緊急事態宣言も解除されて、COVID-19の患者数も落ち着いてきましたね。
第2波の到来が不安ではありますが、朝の通勤電車も混み始め、少しずつ日常を取り戻しつつあるようにすら見えます。
このタイミングにおいても、新たな企業がCOVID-19治療薬の開発に名乗りを上げて、鋭意開発に取り組んでいます。
そんな状況を見て、ふと思ったことを簡単に書き記したいと思います。
今日は学術的な記事ではなく、私の感想文になります。
そして今回の記事は若干気分が悪くなる方もおられるかもしれないことを予め断っておきます。
同じ意見の方もおられると思いますが、異なる意見を持つ方も多いはずです。
あくまで一個人の感想文ということでご了承ください。
患者数が限られている
COVID-19は世界中で急速に広がり、感染者数も急増しました。
しかしそれでも数は多くありません。
そんなことない!大流行じゃないか!と思われますか?
例えば糖尿病の患者数は日本で約1,000万人いると言われています。
COVID-19の患者数は日本では約1.6万人「しか」いないのです。(5/28時点)
つまり患者数が限られているということです。
良くない言い方ですが、いわば「パイが限られている」のです。
治療薬の開発には確固たるエビデンス構築のために、プラセボ対照の二重盲検比較試験が必要であるということは、これまでも述べさせていただきました。
そしてその試験に組み入れる患者数も、統計学的な有意差を出すためにはある程度の数が必要なわけです。
そんな中数多くの企業が治療薬開発に名乗りを上げ、患者さんを取り始めました。
企業だけではなく、Dr.や研究者も観察研究、臨床研究のために、患者さんを取り始めました。
どの企業もどのDr.もみんな、COVID-19を倒すために全力で治療や開発を進めていたはずです。
誰もそれを非難する人はいないでしょうし、非難するべきでもないでしょう。
でも、「パイは限られている」のです。
患者さんをやみくもに組み入れれば、限られた患者数が更に少なくなり、それぞれの試験に組み入れられる患者数が減ってしまいます。
例えば、先日アビガンの観察研究の中間報告が出されました。
私もツイートしたので、ご覧になった方もおられるかもしれません。
有効性については確たることは言えず、予測された有害事象が予測通り、もしくはちょっと多めに出ていたという結果です。
この試験の結果をとやかく言いたいのではないのです。
この観察研究には2,000人もの患者さんのデータが含まれています。
たくさん組み入れて素晴らしいと思いますか?
私はそうは思いません。
何て無駄なことをしてしまったのだろうと「後付けですが」思うのです。
このうち1/4でも二重盲検試験に組み入れていたら、アビガンの有効性・安全性はそれだけで証明できていたでしょう。
もちろんプラセボが含まれる臨床試験等進めている状況ではなく、藁にもすがる思いでアビガンを使い、そのデータを集めたものであるということは分かっています。
ですので、非難するわけではないのです。
ただ、限られたパイを無駄に消費してしまったのではないかと思うわけです。
患者数が落ち着いた今の段階でも、開発に名乗りを上げる企業もあります。
素晴らしい社会貢献だと思いますか?
私はそれは素晴らしいことだと諸手をあげて歓迎できません。
もう患者さんはあまりいないのです。
限られたパイをみんなで取り合って、共倒れにならないのでしょうか?
もちろんこれから始める試験はグローバル試験で進めていくとは思いますが、いずれにせよ患者数が限られてくるのは同じことです。
後から開発した薬がより素晴らしい効果を持つ可能性は当然あります。
でも、以前述べたように開発に着手している薬で成功までこぎ着けるのは、本の僅かでしょう。
みんなパイが足りずに「腹ペコばたんきゅー」になって、開発が頓挫してしまったら、一番不利益を被るのは試験に参加した患者さんではないでしょうか?
市場規模が限られている
これまたあまり綺麗ではない話になります。
私は医薬品の開発担当者であり、個人投資家でもあります。
限られたパイを取り合い、低い成功率を乗り越え、COVID-19治療薬開発できたとして、市場規模はどの程度でしょうか?
もっと直接的に言いますと、COVID-19治療薬は儲かると思いますか?
COVID-19はいまだ世界で流行していますが、もしかしたらSARSのようにどこかで収まるかもしれません。
そもそも軽症患者が8割以上と言われている疾患です。
毎年の流行になったとして、果たしてそこまで市場規模は大きいのでしょうか。
決して高くない成功確率なのに、COVID-19治療薬開発に乗り出すのは、社会貢献であると私は思います。
でもそれは投資家としては、正直歓迎できません。
応援はしますが歓迎はしません。
開発成功した薬でも売れて初めて価値があると思います。
売れるということは患者さんに届いているということだからです。
どんなに優れた薬でも患者さんに使われなければ意味がないと思います。
そんなのただの自己満足ではないでしょうか。
(学術的な意味や次につながるという意味はあるのかも・・・)
リソースが限られている
では一人の患者としてはどうでしょうか?
製薬企業が治療薬を開発することは応援したいですよね?
ましてや世界的な問題となっている疾患の治療薬です。
ぜひ日本発の素晴らしい薬ができたら嬉しいと思います。
でも待ってください。
開発に費やすことのできるリソースは限られているのです。
COVID-19の治療薬開発に費やす、「時間、ヒト、お金といったリソース」は、無から湧いてくるものではありません。
他の薬の開発に費やすリソースから捻出されているのです。
ちょっと嫌らしい言い方をすれば、COVID-19の治療薬開発に携わるせいで、他の薬の開発が遅れるのかもしれません。
治療薬の販売が半年早ければ助かる命があったかもしれません。
それがCOVID-19の治療薬開発に「かまけた」せいで、助からなくなってしまったかもしれないのです。
まとめ
今日はCOVID-19の治療薬開発について、「患者数」「市場規模」「リソース」の3点をもとに、「開発担当者として」「投資家として」「患者として」の私見を述べさせていただきました。
振り返って思うのは、治療薬の開発について、「もう少し統制が取れていたら・・・」「臨床試験の重要性がもっと理解されていたら・・・」ということです。
企業間の自由競争にケチをつけるのは難しいですが、もう少し一丸となって動けていたらなーって思います。
企業の持つライブラリーを一斉に見てみたりとか、そこで有望な薬をみんなで開発したりとか。
まぁ理想論であり、実際は難しいですよね。
でも臨床試験の重要性については、少なくともDr.にはもう少し広がってほしいなーと思います。
「みんなが駆け出して、みんなで転んでしまってはしょうがない」のですよね。
「誰か一人でもいち早くゴールにつけばよかった」のです。
みんなでかけっこするよりも、助け合いながら誰かをいち早くゴールにつかせてほしかった。
以上、COVID-19治療薬開発競争を振り返っての、取り留めのない感想でした。
みなさんは振り返ってみてどう思われますか?
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。