COVID-19によって、医薬品や臨床試験(治験)に興味を持たれる人が増えているような気がします。
私も医薬品開発担当者としては喜ばしい限りです。
そんな中、レムデシビルが特例承認で承認を取得したり、一部の既存薬が観察研究のみで承認を取得しようとしたり、催奇形性のある薬剤が平然と承認されそうになったりと、色々と通常と異なることが多かったため、私としても臨床試験に対して慎重となるような情報を中心に発信してきました。
みなさんの中には、
「治験に興味はあるけど、何だか怖いものみたいだし、やめておこう・・・」
何て印象を持たれた方もおられるかもしれません。
第1相の大事件の話も出してしまいましたしね。
それはオペレーションの問題がメインであって、治験そのものに悪い印象を持たれてしまうのは、私の意図するところではありません。
それで症例入らなくなったら、CRCさんに激おこされるかもしれません!
そこで今回は治験に対して少し前向きになれるように、治験に参加する患者さんに対するメリットについて考えていきたいと思います!
治験というものの心理的なハードルを少し下げてみようという試みです。
ググればちょこちょこメリットについて記載している病院や会社がありますが、今日は開発担当者視点で、もう一歩踏み込んだお話をします。
我々としては、同意を取っていただかなければ話が進まないので、同意取得率が上がるように策を練るわけです。
もちろん患者さんの自由意志に基づく同意を頂くのは揺るがないことではありますが、メリットデメリットをお伝えし、不要な不安を取り除いていくことは大事なことかと思うのです。
これは医療機関まかせにすることではなく、開発担当者側からも提案していくべき事項であると思います。
「なんで症例が入らないのか」とDr.やCRCさんにぶぅぶぅ言うだけの開発担当者ほど、無能な人はいませんね。
「それはあなたの責任なのよ?」と耳元でささやいてあげましょ♡
なお、今回は第2相試験以降を想定しています。第1相は特殊なので書くとしても、また別の機会に。
Contents
治験のメリット
新薬をいち早く使用できる!
まず一番分かりやすいメリットが新薬を使えることですね!
場合によっては最先端の治療をいち早く受けられるのです!
・安全性
だからこその安全性面が気になるわけですが、患者さん対象の第2相試験では、第1相試験でヒトに投与している経験がありますので、いきなりクリティカルな副作用が出る可能性は低いです(・・・ないとは言いきれません)
同意説明文書には様々な副作用が並んでいるかと思いますが、それら全てを警戒する必要はありません。
例えば、バファリンの添付文書を見てみましょう
これだけ見るとさぞかし危険な薬に見えますが、ご存じのとおり、バファリンを服薬してこのような症状が出ることはほとんどあり得ませんよね?
このように頻度の低い事象や因果関係が否定しえない(けど否定できそうなもの)も、安全性に関する情報として記載されています。
どの事象がどんな理由でどれくらいの頻度で起こるのかをチェックしましょう!
・有効性
有効性が思ったよりも出なくて、試験が頓挫する可能性も多々ありますが、少なくとも開発段階では、既存の薬よりも何らかの点で優れていると見込まれているわけです。
そのような薬のタマゴをいち早く使用できるのです。
そう考えると悪いものでもないと思いませんか?
・プラセボ(偽の薬、ただのお砂糖みたいなもの)
ちなみにデメリットでも述べますが、プラセボが当たる可能性もあります。
その時は割り付けの割合と用量群を見てみましょう。
均等割り付けで用量2つ、プラセボ群1つならば、プラセボの可能性は1/3です!
用量が3つなら、プラセボの可能性は1/4です!
ちょっと心理的ハードル下がりませんか?
・不安
新薬が怖いというのならば、他国の承認状況や日本でのデータ、同じ試験における他院の組み入れ状況を聞いてみましょう!
世界で広く使われているのであれば、まず安全性は高いと考えられます。
既に患者さんでの投与データがあるなら、安心感も高まりますね!
適応追加であれば、一般的にベースとなるデータ※は揃っていますし、安全性はより高いですね!
※特例的にデータがない場合や、疾患により予期せぬ副作用が発現する可能性もあります
負担軽減費がもらえる!
これを目的で治験に参加してくださいと言うのはナンセンスなのですが、治験としての来院には、来院のための交通費等の補助の名目で負担軽減費という名前のお金が貰えます。
会社や試験内容によって異なりますが、相場としては1回の来院で7,000~10,000円ですね。
これは治験審査委員会でも審議されますので、患者さんとして「もっと下さい」と交渉しても簡単に変えることはできません※
※厳密に言えば変更申請かけられなくはないですが、通常はしません。
この負担軽減費は治験としての来院スケジュールに基づいて来院した時にお支払する形となります。
1回につき1万円で、10回来院したら10万円ですね!
基本的には治験のスケジュール外や同意説明だけの来院時はお支払されませんのでご注意下さい。
例えば、治験中に風邪を引いて来院しても、それは払われない可能性が高いです。
風邪は治験薬のせいではないと判断されるケースが多いためです。
稀に免疫に影響を与える薬で、免疫低下に起因すると判断されるケースはあります。
つまり裏を返せば治験薬の副作用が否定し得ない場合はお支払されることもあるということです。
例えば、治験薬飲んでから急に吐き気が出て来て、吐き気止めを貰いに来たとき等ですね。
それは治験薬によって生じた事象かもしれないわけなので、治験としての来院になるわけですね。
この判断は患者さんではなくて、医師の判断になりますけどね。
副作用の程度や対応によっては補償や賠償の話もありますが、ここでは割愛します。
逆に同じ吐き気でも、牡蠣に当たった等、治験薬との因果関係が明確に否定できる場合はお支払できないこともありますね。
いずれにしても、細かいところは試験や会社によって異なりますので、気になるならよくお話を聞いてみましょうー!
診察代が安くなる・・・かも?
治験薬服薬期間中の同種同効薬の費用や検査/画像診断の費用等はメーカーが負担することとなります。
それ以外の期間の費用も一部軽減される可能性もあります!
実際にどれくらい安くなるのか、安くならないのか気になる方は、CRCさんに聞いてみるのもありかと思います!
これも試験や病院、会社の方針により変わります。
検査がたくさん受けられる!
治験では採血をはじめとしたたくさんの検査があります。
いわば毎回健康診断しているようなものです。
治験の検査で病気が見つかったなんてこともちらほら聞きます。
我々としてはなかなか難儀なところではありますが、患者さんにとってはよいことかもしれませんねー!
そして治験では通常の診察では用いられないような特殊な評価を行うこともあります。
それは国際的に標準となるような評価スケール、内容でもって、データを示していきたいからですね。
つまり患者さんとしては、よりレベルの高い客観的な評価を受けられるということです。(主観的評価もあります)
自分の健康状態や疾患の状態が、国際的に客観的な指標で評価されていくのは、ちょっとワクワクしませんか?
私は重い病気で2ヶ月ほど入院したとことがあるのですが、治験があったら喜んで入ってました。
なお手術の時の研修医の見学や撮影、検体の活用などは二つ返事で了解しました。
自分のデータが活かされるなんて、私としては大変嬉しかったです。
診察順を優遇してもらえる・・・かも?
これはお約束できるものではありませんが、治験は色々と検査があるため、通常診療と別枠で枠をとっている病院やクリニックが多いです。
そうすると普段予約していないところでも予約していたり、特別に順番を優遇したりするケースも多いですね。
特別扱いされるということです!
いつもより手厚く話を聞いてもらえる・・・かも?
これはあまり大っぴらにいうことでもありませんが、治験では有害事象の確認もしなければならないこともあり、また自ずと診察時間も確保されていることもあり、通常の診察よりもより丁寧な診察がなされることが多いですね。
CRCさんも丁寧に話を聞いてくださるはずです!
社会貢献ができる!
新薬の開発に携わっていただいているわけですから、それは大きな社会貢献になります!
開発が失敗しても同じことです。
失敗という結果を導き出せたわけですから、結果の内容は貢献度合いに関係ないと思います。
同じ疾患で苦しんでいる患者さんたちに対して、胸を張って自慢できる社会貢献になるのではないかと、個人的には考えますー!
生活習慣が整えられる・・・かも?
これはあまり考えていなかったのですが、複数のDr.から言われました。
疾患の種類や患者さんの状態によっては、生活リズムがみだれてしまっている方もおりますが、治験によって定期的に来院しなければならない状態自体が、生活習慣を整えるきっかけになっている方もいるそうです。
治験のデメリット
デメリットについては、私の様々な記事で取り上げているようなことなので、簡単に触れるに留めます。
未知の副作用がおこるかも?
第1相でヒトに投与している経験があるとはいえ、少数の健常成人対象です。
予期せぬ副作用が生じる可能性は完全に否定できません。
プラセボにあたるかも?
せっかく治療のために病院を訪れているのに、プラセボが当たるかもしれません。
それは治療にとってはマイナスと捉えられるかもしれませんね。
いつもの薬より効かないかも?
基本的には新薬は既存薬よりどこかしら優れていて、有効性も高いと考えられて、治験までこぎつけているわけです。
じゃないと承認されても使われませんからね。
しかしここまで来て失敗する薬だって少なからずあります。
その一因として、有効性が弱いケースもあります。
採血や検査が時間かかるかも?
治験の検査はたくさんのデータを取りたいがために、時間がかかることが多いです。
Patient Centricityの記事でも少し触れましたが、今後は患者さんの声も反映しつつ、不要な検査は削減されていくかもしれませんが、いずれにせよ通常診察よりは時間がかかるのは確かですね。
何度も来院するのめんどくさいかも?
治験スケジュールにもよりますが、毎週の来院や2週に1回の来院を求められるケースもよくあります。
負担軽減費をもらえるとはいえ、なかなか時間的な負担は大きいかもしれません。
患者日誌書いたりすることもあり、めんどくさいかも?
治験によっては「宿題」があることもあります。
主に患者日誌と呼ばれるものですね。
別に今日あった楽しいことを書くわけではありません。
例えば睡眠時間とか、血糖値とか、血圧とか、服薬状況とか。
治験によって大きく異なりますが、場合によっては患者さん自身で記録する評価があるということです。
飲んじゃいけない薬とかもあり、めんどくさいかも?
通常治験には併用禁止薬(使わないで!)と併用制限薬(特定条件で使ってもいい)があります。
これにはドラッグストアで購入できる薬やサプリメント、漢方薬も含まれます。(リスト作るの面倒なの・・・)
この制限は適切な評価のためでもあり、患者さんの安全性のためでもあります。
これを守るのが面倒臭いという話も聞きますね。
開発担当者からのお願い
たまに感じる患者さんへのお願いについて軽く書きます。
治験に参加するときはほんの少しでも意識してもらえると嬉しいです!
治験薬を飲み忘れても正直に教えてほしい!
何らかの理由で服薬を忘れてしまうこともあるかと思います。
真面目な患者さんの中には、これを恥ずべきことと心の奥底に仕舞いこんで、鍵をかけてしまう人がいます。
服薬していないのはPTPシートを見れば明らかなのですが、飲み忘れを捨ててしまったりするケースがあるのです。
これは治験のデータ的にも患者さんの安全性的にもよくないので、正直にお話ししていただきたいと思います。
有効性に関して言えば、服薬しないと血中濃度が落ちるので、効果が出にくくなる可能性があります。
それを飲んでいないデータと照らし合わせればよいのですが、例えば飲んでないけど、言うのがはばかられるから捨てた!実は飲んでいない!だと、飲んでいないのに飲んだデータとして扱われます。
実際は血中濃度が足りずに効果が出ていないのに、ただ薬の効果が出ていない結果になってしまうのです。
治験薬は指示通りにちゃんと飲んでほしい!
治験のスケジュールは綿密な設定がなされており、服薬のルールも計算されたものです。
ぜひ指示通りに服薬して貰えると嬉しいです!
何らかの理由、例えば副作用が出て飲みたくないとか、あるのであれば、すぐに医療機関に相談しましょう!
スケジュールは可能な限り守り、守れないなら連絡してほしい!
治験のスケジュールはアローワンスという許容範囲が設定されていますが、それを越えると治験実施計画書からの逸脱となり、最悪の結果としてはデータが使えなくなってしまいます。
またそんなことよりも、患者さんの安全性に影響が出る可能性も出てきます。
来院予定日に来院できなそうな時は、早めに相談いただければと思います。
また予め遅れそうであれば、アローワンス内で早めにスケジュール調整しておくのも手ですね!
後観察でフェードアウトしないでほしい!
薬を飲み終えたあと、だいたいの試験においては後観察、追跡調査の期間があります。
これは主に安全性を確認する期間であり、薬は飲まずとも重要な期間です。
たまにこの期間に来なくなる方がおります。
治験薬飲んでないし、忙しいし、もういいやーって思う気持ちはわかるのですが、ぜひ最後までお付き合いいただけると大変嬉しいです!
いつでもやめられます!
治験はいついかなる時も、患者さんが嫌になれば辞められます。
これは患者さんの揺るがない権利です。
正直、病院が気に食わないからやめるというのもありです。
よく考えて治験に入る必要はありますが、参加したら絶対やめられないとか、やめたらいじめられるとかは気にしなくて大丈夫ですよ。
もちろん最後まで参加いただけるにこしたことはありません!
おまけ:同意取得の重要性
治験は、患者さんの自由な意志に基づく文書での同意がないと始められません。
Dr.やCRCさん経由でから治験の目的、方法、治験に参加しない場合の治療法、有効性や安全性の過去のデータなどについてまとめた説明文書を用いて説明がなされ、治験参加に納得がいくならばDr.と患者さんで同意書にサインをするのです。
この説明と同意をインフォームド・コンセントと言います。
参考:3.インフォームド・コンセント | 新薬・治験情報 | 日本製薬工業協会
まとめ
今日は治験のメリットについて、思いつくことをつらつらと並べてみました。
記載した内容は私の主観と経験に基づくものですので、唯一の答えではなく、反対意見もあるかもしれないことをご留意頂ければと思います。
またもしCRCさんや治験経験のあるDr.、同業の方で、もっとこんなメリットがあるよー!とか、こんな説明をしていますよー!といった情報がありましたら、追記していきたいと思いますので、Twitter等でコメント頂けますと嬉しいです。
みなさんも治験にご興味があるようでしたら、医療機関を受診した際にDr.に聞いて見たり、ホームページなどで調べてみましょう。
大きい病院だと待合室にポスターが貼ってあるかもしれません。
ぜひ治験に参加して、あなたも新薬開発に携わってみませんか?
というそれっぽい感じで今日はおしまいにしたいと思いますー!
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。