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【治験】アルツハイマー型認知症(AD)治療薬の開発の難しさ、臨床開発の観点から【触りのみ】

日本のみならず、世界においてもアルツハイマー型認知症(AD)の患者数は増え続けています。

治療薬が熱望され、その市場の大きさからも、治療薬の開発にチャレンジする企業は多くありますが、成功率は極めて低く、開発は困難を極めます

 

2020年7月にはエーザイ(バイオジェン)のアデュカヌマブがFDAに承認申請されましたが、まだ承認はおりていません。

アデュカヌマブは承認されれば、ADの臨床症状悪化を抑制する初めての治療法となり、かつ脳内のアミロイドβ(Aβ)の除去が臨床結果の改善をもたらすことを実証した初めての治療法となります。

大変意義深い治療薬となりますね。

 

今日は薬理学的観点における研究開発の難しさではなく、臨床開発における開発難しさについて、少し考えてみたいと思います。

ほんの触りだけ、専門的内容にはあまり触れず、一般的な内容に留めます。

るな
るな
あー、それは大変だなー

って感じて頂ければ幸いです。

 

ちなみに何で急にこんなこと言い始めたかというと、WordPress移行にともない記事の整備をしている中で、アデュカヌマブの記事を見つけたからです!

 

有効性評価の難しさ

評価する側

糖尿病を評価する時、血糖値やHbA1cといった臨床検査項目において、数値で明確に結果が分かります。

そこに患者さんやDr.の主観的な評価は含まれません。

だから治験のデータとしては、採血して頂き、中央評価で測定すれば、均一に評価することが可能となるのです。

 

ところがADのようなCNS領域の疾患はそう簡単にはいきません。

臨床検査値のような分かりやすい指標がないのです。

評価方法の均一化

そのためAD治療薬の効果は「評価スケール」を用いて実施します。

最近よく使われるのはCDR-SBやADAS-cogあたりでしょうか。

アデュカヌマブはCDR-SBでしたね。

比較的軽い人を対象とするならば、認知機能より全般的な評価が好まれますね。

これらはDr.が患者さんの評価を行いますが、人が評価を行う以上、そこにはブレが生じます

 

Aさんの病態が5点だと評価されたとき、それは絶対的な値とはなりえないのです。

評価するDr.によって4点にも6点にもなりえます。

 

これにどんな問題があるかは自明ですよね。

4点の人が薬を飲んで6点になったとして、それが評価する側のブレによる変動なのか、薬を飲んだことによる改善なのかが分からなければ、治験が上手くいくはずがありません。

 

だから、評価を可能な限り均一化する必要があります。

 

そのためにはInvestigater’s Meeting(IM:研究会)を開いて、評価者トレーニングをしたり、中央評価を用いた第3者評価を取り入れたりする必要があります。

そもそも評価に慣れたDr.にご参加頂く必要もありますね。

 

評価者の均一化

評価者を可能な限り同一することも重要です。

少なくともその患者さんの中で評価のブレをなくさなければ(ゼロにはできませんが)、全体としてデータを束ねた時に訳の分からないデータになってしまいます。

 

症状が動いたとしても、その動きの捉え方にぶれがあると、正確に薬の評価ができないのです。

そしてAD治療薬は劇的な効果が期待できるものはまだありません。

つまり小さな差を正しく捉えることができなければ、有意差を出すことはできないということです。

 

ベースラインインフレーションの防止

組み入れに際してのベースラインインフレーションも警戒せねばなりません。

ベースラインインフレーションとは意図的に評価に下駄をはかせることを言います。

組み入れ基準が10点だとしたとき、9点の患者さんを組み入れたいがために10点にしてしまうことを指します。

 

臨床検査では基本的にこのようなことはできませんよね?

気合い入れても検査値を動かすことはできません。

 

ところが主観的評価が含まれるCNS領域の試験ではこれが可能となってしまいます。

これを検知することはできますが、容易ではありません。

 

検知できたとして、それをどうするかも難しい問題です。

誰かが絶対的な答えを持っているわけでもないですし、仮に明らかにおかしい事例があったとしても、Dr.にそれを伝えるのはかなり気を遣います。

 

るな
るな
せんせー!これ嘘っぱちでしょ?w

何て口が裂けても言えないのです。(言いたい時もある!)

 

そんなこと言ったら、私が出禁どころか、うちの会社ごと出禁になります。

そして営業部が激おこスティックファイナリティぷんぷんドリーム(うろ覚え)になります。

 

評価される側

評価する側のブレだけではなく、当然評価される側、患者さん側のブレも気にしなくてはなりません

日内変動が大きい方もいますし、普段の生活が評価に大きく影響を与えることも考えられます。

 

患者さんを縛り付けて、環境を一定にすることはもちろんできません。

患者さんも生活をしています。

その範囲の中でなるべく、ブレのないようにコントロールしていく必要があります。

例えば、シンプルな対応としては、評価時間を統一するとか、評価前には大きなイベントを避けてもらうとか。

 

しかし相手は認知症の方です。

その対応は簡単ではありません。

もちろんご家族や介護者の方のご理解も必要です。

 

まとめ

このような評価の難しさは開発難易度にも直結しています。

そして評価のブレを考慮して症例数を増やすと、お金も時間もかかりますし、組み入れ難易度もあがります。

評価者が増えることにより、逆に評価のブレを誘発することにもなりかねません。

 

現時点では 臨床症状の評価に代わるサロゲートエンドポイント(代替エンドポイント)として用いることができるバイオマーカー(生物学的指標)はないため、このような状況はしばらく続くことになるでしょう。

 

少なくとも現時点においては、開発における評価のハンドリング戦略は試験成功の成否を握っているということですね。

対象症例の難しさ

治験を行うときに考えなければならない点は、どんな患者さんを組み入れるかということです。

その薬の作用機序や効果、目指す臨床的位置づけをもとに対象症例を決めます

まずこれを見誤ると必ず失敗します。

 

対象を決めたとしても、その対象を上手に集められるかがまた難しい問題です。

 

ADの病態を有する患者を適切に選択して組み入れる必要があっても、臨床症状のみに基づく診断では、 AD以外の原因による認知機能障害を適切に除外することは困難であるためです

 

例えば、一般に進行抑制を考える場合は前駆期ADや軽度ADを狙いますが、これらの患者さんを診察だけで明確に鑑別することは難しいのです。

 

軽度MCI(認知機能障害)がADに起因するかどうかを鑑別するためにPET-CT(陽電子放出断層撮影)やCSF(脳脊髄液)の採取を行うことになりますが、その辺の施設で簡単にできることではありません。

PET-CTを実施できる施設やそこに患者さんを送ることができる施設に実施施設が限定されてしまう可能性もありますね。

 

症状の線引きもまた明確とはいいがたいところです。

特定の評価スケールの点数で線引きをしたとして、それが正しいことかは分からないのです。

同じ中等度でも軽度に近い中等度と、重度に近い中等度では大きな差があります。

 

実際に組み入れる際は評価のしやすさ、有効性の出やすさを考慮して、多少の組み入れコントロールが必要になるのは致し方ないかと思います。

この辺りは目指す適応や治験実施計画書の選択基準のしばりの中での、ややグレーな対応と言えますね。

 

真の実臨床との整合性を考慮すれば、このような対応はしてはならないのかもしれませんが、臨床試験自体が閉じられた空間でもありますので、そこまで厳密に求めすぎても大局を見失うのではないかと思います。

あ、この辺、突っ込まないでください。

 

プラセボ群の難しさ

治験薬の有効性を評価するためにはプラセボ対照二重盲検試験が必要(例外あり)ということは、昨今のCOVID-19治療薬の開発からも認識されてきたことかと思います。

AD治療薬でもプラセボ群を設けて対応したいということになりますが、これが難しい問題になります。

 

AD治療薬として、進行抑制を求めるのであれば、おのずと評価期間は長くなります。

その長い期間、プラセボを服薬することは現実的でしょうか?

 

せっかくADを発見することができたのに、下手したら1年以上治療薬を服薬せずにいてください!といって、患者さんやご家族の同意は取れるでしょうか?

そもそも治験を行うDr.が拒否されるケースや治験審査委員会ではねられる可能性もあります。

 

そのため、プラセボ群を設けたとしても、既存の認知症治療薬(例えばCHEiのアリセプト等)を併用するデザインにせざるを得ないのが現状です。

 

そうすると既存薬の影響が排除できず、データにぶれを生じることになります。

そもそも差を出すことが難しくなるのです。

 

これは倫理上仕方のないことですが、やっかいな問題ですね。

まとめ

今日はアルツハイマー型認知症の治療薬開発の難しさについて、臨床開発の側面から少し考えてみました。

実際はもっとたくさんの問題がありますが、業界外の方にもイメージしやすい内容を簡単にまとめてみました。

 

研究所の方が優れた化合物を作り出したとしても、臨床開発で失敗しては何の意味もありません

私たちは受け取ったバトンを、ちゃんと次につなげていく必要があるのですね。

 

もし万が一、結果がダメだったとしても、その結果に胸を張れるように対応していきたいと思います。

もちろん、そうならないようなハンドリング、そして成功に導くための小細工もしていきます。

 

アルツハイマー型認知症の治療薬については、根本的な原因の解明と診断/評価指標の確立(血液検査等)のどちらかが済めば、だいぶ開発しやすくなるのではないかと思います。

画期的新薬の開発にはまだ遠い状況ですが、一歩ずつ着実に進めていきたいですね!

 

おまけ:投資家の視点

投資の観点では治療薬のブレイクスルーにも警戒するべきです。

治療薬開発の成否は当然重要ではありますが、ADのような現状開発が滞っているような疾患の場合は、ブレイクスルーによりすべてがひっくり返される可能性もあります。

 

単純に言えば、「これまでの治療薬を過去のものにする薬

これが出たら、文字通り「おしまい」になりかねません。

 

ぐだぐだ開発を進めている企業に投資する際はその点も常にお忘れなく(自戒)

るな
るな
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