしますが、どうなのでしょうか?
「現時点では」というお話であり、最近はアメリカでもiPS細胞の研究が本格化しつつあるので、今後は勢力図が変わっていく可能性もあります。
なお最も開発が進んでいるのが免疫細胞で次に間葉系幹細胞が続きます。
ES細胞は倫理的な側面もあり、iPS細胞と並んであまり開発品は多くないですね。
ちなみにiPS細胞のiが小文字なのはなぜかご存知ですか?
これはiPodのように世界に広まってほしいという山中教授の願掛けが込められているのです。
現状はなかなか厳しいところですが、今後研究開発が進んでいくといいですね。
遺伝子治療
遺伝子治療の領域では癌に対する開発品が圧倒的に多いですね。
参考文献の定義を借りて3つの区分に分けて簡単にご紹介すると下記のとおりです。
・In vivo遺伝子治療
目的遺伝子を搭載した遺伝子治療薬を投与(いわゆるプラスミド等)することです。
日本の承認製品ではアンジェスのコラテジェンやノバルティスのゾルゲンスマがこれにあたりますね。
世界では上記含めて6製品承認されています。
・Ex vivo遺伝子治療
遺伝子を導入した細胞を投与することです。
日本では承認されているものはありませんが、世界では5製品承認されています。
・In vivoウイルス治療
遺伝子組み換えウイルスを投与することです。
日本で承認されているものはありませんが、世界では2製品承認されています。
日本では1製品が2017年より治験中です。(アムジェンのIMLYGIC)
再生医療等製品の先駆け審査指定を受けているものではオンコリス(中外)の「腫瘍溶解性ウイルスOBP-301」といったものがありますね。
オンコリスは割と好き。
参考:がんウイルスワクチンってなに?先駆け審査指定医薬品のその後③(OBP-301:オンコリス→中外)
近年の技術の進歩(ベクターの進歩など)で遺伝子治療の安全性が向上しており、今後はもっと身近なものになっていくのではないかと個人的には考えています。
今後の課題
再生医療等製品における今後の課題について、私見をまとめてみました。
製造コストの問題
低分子医薬品と比べると当然製造コストは高くなります。
高いと言われている抗体製剤と比較しても高コストとなることがほとんどです。
自家細胞なれば時間的なコストも含めて、製造コストは急増します。
抗体製剤が出始めた時にも問題となっていたようですが、培養ラインの効率化や自動化など、効率性を向上させていかなければならないと思います。
ちょっと前にサンバイオのSB623について、製造部分で問題が生じていましたね。
コストも当然ですが、一定の品質を保って製造することができるラインを構築していくことは、なかなか骨の折れる作業かもれません。
安全性の向上
遺伝子治療については、ターゲット以外の細胞に導入されてしまった場合、癌化の恐れがないわけではありません。
ターゲット選択性の向上が必要だと思います。
他家細胞については前述のとおり、免疫拒絶反応の恐れがあります。
細胞のHLAをノックアウトする等の対策や技術の向上が必要になるかと思います。
また一部の製品で懸念されているようなサイトカインストームを抑えることも重要となりますね。
保存/運搬などの利便性について
細胞投与する場合はその製品の性質上、保存や運搬の方法が限定されます。
凍結されたものを溶かして、クリーンベンチや安全キャビネット内で輸液バッグに混合して、投与に至ったりするわけです。
つまりその辺のクリニックで対応することは難しいですね。
このあたりの利便性も課題になるかと思います。
費用対効果
これが個人的には大変疑問ではあるのですが、高額な薬価がついたとして、それに見合う効果が見いだせるのでしょうか。
対象疾患が希少疾患になることも多く、一概に費用対効果を論じることが難しい側面もありますが、様々なリスクとコストをベネフィットを比較して、果たして有用となるのかどうかは議論していかなければならないと思います。
日本での承認された9製品につきまして、別途ご紹介させて頂こうかと思いますが、有効性について微妙な製品が多くあると個人的には考えています。
売り上げの問題
これは私が気にすることではないかもしれませんが、例えばアンジェスのコラテジェンは1バイアル約60万円という薬価「しか」つきませんでした。
対象患者も限られていますし、おいそえと使える薬ではありません。
果たして開発費は回収しきれるのでしょうか。
コラテジェンの効果について、ここで言及して議論はしませんが、せっかく開発して上市したのに、開発費もペイできないのであれば、開発する意義が薄くなります。
このあたりの金銭的なフォローをしてほしいなーとも思います。
・・・まぁ効果が微妙な薬についてどこまでフォローしてあげるかは議論が残るところではありますねー
まとめ
今日は再生医療等製品の概要や課題について、簡単に俯瞰して見てきました。
一口に再生医療といっても色々あることが、ご理解頂けたでしょうか。
今後機会がありましたら、日本で承認されている9製品や現在先駆け審査指定制度で指定されているような開発中の製品についてご紹介したいと思います。
参考
・AMED:2019年度 再生医療・遺伝子治療の市場調査 最終報告書
令和元年度(2019年度) 再生医療・遺伝子治療の市場調査 | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。