これまで当たり前のように第Ⅰ相だとか第Ⅲ相だとか臨床試験の相(フェイズ)を挙げてお話を進めてきましたが、そういえば一度も全体を俯瞰したことなかったなーと思い、今日は改めて取り上げてみたいと思います。
臨床試験の各相において何を目的にどんな試験が行われるのか、そこにはどんなポイントがあるのか、簡単に見ていきましょうー!
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第Ⅰ相試験の概要(P1試験:臨床薬理試験)
第Ⅰ相試験は一般的に健常人男性に対して治験薬を投与して、安全性や薬物動態(ADME:体内における薬の挙動)を確認する試験ですね。
人に初めて治験薬を投与することになるため、非臨床試験の結果を踏まえて、投与量を慎重に判断した上で投与されます。
例外的に抗がん剤等の副作用が強い薬剤は、第1相時点で患者さんを対象に実施することもあります。
また女性疾患を対象とした薬剤の場合は、男性ではなく女性を対象とする場合もあります。
日本ではだいたい第Ⅰ相専門のクリニックや病院で実施されることも多いですね。
意外なケースとしては、海外に留学している日本人を対象に現地で実施したりするケースもあります。
メモ:第Ⅰ相試験における大きな事故の話
ヒトに初めて投与するという特性上、下手なことをすると大きな事故につながることもあります。
そんな大きな事故をまとめたのが下記になります。
近年の臨床試験(治験)における3件の重大事故について見てみよう!(TGN1412/BIA10-2474/E2082) – るなの株と医療ニュースメモ
第Ⅱ相試験の概要(P2試験:探索的試験/用量設定試験)
第Ⅱ相試験では、少人数の患者さんを対象として、薬の有効性と安全性、使い方(投与量、投与間隔、投与期間等)を確認する相になります。
ここで用法用量を検討したり、今後の対象患者層を見極めていきます。
目標とする効果に対して、探索的にアプローチするところというわけです!
基本的には相手となるのはプラセボ(偽薬、効果のない薬)で、二重盲検無作為化(ランダム化)試験での実施となります。
二重盲検というのは患者さんも医師も薬が治験薬かプラセボか分からない状態ということです。
無作為化というのはランダムに割り付けるということです。
この患者さんは効かなそうだから、プラセボに割り付けしちゃおうとかはしないということです。
抗がん剤の試験等、一部の試験では対照薬に実薬を据えることもあります。
普通の試験だとなかなかありませんね。
既存薬に勝つというのは想像以上に難しいのです。
あと既存薬の調達にかなり苦戦します。
日本の「通例上」既存薬を市場で調達することはマナー違反となっていますので、他社に作ってもらわないといけないのですが、まぁその、なかなか難しいところです。
今後の試験の方向性がここで決まります。
選択基準や除外基準等も含めた多くの重要な項目を決定づける試験となるのです。
ここでこけると医薬品の開発が危ぶまれると個人的には思います。(こけなくても躓くだけでも黄色信号)
そのためエリート施設で治験を行うことが多いのですが、「上手くやりすぎてしまう」と、今後行う第3相試験と結果に乖離が出てしまうことがあります。
つまり対象となる薬に合う患者さん、試験に適する患者さんを「選びすぎる」と試験が大成功してしまうのです。
ただそれは少数のエリート施設だからこそできる芸当なのです。
次の相で対象施設を広げた場合、同じ選択除外基準でも結果に差が出ることがままあります。
不思議な悩みですよね。
あ、悩んでいるのは私だけかも(笑)
でも海外のP2大成功して、すっごい薬だって期待して導入して、P3でこけましたなんていうのは、このあたりが関係している気がします。
メモ:POC(Proof of concept)
よくPOC(ポック)試験なんて言われますが、Proof of conceptの略です。
日本語だとコンセプトの証明、概念の証明だなんて感じで訳されると思いますが、医薬品開発においては「有効性の実証」ととらえてよいかと思います。
要はその薬のタマゴが薬としてやっていけそうかということを証明する試験ということですね。
一般にこの第Ⅱ相試験までにPOC試験が含まれる形となります。
第Ⅲ相試験の概要(P3試験:検証的試験)
多くの患者さんを対象として、薬の有効性と安全性、使い方(投与量、投与間隔、投与期間等)を検証する相になります。
ここで有効性や安全性を検証し、そのデータとこれまでのデータを総合して、PMDAに申請するのです。
一般的には、承認までの最後の関門たる部分といってよいかと思います。
前相と同じく、基本的には二重盲検無作為化(ランダム化)試験での実施となります。
有効性は当然として、副作用も重要になりますね。
いや言い方を変えると有効性と安全性、リスクとベネフィットのバランスが重要となるということです。
別途、長期投与試験が含まれることもあります。
この相は大規模な試験となりますので、万が一ここでこけるととんでもないお金と時間を失うことになります。
そのためにも前の相の段階で「戦略的撤退」をすることも大事な選択肢の一つなのです。
有効性で有意差が出たとしても、リスクとベネフィット、そして市場も鑑みて先に進むべきかの経営判断は極めて重要です。
その薬の開発を諦めることが全て患者さんの不利益につながるとは限りません。
有効性が芳しくない薬や安全性に欠ける薬が上市されることのほうが不利益となることもあります。
そしてそのような薬の開発に時間とお金をかけること自体が、他の薬の開発の妨げになり、結果として患者さんの不利益につながるかもしれません。
携わってきた薬がぽしゃってしまうことは、耐えがたいことではありますが、時には引くことも大事なのかもしれませんね。
薬の開発に熱意が必要なのは絶対ではありますが、同時に冷静で客観的な視点も必要だと私は思います。
メモ:医薬品の承認申請から販売開始までの流れ
この相が終わると承認申請となりますが、その流れについては以前簡単にまとめましたので、下記を参照ください。
医薬品の承認申請から販売開始までの流れとは?一般的な流れを解説 – るなの株と医療ニュースメモ
第Ⅳ相試験の概要(P4試験:製造販売後臨床試験)
医薬品の市販後調査(PMS)の一種であり、すでに承認されている医薬品に対して、引き続き有効性や安全性、適切な使用法などを検討するために行われる試験です。
これまでは承認前のお話でしたが、こちらは承認後のお話というわけですね!
この結果やその他の市販後調査、自発報告等をもとに、医薬品の再審査が行われます。
この試験は承認後の試験ということもあり、軽くみられる方もおられますが、薬は承認をとっておしまいというわけではありません。
承認というのはあくまで「仮免許」なのです。
いきなり首都高を爆走しないようにちゃんとフォローしていかなければなりませんね。
ちなみに私は免許を持ってはいますが、ぺーぺー・・・じゃなくてペーパードライバーです。
駐車もできませんし、車体間隔?も良く分かりません。
せめて座席が真ん中にあればいいのになー。
あと道にも迷いますしね。
免許証は身分証なのです!
製造販売後臨床試験と似たようなもので一般使用成績調査、特定使用成績調査というものもあります。
これらは試験ではなく、「日常診療の中での調査」というところがもっとも大きく異なるところです。
メモ:一般使用成績調査
通常診療において、医薬品を使用する患者の条件を定めることなく、有効性や副作用の発現状況等の安全性に関する情報を収集する調査です。
メモ:特定使用成績調査
使用成績調査のうち、特別な背景を持った患者さん(例えば小児、妊婦、高齢者、腎や肝機能障害患者など)を対象として行う調査です。
メモ:臨床試験のFive Toos
臨床試験は限られた患者さんに対する限定的環境下の試験です。
その問題についてまとめています。
(一個前の記事ですが今後も見据えて貼っておきます。)
あなたのカルテが役に立つかも?リアルワールドデータ(RWD)の活用事例のご紹介 – るなの株と医療ニュースメモ
まとめ
今日は臨床試験の大まかな流れと各相の概要を見てきました。
非臨床試験を終えて、ヒトに初めて投与されてからから承認に至るまでの試験、その後の製造後の臨床試験までの流れがご理解頂けたでしょうか?
ニュースを見るにしても、IRを見るにしても、その試験が何相で開発の流れの中のどのあたりに位置しているのかということを意識してみると、理解しやすいかもしれません。
また患者さんやボランティアとして治験に参加する際の判断する一助となりえるかもしれませんね。
参考になりましたら幸いです。
いま読んでいるのですがとても勉強になります。
今後ご紹介したいと思います。
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