先日、化粧品や目薬で有名なロート製薬が、COVID-19重症肺炎に対して、間葉系幹細胞による治験を行うと発表して話題になりました。
新興バイオでも細胞治療に取り組んでいるところもありますが、何だか色々と怪しい噂も漏れ聞こえてきており、個人的には期待していません。
そんな中、ロート社の間葉系幹細胞ADR-001は、他にも肝硬変や特発性肺線維症、IgA腎症等でも治験を行っており、それなりにデータや投与経験はあるものと思われます。
今日はそんなロート社のADR-001について、ちょっとまとめてみたいと思います。
ADR-001とは?
ADR-001は他家脂肪組織由来幹細胞を構成細胞とする細胞製剤となります。
先日の再生医療等製品の説明の際にも解説しましたが、「他家」ということは、患者さん本人ではなく、他の人の細胞を使うということです。
患者さん自身の負担は自家よりも低く、準備に時間がかからないことからコストも低いですね。
「脂肪組織」は組織中に多くの間葉系幹細胞を含み、採取時の侵襲性が比較的低く、手術時など余剰組織となるケースもあることから、比較的入手が容易であるという利点もあります。
「間葉系幹細胞」とは骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能を持つとされる細胞のことですね。
他家由来ということで免疫系の副作用が気になるところかもしれませんが、間葉系幹細胞というのは免疫系の副作用が少ないことで知られております。
COVID-19の重症患者に対して用いるということからも、恐らく過去の治験データでは免疫系に対する副作用が見られていないのではないかと推測されます。
推定される作用機序
ロート社の発表によると、どうやらこの細胞の投与により、サイトカインストームを抑えることを見込んでいるようです。
要は「細胞が定着して肺の組織をどうこうするわけではなく、細胞自体がマクロファージなどによるサイトカイン産出を抑制し炎症を抑える」ということだと思います。
原理は違えど、ステロイドのデキサメタゾン(デカドロン)や抗体医薬品のトシリヅマブ(アクテムラ)と同じような感じですね。
治験の概要(COVID-19)
6/23時点のプレスリリースの内容になります。
下記は予定であり、実際は変更される可能性はあります。
再生医療等製品であり、対象患者も重症例ということで、患者数は極めて少なく、非盲検の単群試験ですね。
要は全員にADR-001を投与するということです。
当然対照群はありません。
再生医療の治験なので、「普通」の試験ではありますが、これで効果が認められたとしても、当然条件付きの承認となるでしょうね。
他の疾患対象の治験は?(肝硬変/IgA腎症/特発性肺線維症)
面白いことに同じ細胞で様々な疾患に対して、治験が行われています。
肝臓に腎臓に肺ですね!
肝硬変の治験が一番古く、2017年頃から実施されているようですね。
新潟大学医歯学総合病院のホームページで紹介がありました。
消化器内科の寺井教授と組んで治験を進めているようです。
肝硬変治療の企業治験(消化器内科) | 輸血・再生・細胞治療センター|新潟大学医歯学総合病院
安全性に関するデータは揃ってきているそうですが、ロート社としては「対象疾患が異なるので、COVID-19重症肺炎患者での安全性は別途確認する必要がある」と考えています。
いやー当たり前のことなのですが、最近の対応を見ていると安心する考え方ですね。
投与方法はいずれも静脈注射です。
ここから分かることは、やはり「細胞が定着して、どうこうするわけではないのではないか?」ということです。
だって普通に静脈から投与して、あちこちの組織に定着してしまったら困ったことになりますよね?
肝臓にも腎臓にも肺にも効果があるということは、いずれかの組織に定着するわけでも、限局するわけでもないのでしょう。
その場合、なぜ細胞であることが必要なのでしょう?
次の項目で私の素人目線の疑問を記載しました。
誰か疑問を解決できる方いませんか?
なんで細胞なんだろうという疑問?
これは私の個人的な疑問になりますが、細胞が定着しない、特定の組織に集まるわけでもないのであれば、なぜ細胞の投与が必要になるのでしょうか?
培養上清とかではだめなのでしょうか?
敢えて細胞を投与することで、マクロファージの分化が促されたりするのかな?
細胞自体が何か放出したりするのかな?
であれば、臓器に直接投与したりする方がよいのかな?
敢えて細胞を投与するというところに何らかの「意義」はあると思うのですが、私の知識では分かりませんでした。
まとめと所感
今日はロート社の間葉系幹細胞ADR-001について見てきました。
COVID-19だけではなく、肝硬変、IgA腎症、特発性肺線維症等といった様々な疾患に対して開発が進められており、大手企業ということで財政基盤や開発体制も安定しているものと思われます。
一方で細胞製品ということで、投与は一部の病院(恐らくクリーンベンチがある場所や保管対応ができる場所)に限られたり、細胞投与特有のによる副作用がある可能性は気になるところです。
治験組み入れ症例数も少なく(再生医療なので仕方ない)、承認されても条件付きとなります。
そして価格についてもそれなりに高価となることが予想されます。
COVID-19について、ADR-001が「特効薬」となり得ることはまずありませんが、重症患者に対する治療の選択肢の一つとしては、活躍できる可能性があるのではないでしょうか?
今後の進捗に期待したいと思います!
参考
・プレスリリース
国産初、COVID-19重症肺炎に対する他家間葉系幹細胞を用いた再生医療の企業治験を計画 | ロート製薬株式会社
・再生医療等製品の解説
【細胞】再生医療等製品ってなに?どんなものが含まれるの?【遺伝子】
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