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【COVID-19】アビガンの審査報告書を読んで、催奇形性の副作用について考えよう!【コロナ】

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最近はアビガンに対する良いニュースと悪いニュースが混在していますね。

早期投与による有効性は見出されそうな気がしてはいますが、やはり気になるのは副作用です。

 ただ催奇形性の副作用があるといっても、どんなレベルのものなのか?

  それでなぜ薬として承認されたのか?

   他に懸念される副作用はないのか?

そのあたりの温度感が分かる、規制当局と製薬会社のディスカッション結果を見ることができる資料があるのをご存知ですか?

 

幸いにして、アビガンは真っさらな新薬ではなく、インフルエンザ治療薬として既に承認されています。

つまり、日本の規制当局たるPMDAがその薬の有効性、安全性を審査した記録、「審査報告書」が存在しているのです。

 

この審査報告書をチェックしている方は私のようなマニアックな人種で、あまり居られないかと思いますので、今日はアビガンの審査報告書をかるーく取り上げてみて、催奇形性に対する規制当局の温度感を探ってみたいと思います。

 

細かく見ていくと、半日はかかりますので、かるーくですよ?

しかし内容は若干重めになっちゃいました。

いつもやや重めな内容であることは自覚していますが、今日のは若干専門よりです。

眠くなりそうであれば、太字だけ流し読みすればなんとなくわかるかと思います。

・・・え? いつもそうしているですって!?

 

アビガンのCOVID-19に対する用法用量はインフルエンザとは異なりますし、対象疾患やベースとなる状態も大きくことなるため、そのままトレースできるわけではありませんが、温度感を見るうえできっと参考になるはずです。

 

 

要約

・承認医薬品の審査報告書は誰でも閲覧可能

・アビガンの催奇形性は「安全性上、極めて重大なリスク」であると評価

・厳格な危機管理を前提としたうえで承認されている(通常は承認されないレベル)

・COVID-19に対する用法用量はインフルエンザとは異なる(用量↑/期間長い

妊娠検査陰性を示す妊娠初期においても危険

他の副作用は大したことない(下痢/血中尿酸増加)

・肝機能/腎機能低下患者等のハイリスク群に対するデータは極めて少なく評価困難

・幼若動物を用いた毒性試験の結果から、現時点で小児への投与は推奨すべきではない

 

 

審査報告書とは?

ごく簡単に述べると、医薬品の承認審査に必要な資料の説明とそれに対する規制当局の見解、ディスカッション結果をまとめたものです。

当然マスキングされている部分もありますが、なんと一般に公開されており、多くの部分について読むことができます。

どのようなデータに基づいて、有効性や安全性が認められ、またどのような懸念点があり、どのような議論の結果、承認にこぎつけたのかを知ることができます。

私は業務上も活用しますが、趣味としてよく読んでいます。

医薬品開発を行う上では大変参考になる資料です。

特に他社のノウハウが見え隠れしてたりするところをぱk・・・

  

インフルエンザ治療薬としての承認の要約

さて、まずは全体を簡単に要約します。

 

・季節性のA型又はB型インフルエンザウイルス感染症に対する有効性は未だ検証されたとは言えず、米国において臨床での有効性が示唆された段階に過ぎない

 

・既承認の抗インフルエンザウイルス薬と異なる作用機序を有しており、非臨床での検討のみではあるものの、鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)及びA(H7N9)等に対する抗ウイルス作用は期待できる。

他の抗インフルエンザ薬が無効又は効果不十分であり、本剤の有効性が期待できる可能性のある場合に、本剤を使用可能な状況にしておくことは意義がある

 

投与対象を限定し、厳格な流通管理及び十分な安全対策を実施すること、催奇形性等のリスクを有すること、海外で実施された臨床試験成績を中心に国内では検討されていない用法・用量が設定されていることを踏まえ、承認後速やかに臨床試験を実施することを承認条件として付与した上で、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対し、以上の危機管理を前提として承認する意義があるものと判断

 

と、こんな感じでしょうか。

このように相当な限定された条件にて承認がなされており、通常の薬剤とは全く異なる扱いの薬剤であることが分かるかと思います。

 

副作用

有効性については、インフルエンザに対する議論なので、今回は首を突っ込まないでおきましょう。

今回見ていくべきは安全性に関する議論、特に催奇形性についてです。

ちなみに催奇形性というのは発生段階で奇形を生じさせたり、流産となるようなことをいいます。

抗がん剤で有名ですが、それ以外にもサリドマイド等が薬害で有名ですね。

 

催奇形性

本剤で認められている催奇形性作用は極めて強力なものです。

 

動物実験での結果ですが、胚・胎児発生に関する試験では、いずれの動物種においても無毒性量での曝露量はヒトでの曝露量(AUC の平均値)84とほぼ同等かそれ以下であり、催奇形量での曝露量はその1.9~19倍ですが、申請用法・用量でのヒトでの最大曝露量(AUC の最大値)85はマウス、ラット及びサルの催奇形量での曝露量とほぼ同等か上回っていました

 

つまり承認用量で催奇形性が認められる可能性が高いということです。

抗がん剤でもない限り通常はこの結果で薬剤が承認されることはほぼありえません

 

この結果を受けて、機構では「ヒトにおける催奇形性のリスクが強く懸念」されており、「厳格な適正使用の方策が重要」であると指摘しています。

 

また仮に、催奇形性のリスクを回避するための適正使用の方策を実施した場合でも、インフルエンザ流行期における妊婦への投与や本剤投与後の妊娠を「完全に防ぐことは不可能」であり、本剤を投与後に妊娠に気づいてしまう又は妊娠する例が発現することも十分に想定されるとしています。

そして、このようなリスクについては、本剤の「安全性上の極めて重大な懸念」であると述べています。

 

「極めて重大な懸念」。

この表現の強さは、審査報告書においてはかなりのインパクトがあります。

それぐらいにこの催奇形性は気を遣うべきなのです。

避妊すれば問題ないでしょ?という軽いレベルではないのです。

ましてや、COVID-19に対しては用量の増加、投与期間の増加が見込まれています。

催奇形性の副作用を決してなめてはいけないのです。

 

インフルエンザに対する用法用量では、血漿中の本剤及び代謝物の濃度が定量下限未満となる7日間の避妊が必須との議論がありました。

用法用量が変わればこの部分も変えていかねばならないはずですね。

 

なお、生殖発生毒性試験の結果より、ヒトで妊娠検査が陰性を示す妊娠初期における本薬の投与により受精卵の発育遅延又は致死が引き起こされる可能性が示唆されていることも注意すべき点と言えるでしょう。

 

本薬の臨床での使用については本剤を投与することによるリスク・ベネフィットを踏まえて、より慎重に検討する必要があり、その旨を臨床現場に十分に注意喚起すべきと考えるとの記載もありました。

 

その他の副作用

臨床試験において、比較的よくみられた有害事象は、下痢6.3%(25/394 例)、血中尿酸増加5.6%(22/394 例)でした。

 

尿酸増加については用量に依存して増加する傾向が認められるとのことです。

これは本剤及び代謝物であるM1がOAT1及びOAT3 を阻害することによる尿酸の尿細管分泌抑制、及びM1 のURAT1 を介しての尿酸再吸収亢進が起こり、尿酸排出能が低下することによるものと考えられています。

いずれにしても、催奇形性以外には重い副作用はないと捉えて頂いて問題ないと思います。

 

ただし肝機能/腎機能低下患者等のハイリスク群に対するデータは極めて少なく評価困難とされています。

また幼若動物を用いた毒性試験の結果から、現時点で小児への投与は推奨すべきではないとされています。

 

 

まとめとディスカッション

催奇形性の副作用に対する、規制当局の温度感を感じて頂けたでしょうか。

アビガンがCOVID-19に対して有効性が認められて、薬剤として承認されたとしても、この極めて重大な副作用の問題は常についてまわります

使い方も難しく、同意説明文書のやり取りなど煩雑な面もあります。

使う方の「訴訟リスク」もあります。

一方でもしあまり条件なく使える薬があるとしたら、Dr.はどっちを使いたい?患者はどっちを使われたい?でしょうか?

 

私は・・・患者としてこの問題に対峙したとき、他に薬がないのであれば、リスクを許容してアビガンを使いたいと思うかもしれません。

でもその時点で妊娠の可能性を完全に否定できない状況だったらどうでしょうか。

お腹に子供がいたら、催奇形性のリスクは極めて高いのです。

その可能性が少しでもある状況で、万が一の可能性だからとかなぐり捨てて、アビガンを使えますか?

肺炎で亡くなるよりかはよいと思いますか?

8割は自然治癒するという情報もある中、アビガンを投与してもらいますか?

私は実際にこの状況になったら、大いに迷い、そして結局使ってほしくないと答えると思います。

特に女性であればこの気持ちを理解して頂ける人もいるのではないかと思います。

他に薬があるならば、当然そちらを希望します。

 

これは個人的考えではあります。

しかし保守的な日本人には意外と多いのではないか?と考えています。

これは経験上、まっさらな新薬の治験における同意取得を断られる患者さんが多い点も含めての意見です。

(薬により異なりますし、海外は国民皆保険ではないというような事情は置いておきます。)

ちなみに服薬量がやたら多く、飲むのが大変という難点もありますね。

 

アビガンをけなしているわけでは決してありませんが、この「使用に対するハードル(心理的側面も含む)の高さ」は看過するべきではありません。

アビガンが唯一の抗ウイルス薬になり得ないのであれば、その点を十分に考慮する必要があると考えます。

 

と、まあ、個人的な考えも含めて記載しましたが、まとめますとこの「催奇形性という副作用を軽視してはいけませんよ?規制当局も極めて重くとらえていますよ?」というだけです。

みなさんも「自分が投与される立場になったらどう考えるだろうか?」と思案してみてもよいのではないでしょうか。

 

おまけ:アビガンとレムデシビルの副作用の違い

面白い質問をいただきました。

アビガンもレムデシビルも同じRNAポリメラーゼの阻害という作用機序なのに、アビガンは催奇形性が強く出て、レムデシビルは出ないのはなぜか?

確かにこれは気になるところですね。

 

では、アビガンの作用機序の詳細を見てみましょう

アビガンはRNAの材料となるグアノシンやアデノシンの前段階のイノシンに至る前駆物質に構造が似ています

そのためウイルスのRNA依存性RNA合成酵素(RdRp)は、伸長中のウイルスRNAに間違えて取り込んでしまい、そこでRNA合成がストップするということです。

これがいわゆるRNAポリメラーゼの阻害です。

この機構は汎用的で、ほとんどのRNAウイルスのRdRpに対して,伸長を停止する活性を有していることから、インフルエンザ治療薬でありつつ、COVID-19にも効果があるのではないかということです。

これが胎児のRNA合成酵素も阻害してしまうことで催奇形性を誘発していると考えられます。

 

一方でレムデシビルはどうでしょうか?

この薬はまだ承認されておらず、詳細な資料は確認できませんでしたが、体内で活性化し、その活性体がウイルスエキソヌクレアーゼによる校正を邪魔をして、RNAポリメラーゼを混乱させてRNA減少を引き起こすとのことです。

これがRNA合成をストップさせるのか、突然変異によるものかは不明です。

 

・アビガンはRNA合成に余計な物質をねじ込む

・レムデシビルはRNAの校正(複製エラーを直す)を邪魔する

ことで、RNAの合成を阻害するわけです。

 

このあたりの細かい作用機序の違いが、催奇形性の違いに寄与しているのかもしれません。

また胎児への移行割合等が影響している可能性もありますが、こちらについては詳細情報がありませんでした。

そんなわけで、明確なことは言えませんでしたが、考えるきっかけとなりましたら幸いです。

回答になっていないかもですが、これ以上は専門外の領域でわかりませんでした!!

ごめんなさい><

 

 

参考

・コロナ記事まとめ

 

・アビガン関連

インフルエンザの切り札アビガン、薬の特性やコロナウイルスに対する実施中の臨床試験は?(富士フイルム:4901) – るなの株と医療ニュースメモ

理由について考えてみましょ?打倒コロナ期待の治療薬アビガン、論文撤回される – るなの株と医療ニュースメモ

どんな試験か見てみましょ?アビガンの国内第3相臨床試験開始、試験概要と用語の解説(富士フイルム) – るなの株と医療ニュースメモ

 

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