先日、私のバイオベンチャー銘柄の嗜み方を少しご紹介しましたが、なかなか好評でしたので、第2弾をしたためました。
第1弾はバイオ株の取り扱いの心構え、私の投資スタンスのようなものだったので、今回はちょっと違った観点で、臨床試験の成績を見る際の注意や、戦略的撤退、損切りを行う際の考え方をご紹介したいと思います。
先日の記事が基礎編であれば、
今日の記事は中級・・・ではなく、
基礎編②みたいなものです。
例にもれず、私個人の考え方になります。
正解ではありません。
あくまで「大きく勝たずとも大きく負けない」の大枠の中で、それなりに利益を上げてきた私の考え方です。
ご参考にされるのであれば、それをご認識の上でお願い致します。
また事例をあげる際に会社名を出させて頂きますが、その会社の株の購入や売却を推奨するものではありません!
それぐらいわかっているよ!と思われるかもしれませんが、書いてないと苦情を言ってくる方がおられるらしいので、ちゃんと書いておきますー!!
(そんなやつがバイオ銘柄触って生き延びられるとは思わないけどね)
Contents
夢か幻か?素晴らしい第2相試験成績
概要
バイオベンチャーにありがちなケースとして、浅い相の試験において、素晴らしい臨床試験成績をあげていることがあります。
その成績をもって、パイプラインの素晴らしさ、将来性、そして承認に向けての確度が高いことを示すわけです。
自社でその後を進めてもいいですし、どこかに導出してマイルストーンをもらうのもいいですねー!
海外では会社ごと買収されることで、経営者が巨額の富を得るケースもあります。
さて、そんな「素晴らしいパイプライン」ですが、承認に至るものはごくごく少数であることは、みなさんもご存じのとおりです。
でも特定の1化合物の臨床試験成績を見ると、
- こんな素晴らしい成績を出しているのだから、第3相も成功確実!とか
- 他にはない良好な結果なので、上市したらブロックバスター確実だ!とか
考えることはありませんか?
先に述べておきますと、そんなことを考えている時点で既に術中に落ちています。
バイオベンチャーは導出するにしてもしないにしても、パイプラインの価値を最大化して「魅せよう」としています。
赤字のバイオベンチャーは夢のかたまりであり、その夢はパイプラインに凝縮されているのです。
いかに素晴らしい夢であるかを、投資家や取引先に示さねばならないのです。
だから、素晴らしい第2相試験結果を出すように試験をします。
別にデータを弄るようなことはしませんよ?
そんなことがばれたら、その会社はおしまいですからね。
さすがにそういうことはしないでしょう。
でも試験成績を上手に出すことは可能なのです。
これは人数や規模が小さい第2相試験だからこそできるのです。
だから「素晴らしい第2相試験の成績を鵜呑みにしない」
これを念頭に置く必要があります。
試験規模、実施施設数、実施国、他に試験が行われていないか?
客観的に確認して判断しましょう。
他剤と直接比較していないのに有効性を比較するのは意味がありません。
試験の対象もデザインも異なります。
会社の言い分を鵜呑みにしてはなりません。
ここで一つ事例をあげましょう。
以前紹介した塩野義さんがアメリカのバイオベンチャーと開発をしている抗うつ薬、S-812217です。
事例:S-812217
2018年2月5日 SAGE Shionogi コラボレーションの意義より抜粋
S-812217は塩野義さんがアメリカのSage社と協力して開発している、新規抗うつ薬ですね。
上記は海外第2相試験の成績です。
プラセボと30mgのHAM-Dの推移を示しております。
これはかなり強力な効果を示せていますね。
ここまでの差を出している抗うつ薬はありません。
Day3においても有意差が出ていますので、即効性も確認できます。
控えめに言っても大変すばらしい成績です。
ところが海外第3相試験では下記のような結果となりました。
Sage社公表資料より(2019/12/5)
残念ながら主要評価項目(投与15日目のHAM-D推移)で有意差を出すことができませんでした。
20mg/30mgで試験をしていましたが、20mgはプラセボと綺麗に重なっており、ほぼ効果がなさそうです。
30mgは惜しいところまで行きましたが、失敗は失敗ですね。
このように非常に素晴らしい成績を出していた第2相試験の結果が、大規模に実施した第3相試験でひっくり返ることはよくあるのです。
この薬は日本で開発中ですが、塩野義さんとしては第2相の素晴らしい成績ではなく、第3相の失敗した成績をもとに、試験を慎重に進めているはずです。
戦略的撤退をする?成長ストーリーが崩れた時
概要
投資家として個別銘柄を購入した時、その会社の成長ストーリーを思い描くと思います。
そして成長ストーリーが崩れた時、そこで手放す方もおられますよね?
バイオ株も同じようにするべきであると考えております。
むしろより強く意識するべきです。
他の業種では業績の柱を複数持っていることがあり、成長の柱となる部分が少しばかり上手くいかなくとも、他で補いつつ、成長していくことは可能かもしれません。
しかし多くのバイオベンチャーにとって、パイプラインの一つで失敗をしてしまうことは、非常に大きなネガティブインパクトがあります。
場合によっては倒産まっしぐらとなる可能性もありえます。
もちろんバイオベンチャーもそのリスクは分かっているので、複数のパイプラインを持ち、リスクを分散していますが、その会社の主力や売りとなるようなパイプラインは、どこの会社もあるものです。
むしろそれがないような夢のないバイオは、何ら面白みもありません。
前回の記事にも記載しましたが、短期的には有望「そう」なところが上がるのです。
目立たないけど堅実なバイオ等、私にとっては何ら魅力はありません。
地味な男子より、ちょっとやんちゃな男子のがモテるのですよね!
ダメならそんな男子は捨ててしまえばよいのです。
もちろん堅実男子が一番ですが、バイオ大学にはそんな子はいません。
え?嘘ではありませんー!!
さて、話は飛びましたが、パイプラインが花開くことがバイオベンチャー最大の成長ストーリーなわけです。
つまり成長ストーリーが崩れるときとは、メインとなるパイプラインで失敗した時です。
メインのパイプラインが失敗した時、当然のごとく株価は崩壊します。
ストップ安もざらですよね?
そんな時に掲示板やTwitterには擁護意見があふれ出ます。
- 他にも有望なパイプラインはある!
- やり直せばまだ勝てる見込みはある!
- 評価項目が厳しすぎた!
- これはこけたけど、他にはまだ希望がある!
- 今まで高すぎたけど、これなら買える!
- 買い増しのチャンス!
逆張り大好きな私も、バイオ株の暴落は慎重に対処します。
メインの成長ドライバーが消え去ったのに、
夢の塊が消えたのに、まだ夢を見るのですか?
負けた時に見るべきは夢ではなく現実です。
私は潔く撤退します。
私が直接経験した事例ではありませんが、一つ事例をあげましょう。
事例:サンバイオ
みんな大好き?サンバイオです。
以前取り上げてもいますが、このサンバイオが誇るSB623は慢性脳梗塞と外傷性脳損傷に対して開発を進めていました。
そして慢性脳梗塞の治験の失敗により、12,000円を超えていたほんの数日で株価は1/4を割ることになったのです。
私は既に利確して逃げていたので、暴落は回避できましたが、暴落時に盛んに言われていたことが上記のようなことです。
何点か取り上げて考えてみましょう。
やり直せば勝てる見込みがある?
本当にそうでしょうか?
仮に勝てるとしても臨床試験のやり直しには莫大な費用がかかります。
バイオベンチャーがぽんぽん出せる金額ではありません。
そして次の項目でも述べますが、やり直すことで時間を浪費します。
それはつまり残りの特許期間が減ることを意味します。
その製品の命を削りながら治験を行うのです。
評価項目が厳しすぎた?
確かにそうかもしれません。
では評価の基準を下げればよいかというと、そう簡単にはいきません。
評価の基準を下げて統計学的有意差を出すことができても、そこに臨床的な意義を見出すことができなければ意味はないのです。
この辺は別記事で考察しています。
治験の考え方ですが、投資にも活かせるのです。
・参考:
https://www.luna1105kablog.com/entry/toukei-clinical-trials
安易に基準を下げて成功しても、その薬に意義が見いだされず、使用されることがなければ売り上げにはつながりません。
近年は費用対効果の議論も盛んです。
薬の承認はゴールではなく、スタートなのです。
・参考:
慢性脳梗塞はこけたけど、外傷性はまだいける?
そうかもしれません。
しかし慢性脳梗塞と外傷性脳損傷では患者の数が全く異なります。
つまり市場規模が異なるのです。
仮に外傷性で成功したとしても、慢性脳梗塞で成功していた時のような売り上げは到底期待できません。
上記のような理由で、私はサンバイオがお安くなっても購入することはありえません。
3桁前半まで落ちてきたり、1型糖病病の研究が順当に進んでいたりすれば、検討しなくもないですが。
メインの成長ドライバーがこけた銘柄については、戦略的撤退をすることも考慮に入れても良いかもしれませんね。
見限るべき?進まない臨床試験と減っていく特許期間
前述の事例の試験やり直しのところでも触れましたが、似たような事例で試験が遅々として進まないケースがあります。
たまにありますよね?
〇〇の理由で試験開始が6か月遅れました。
患者の組み入れが遅れているため、試験期間を3か月延長します。
こんな感じで試験が進まないのです系IRを見たことがありませんか?
こういうIRが出ると、みんな応援します。
- 遅れても素晴らしい薬に変わりない!
- 時期が悪かっただけ!
- ブルーオーシャンだから多少遅れても関係ない!
それは甘すぎる評価です。
医薬品というのは「特許を取った時点から寿命が決まっている」のです。
適応拡大等で延命を図ることはできますが、いずれにせよ寿命はあります。
以前真面目な話として、医薬品の特許とライフサイクルマネジメントのお話をしましたが、この考え方はバイオベンチャー投資にも活かせるのです。
・参考:特許のお話
正確に言えば、特許が切れれば後発品が出るだけなので、化合物としてはよりよいものが出るまで、生きながらえることができるかもですが、そんなことは先発品開発会社の売り上げには関係ありません。
つまり「試験が遅れた」というのは「同じだけその薬の寿命が縮んだ」と考えるべきです。
仮に自社で開発を進めないにしても同じことです。
導出を受ける製薬企業はその薬の特許の有効期間を重視します。
当たり前です。
すぐに特許が切れてしまう薬のタネなどいらないのです。
また症例組み入れが遅延した場合の、試験延長はさらに慎重に考えるべきです。
そもそもなぜ症例が入らないのでしょうか?
大きな理由としては下記が考えられます。
・治験薬に魅力がない
治験薬に魅力がなければDr.もモチベーションが上がりませんし、参加する患者さんの同意取得も取りにくくなります。
・治験デザインが無謀
治験デザインが無謀なのは、単に治験実施計画書の作成者が無能な場合と、そんな無謀な条件で集めないと、有意差が出せない場合が考えられます。
・治験がへたくそ
治験のハンドリングがへたくそだと、症例の組み入れはままなりません。
・希少疾患等で患者数が少ない
そもそもの患者数が少ない疾患の場合はしかたがない側面もあります。
ただ患者数が少ないことも踏まえて計画は練っておくべきですね。
特に初めの2点は危険です。
パイプラインの価値を再評価するべきです。
試験の延長は、試験の失敗と比べると軽視されがちですが、パイプラインの価値を棄損するという意味で警戒する必要があります。
場合によっては見限ることもあります。
本件について、事例はいくつかありますが、失敗に至っていないわけなので、まだお持ちの方も多いかと思います。
ここでは触れないこととします。
思い当たることがお持ちの銘柄であるなら、一度精査してみても良いかもしれません。
まとめ
今日は少し具体的なところに踏み込んで私の考え方を述べてみました。
参考になる部分はあったでしょうか?
他の業種の銘柄も同じかもしれませんが、周りに流されずに自身で判断して対応することが重要です。
人の判断を入れた時点で、私はその投資はある意味失敗だと思います。
バイオ株については、みんなが右を向いている時に右を向いて流れに乗りつつ、みんなが右を向いているうちにそっと左の道に進むのが勝つコツです。
どっち向けばいいか人に聞くくらいなら、バイオ株は触らないほうが無難でしょう。
いつか大ケガしますし、その時に自分の失敗を人に押し付けたくなるかもしれません。
そんなわけで私は銘柄について意見を求められても、基本的には回答しませんので、その点はご留意くださいね。
参考:バイオ関連の投資のお話
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。