以前抗菌薬の供給における問題を記事にしたことがあります。
抗菌薬は医療現場に必要とされているのに、儲からないから開発に及び腰、という残念な薬だというお話でしたね。
今日は抗菌薬の中でももう一歩踏み込んだAMR(薬剤耐性)に対する抗菌薬の開発に関する問題事項や今後の方向性について、見ていきたいと思います。
・以前の記事:
AMRとは?
AMRとはAntimicrobial Resistance、薬剤耐性のことです。
このAMRを持つ細菌が大きな問題となっています。
要は「抗菌剤が効かないから困る」ということです。
抗菌薬を漫然と使っていると、薬が効く菌はやっつけられますが、効かない菌(AMR)が生き残ります。
だから抗菌剤をがんがん使ってはならないというのは有名な話ですね。
このAMR普段はあまり目立ちませんが、感染してしまえばかなり難敵となりえます。
だって薬が効かないのですからね。
だからこのAMRに対する医薬品の開発が望まれているのです。
AMR開発の現状
抗菌薬の開発には、1000億円以上の研究開発費が必要になると言われています。
しかし感染症は急性疾患のため、抗癌剤や難病に比べると薬価も低く、投与期間も短くなります。
そして耐性菌による感染者は少なく、耐性菌治療薬を温存するため、適正使用の観点からもがんがん使ってもらうわけにもいかず、売り上げは少なくなります。
コストをかけて開発しても、開発費の回収すら難しい現状なのです。
ノバルティスやサノフィといった大手の製薬会社も撤退し、2019年だけでも抗菌薬開発バイオベンチャーが2社も倒産しています。
開発が難しいのに、儲からないのでは、いくら必要とされていても開発にチャレンジするのは難しいのです。
抗菌薬の開発にリソースを振るということは、その分他の薬の開発に振れるリソースが減ることにもなります。
現状では積極的に開発に携わるのは難しいと言えるでしょう。
AMR開発を促進するためには?
優先審査対象指定と薬価見直しの検討
2020/9/1に施行された改正医薬品医療機器等法で特定用途医薬品の指定制度が創設され、AMR治療薬がPMDAによる優先審査の対象に含まれました。
承認のハードルを下げてきたのは、AMR治療薬開発が少ししやすくなったかもしれませんが、まだまだハードルは高いですね。
ぜひ薬価改定時に優遇頂けるように制度を変えてほしいですね。
しかし、小手先の薬価に対するインセンティブでは、焼け石に水かもしれません。
そこで提案されているのがプル型、プッシュ型のインセンティブです。
プル型インセンティブの検討
プル型インセンティブとは、簡単に言えば、「承認されて上市された後のインセンティブ」のことです。
例としては、イギリスで2022年から試行的に導入が検討されているサブスクリプションモデルというものがあります。
サブスクリプションモデルは少し前に日本でも話題に挙がっていましたね。
牛角とか。
私はあまり向いてないなぁと思っていましたが、Amazon primeもこれだった!
意外と身近にありますね。
要は「商品ごとに購入金額を支払うのではなく、一定期間の利用権として定額料金を支払う方式」のことです。
イギリスでは2017年1月から2018年12月までに上市された2製品について医療技術評価(HTA)を行い、インセンティブを付与しています。
初期契約は3年で10年まで延長でき、定額料金は年間最大約13億円となっています。
抗菌薬におけるサブスクリプションモデルは、「抗菌薬の使用量ではなく、新規抗菌薬を上市したこと、市場に出していることに対して一定の対価が得られるモデル」ということです。
これなら少しはやる気になるんじゃない?
スウェーデンでは買い取り保証制度を実施する見込みとのお話もあります。
他にも承認時の一時金の支給や、特許の延長(独占販売期間の延長)等、いくつか考えられる方策はありますね。
それにほら。
例の抗菌剤の流通ストップ事件、あれはジェネリックだからああなったのだと思います。
抗菌剤は必要な薬だからこそ、流通は適切に行う必要があります。
個人的に特許の延長はぜひご検討頂きたいですね。
プッシュ型インセンティブの検討
プッシュ型インセンティブとは、簡単に言えば「承認前の研究開発段階へのインセンティブ」のことです。
アカデミアが抗菌薬の研究を進める際に必要なAMR薬耐性菌の入手に苦労し、臨床開発段階に移行しても臨床試験コストの高さ、買い手が見つからないなどの課題に直面しているといわれています(北里大学北里研究所の花木秀明氏)
研究開発の初期段階で開発を後押しするために民間や公的資金を活用できるようにするなど、プッシュ型のインセンティブも望まれているということですね。
プル型と併せて、検討して頂きたいところです。
まとめ
今日はAMR薬の開発に関する問題事項や今後の方向性について考えてきました。
AMR薬はいらない薬だと思いますか?
そんなことないですよね。
必要である薬だというのは誰でも分かると思います。
「そんな必要とされる薬が開発できない、開発しても採算が取れない可能性がある現状」。
これは健全な状態ではないですよね?
でも製薬企業はボランティアではありません。
採算の取れない薬を1,000億かけて開発しろというのは横暴すぎます。
ましてや開発成功率は極めて低いのですからね。
それを理由に開発を躊躇するのは、まっとうな理由であると思います。
一方で上記の通り、開発の必要性は製薬企業も痛いほど分かっています。
でもそれを企業努力でどうにかできるレベルではないのです。
こういうことをいうと、「他で儲かっているのだから、そのお金で開発すればいいじゃないか?」と真顔で言う方が稀におられます。
そういう方はご自身の生活費除いて、開発資金として残り全て寄付してください。
そんなことできるかしら?
もちろん、製薬会社は利益だけを追求する企業ではなく、健康産業を支える側面も持っていますので、社会貢献的な姿勢や行動も必要であります。
それでもAMR薬をぽんぽこ開発できるような余裕はないのです。
だからこそ、開発できる環境を行政とともに整えていきたいと考えています。
製薬23社・財団が参画したAMRアクションファンドが設立されています。
製薬側も努力を進めるのは当然ですが、行政もそれなりの姿勢を見せてほしいものです。
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。