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【薬害】クロロキン網膜障害の教訓を活かせるか?不用意な適応拡大の末路【COVID-19】

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COVID-19の治療薬候補として、ヒドロキシクロロキンが挙がっており、トランプさんも一時はゲームチェンジャーだなんて騒いでいましたが、有効性を見出すどころか心血管系の副作用により、開発が危ぶまれていますね。

そのヒドロキシクロロキンのもととなった化合物、クロロキンについて大きな薬害事件があったのはご存知ですか?

 

先日ご紹介したサリドマイドとは、また異なった意味での大きな事件です。

このクロロキン事件の教訓はいまのCOVID-19治療薬開発においても生かせることだと思い、今日はこのクロロキンにおける網膜障害の薬害について、簡単にご紹介させて頂こうかと思います。

 

 

 

クロロキンの薬害と販売中止に至るまで

クロロキンは1934年にドイツで開発されたマラリアに対するお薬です。

日本では、1955年にマラリアの薬として承認後、腎炎、慢性関節リウマチ、気管支喘息、てんかん等と適応を拡大していきました。

これだけ聞くとなんだかすごい薬みたいに思えますが、実際は薬事行政が雑だった時代のせいと言えるでしょう。

後述しますが、この「不用意な適応拡大による使用方法の変化」が大きな薬害の一因となったのです。

 

クロロキンは今でいう一般薬としても薬局で販売され、1961年以降慢性腎炎の特効薬として広く使用されました。 

すると翌年くらいからクロロキン服用患者の網膜障害が報告され始めました

これはクロロキンの長期投与により網膜血管が細くなり視野が狭くなってしまう障害で不可逆です。

つまり薬をやめても元には戻りません。

 

これを受けて、学会でもクロロキンによる網膜障害について議論されることもありましたが、行政としては特に対応はありませんでした。

それどころか、クロロキンを使っていた厚生省の担当者が、クロロキンによる網膜症の副作用情報を知ったことで自分だけ服薬を中止していたなんて小話もあります。(裁判で問題となりました)

 

それからだいぶ経過して、1969年になって初めて添付文書にクロロキン網膜症について追記(長期投与の危険性の周知)され、注意喚起がなされたのでした。

このクロロキン網膜症の薬害については1973年から裁判が開始し、社会的な問題として認知されるに至りました。

そして1974年にクロロキンは製造中止となったのです。

 

日本での被害者は1000人を超えると言われています。

なおクロロキンには急性毒性もあり、強い心毒性も認められています。

 

海外の対応

海外では1959年から学術誌に報告が掲載されていた他、アメリカ(FDA)では1962年時点で添付文書改訂指示や警告書の配布を指示しています。

サリドマイドの時と同じく、アメリカの対応は正確で早いですね。

日本とは対称的です。

 

何がいけなかったのか?

このクロロキンの対応で学ぶべきことは何でしょうか?

 

大事な点としてはマラリアに対するお薬として使っている分には大きな問題はなかったのです。

その後適応が拡大し、投与量や投与方法が変わってしまったこと、その後服用された患者さんの数も急に増えたことが大きな薬害事件につながったと考えられています。

 

 

クロロキンの適応拡大で最もまずかったのは、マラリアとしての治療期間より、適応追加による治療期間が長かったことです。

この長期間の服薬が網膜障害を引き起こしました

マラリアに対しては短期投与だったから、そこまで問題にならなかったわけですね。

では、適応拡大の際に臨床試験は行われなかったのでしょうか?

 

クロロキンの適応追加に際しては臨床試験は行われておらず、一部の医師の研究による結果に基づくものだったのです!

つまりマラリア以外に適応拡大して、その際に臨床試験で安全性を確認していなかったから、このような事態を招いたのです。

 

この構図、どこかで見たことがありませんかね?

もちろん全く同じとは言えず、クロロキン程ひどくはありませんが、私は似たようなものだと思います。

臨床試験を実施しないということはこのような事態を招くことがあるということです。

 

科学的に妥当と考えられるエビデンスを構築することなく、科学的根拠の薄い「使用経験」だとか、「研究」といったことに基づいて薬を承認することは危険なのです。

  

適切な臨床試験が行われていれば、この副作用については察知することができたでしょう。

またFDAの対応について耳を傾けていれば、もう少し薬害の程度も抑えられたかもしれません。

 

この事件を契機として、日本でも適応追加の際に新薬と同様に承認審査を必要とすることが薬事法(現在は薬機法)で規定されました。

 

 

まとめ

今日はクロロキンの薬害事件を参考に、不用意な適応拡大の危険性について見てきました。

過去の臨床試験で安全性が確認されているとよく言われますが、投与期間や投与量が異なれば、そんなものは参考にしかなりません

もちろん対象疾患が異なることでも有効性プロファイルはもとより、安全性のプロファイルも変わることがあります

高齢者や妊婦、肝機能/腎機能障害等、ハイリスクな患者さんのデータの不足という面も考慮する必要があります

 

不要な臨床試験を省略して、可能な限り早く、医薬品を世に出すことは重要ではありますが、省略してよい臨床試験については慎重に考慮しなければなりません

 

今回は安全性面を中心に見てきましたが、実はクロロキンの腎炎に対する適応はその後取り下げられています

つまり有効性面についても適当なエビデンス(この場合はそれすら怪しいですが)をもとに承認を進めてはならないのですね。

 

サリドマイドも有名な話ではあり、教訓とするところはたくさんありますが、このクロロキンの薬害についても学ぶべきところは多いのではないでしょうか。

今一度臨床試験の重要性について、思いを巡らせていただけますと幸いです。

 

・ヒドロキシクロロキンの副作用

【COVID-19】ヒドロキシクロロキンの心血管系の副作用について考えよう!【審査報告書】 – るなの株と医療ニュースメモ

・ヒドロキシクロロキンの論文紹介

【コロナ】COVID-19治療薬候補、ヒドロキシクロロキンの論文を見てみよう!【効果は・・・】 – るなの株と医療ニュースメモ

 

参考:薬害シリーズ

・臨床試験の大きな事故

近年の臨床試験(治験)における3件の重大事故について見てみよう!(TGN1412/BIA10-2474/E2082) – るなの株と医療ニュースメモ

・サリドマイドの催奇形性の薬害

【アビガン】サリドマイドにおける催奇形性の薬害の教訓と対策は活かせるか? – るなの株と医療ニュースメモ

 

 

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