最近のCOVID-19の情勢を受けて、医薬品の副作用について、気にされている方も多いかと思います。
一方で私が発信している情報には副作用ではなく、有害事象という言葉で示しているものもあります。
紹介されている論文にも有害事象と示されているものも多いですね。
有害事象と副作用は似ているようで、異なる意味を持つ言葉です。
今日はその言葉について、そして「治験薬を服薬して起きた症状が治験薬に起因するものであると結論付けるための考え方」について、詳しく見てみましょう。
ちょっと重めの内容かもしれませんが、治験に興味がある方、治験に参加してみようと思われる方は、ぜひ把握しておくと、Dr.やCRCさんときっと有意義なお話ができますし、治験自体を楽しめるかもしれません!
そして治験に参加しなくとも、副作用や薬との因果関係について考えることは、世間を騒がす反ワクチンや過剰な反応をしている薬害騒ぎ(ゾフルーザ等)について、冷静な視点で考える力となるはずです。
メディアの情報に踊らされず、ぜひご自身で判断できるような医療リテラシーを身に着けて頂ければと思います。
Contents
有害事象(AE:Adverse Effect)
「治験薬を服薬した患者さんに起きた全ての好ましくない、意図しない事象のこと」を有害事象と言います。
重要なことは治験薬との因果関係は問わないということです。
※因果関係:単純に言えば、原因と結果の関係ですね。
例えば、治験薬を服薬して3日後に飛行機が墜落して亡くなっても、これは有害事象になります。
治験薬服薬後に雪見だいふくを食べ過ぎて、お腹を壊してしまっても有害事象です。
逆に治験薬を服薬して、急に吐き気が出てきた、恐らく治験薬と因果関係があると思われる。
そんな場合も有害事象※ということができます。
※この場合は有害事象であり副作用でもあります。
つまり言い換えれば、有害事象は治験薬によるものではない事象も当然含まれるということです。
副作用(ADR:Adverse Drug Reaction)
投与量にかかわらず、投与された治験薬に対するあらゆる有害で意図しない反応(臨床検査値の異常を含む。)のことを副作用と言います。
つまり治験薬と有害事象との間の因果関係について、治験薬と有害事象との間に、少なくとも合理的な可能性があり、因果関係を否定できない反応ということです。
つまり言い換えれば、副作用は全て治験薬によるものと言える(定義上)ということです。
有害事象と副作用を概念化すると上記のような感じですね。
副作用は有害事象に内包されるということです。
適当に3分で作ったので、雑なのはお許しを。
因果関係の判断の重要性
この因果関係については、最近では「あり」「なし」の2択です。
日本人的な「あるかもしれない」「たぶんあり」「恐らくあり」みたいな抽象的で判別しがたい概念は、現在はほぼ駆逐※されています。
※再生医療の統一書式にはあったような気がします。
治験に参加するDr.は治験薬服薬後に起きたあらゆる有害事象について、この因果関係の判断を問われるわけです。
では、どのように判断していると思われますか?
治験薬服薬後に起きた事象だから、とりあえず、治験薬との因果関係は否定できないと言ってしまいますか?
そんなこと言ったら、なんでも副作用にされてしまい、添付文書の意味がなくなります。
これ、今でもたまーにこういうこと言うDr.がおられて、対応に苦慮することがあります。
無駄なリスクを不必要に避けようとすることは、本来得られるべきベネフィットを遠ざけてしまうのです。
例えば、因果関係のない事象を副作用として取り上げてしまって、その症状を避けるためにその薬を服薬できないケースなどが想定されますね。
つまり因果関係の判断は「医学的かつ第3者が見ても妥当だと考えられるような客観的な判断」が求められます。
因果関係はどのように考える?
さて次に因果関係の判断について、考えるべき基本的な事項を簡単にご紹介しましょう。
ここでは分かりやすさ重視で解説させて頂きますので、専門的なところは丸めます。
※今日は個別症例における判断に限局します。
リチャレンジ陽性(再投与による再発)
Re-Challenge、つまりもう一度チャレンジするということです。
薬を投与して、何らかの有害事象が発現したとして、その薬をやめます。
もう一度その薬を投与して、再度同じ有害事象が発現すれば、その有害事象は薬に起因するものではないかという可能性が高まるというわけです。
実際の診療や治験においては、なかなかこのような機会は訪れませんが、因果関係としては強固なものとなります。
逆にリチャレンジ陰性については、因果関係がないことを示唆していますが、否定しうる強固な理由にはなり得ません。
発現割合が低ければなおのこと理由としては弱いですね。
確率の問題は私の苦手分野ですが、感覚的にわかるかと思います。
発現割合5%の事象が1度目に発現して、2度目に発現しなかった場合と1度目も2度目も発現する割合を比べれば、分かりますよね?
因果関係が確立されており明らか
既に過去の投与経験から、副作用として生じる可能性が高いことが分かっている場合(例えば、アビガンの催奇形成)や、作用機序から発現することが分かっている場合(例えば、アビガンの尿酸増加)、似たような作用機序の類似薬で発現している事象(SGLT-2阻害薬の尿路感染症等※作用機序からも発現することが推測されますね)等の場合は、因果関係が既に確立されていると言えるでしょう。
発現までの時間に説得力がある
いわゆる時間的関連性があるということになります。
投与後にすぐに発現しうる事象について、投与との時間的関連性が高い場合(飲んですぐに発現した)は因果関係を示唆する強い証拠となります。
例えば抗がん剤の吐き気などですね。
ただし投与後すぐに発現しうる事象でない場合は、投与後に発現したとしても因果関係を示唆する証拠としては弱いです。
例えばステージ3のがんが投与後1か月後に発現したとしても、がんがそんなに急速に発現し悪化することは通常考えにくいので、がんが薬のせいで生じたとは考えにくいわけです。
つまり薬を飲む前になかった事象が、薬を飲んだ後に出てきたとしても、それは全てが薬のせいとは言えないわけです。
デチャレンジ陽性(投与中止で消失)
リチャレンジ陽性の逆ですね。
薬を中止したら、有害事象が消えた場合を指します。
この場合の因果関係はリチャレンジ陽性ほど強くはありません。
他の要因が偶然重なるケースが考えられるからです。
いわゆる自然寛解などですね。
例えば有害事象として、薬を飲んだ後に頭痛が発生したとして、薬をやめたら頭痛が収まったとします。
これはもしかしたら、風邪をひいていてそれが治ったのかもしれないですし、何か他に要因があるかもしれないということです。
この状況で再度薬を飲んで、頭痛が再発する場合はリチャレンジ陽性として、因果関係を支持する強めの証拠となり得ます。
交絡するリスク因子がない
交絡因子はどこかでお話ししたと思います。
ここで単純に考えることは、薬以外に要因がないと思われるような、レアな有害事象が発現したようなケースです。
例えばスタチン系の横紋筋融解症等ですね。
日常生活を送るうえでは起こりにくいような事象なので、それは薬の服薬という要因との因果関係が強く示唆されるわけです。
曝露量や曝露期間との整合性がある
単純な話で、特定の暴露量(血中濃度)以上で有害事象が発現することが明らかな場合は、再現性が高く、因果関係が明白と言えるでしょう。
正確な既往歴による裏付けがある
これまでの人生において、全くなかった事象が薬を飲んで突然発現した場合は、因果関係を示唆する証拠となります。
これが過去にもあった事象であった場合は、薬を飲んでから「たまたま」起きた可能性も考えられますね。
その症例の場合明らかで容易に評価できる
その患者さんのバックグラウンドから想定できるものです。
例えば、患者さんが何らかのピーナッツアレルギーを持っていたとして、薬の服薬後にアレルギー反応を引き起こした場合、そのアレルギーの原因がピーナッツだと判明すれば、薬との因果関係は否定できますね。
他に説明できる原因がない
上記踏まえても他に説明できる理由がなく、これは薬のせいかなーというときに出す最後の手段です。
ここで他の要因をきちんと考えずに、薬のせいだ!と断定するとおかしなことになります。
おまけ:副反応
一般にワクチンによる副作用のことを副反応と呼びます。
副作用と同義としてとらえて頂いて問題ないと思います。
まとめ
今日は有害事象と副作用の定義の違いや、薬との因果関係をどのように考えていくかについて、見てきました。
これまで取り上げてきた有効性に関する考え方も踏まえて、考えてみましょう。
メディアの言うような短絡的視点に対して、上記のような疑問を持つことができるようになったのではないでしょうか?
薬害と騒ぐのは勝手ですが、それが原因で不幸にも防げる病気にかかってしまう方、治る病気も治せなくなる方がいるのです。
先日挙げたサリドマイドの件や、臨床試験の大きな事故はまさしく「薬害」です。
しかしゾフルーザやイレッサ、HPVワクチンを「薬害」のくくりに入れるのは、私は間違っていると思います。
こと、ワクチンについていえば、COVID-19のワクチンを切望する割には、定期接種のワクチンに反対する方がいたりするのは、本当に不思議ですね。
そういう方に限って根拠の薄い情報を頼りにBCGワクチンを打ちに行って、断られるという茶番も見かけました。
日本のワクチン接種率は先進国でも最低クラスです。
この恥ずべき事態は看過するべきではないと私は強く思います。
COVID-19にしろ、ワクチンにしろ、民間療法にしろ、有効性や安全性に対して、これまで取り上げてきたような考え方、視点を身に着ければ、大きく誤った判断を下し、健康被害にあうことは避けられるはずです。
少なくともそれらに対して、疑問を持つことができるようになるのではないでしょうか?
疑問を持つことができれば、客観的に納得できる信頼ある情報源にたどり着くことは容易なはずです。
みなさんとみなさんの大事な方たちが、不利益を被ることがないように、上記のような問題に遭遇した時は、今一度よく考えてみて頂けますと、私もこのブログを始めた甲斐がありますー!
まずは疑問を持つことが大事だと思います!
参考
・JPMA News Letter No.145(2011/09)
・JPMA News Letter No.151(2012/09)
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。