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【臨床試験】プラセボ(偽薬)対照試験、その利点と欠点を考える【ICH-E10】

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今日はいつになく堅苦しいテーマをあげています。

いつだったか忘れましたが、読者の方から治験の対照薬の選択について、ご質問頂いたことがありました。

 

それに対する直接的な答えではありませんが、今日は臨床試験における対照薬の選択について、まずはプラセボ対照の利点や欠点をテーマに取り上げてみたいと思います。

参考とするのはICH-E10になります。

ICH E10 Choice of control group in clinical trials | European Medicines Agency

 

 

COVID-19下における治験において、プラセボ対照が大事なのだ!

と散々言ってきましたが、改めて考えて見ましょうという趣旨です。

実薬対照については後日に回します。

 

今日は隠し包丁があまり入ってない、素材の純粋な固さをもれなく味わえる感じで記事が作成されております。

あらかじめご了承ください。

 

 

 

プラセボ対照試験の概要

プラセボとは治験薬に色や味を似せた薬効を持たない偽薬のことを指します。

 

治験に参加した患者さんに対して、一方は治験薬、一方は何も服薬させないで対応をしてしまうと、「服薬した行為」自体がデータに影響を及ぼす可能性があります。

それらのバイアスを除くために、主にプラセボというものが設けられています。

 

一般に薬効を全く持たないものと定義されますが、経皮吸収剤等、一部の製剤においてはプラセボでも薬効が認められてしまう点は注意が必要ですね。

 

またプラセボだからと言って、評価が全く変動しないわけでもありません

 

特に精神疾患においてはプラセボの効果が非常に大きいことが知られています。

これはプラセボ自体の効果というよりも、Dr.のカウンセリング効果が関連しているわけですが、プラセボ群に対する効果ということで、注意が必要な点は変わりありません

 

プラセボを用いる試験デザインにはいろいろありますが、ここでは詳細は述べることは避けます。

今日はあくまでプラセボ対照の利点や欠点をテーマにしているからです。

 

一般的にはプラセボ対照無作為化二重盲検試験が多いです。

要は治験薬とプラセボをランダムに割り付けて、患者さんもDr.も治験薬かプラセボか分からない状態で治験を進めるということです。

 

さてプラセボを対照薬とすることの利点は何でしょうか?

 

プラセボ対照とする利点

有効性を明確に示すことができる

プラセボ対照試験には分析感度の証拠が内在しており、差が証明された場合、外的な証拠を参照することなく、解釈することが可能になります。

なお「分析感度」は「有効な治療と有効性の低い(あるいは無効な)治療とを区別する力として定義される臨床試験の特性」のことです。

 

ちょ、待ってください!!
ここまで読まれたからには、まだ帰らないでください。

すっごく雑に言えば「プラセボ対照試験をすれば、それだけできちんと有効性を示すことができるということ」です。

  

 

「絶対的」な有効性、安全性を示すことができる

プラセボ対照というのは、プラセボ群における薬理作用に基づく効果は0に近いわけです。

 

だってプラセボは薬ではなく、お砂糖みたいなものなのですからね。

つまり治験薬の相手の「薬自体の効果」を0にできるというわけです。

 

そうすると治験薬の「絶対的」な有効性や安全性を確認できます。

実薬を対象にした場合は「相対的」なものが見えるというわけですね。

 

A-BはAとBの差(相対的な差)を見ますが、

A-0(ゼロ)はAになるわけです。

Aそのもの、Aの絶対的な値というわけです。

 

安全性面で言えば、薬による有害事象と、基礎疾患や背景に起因するノイズによる有害事象とを鋭敏に区別することが可能となるわけです。

 

この利点を考えれば、実薬対照の臨床試験においてもプラセボを加えて、3群比較とすることの意義も分かるかと思います。

 実薬との相対差だけではなく、プラセボを混ぜることで、治験薬の絶対的な差を見ることができるというわけですね。

  

 

効率的である

前述の項目と少し被りますが、プラセボ対照試験は有効性が実薬対照よりも出しやすいです。

これは感覚的にも分かるかと思います。

 

VSする相手が実薬よりも、効果のないプラセボのほうが勝負は楽に決まっています。

勝負が楽ということは、統計学的な有意差を出すために必要な症例数も減るということです。

 

つまりプラセボ対照試験は、他のどの種類の同時対照試験よりも少ない患者数で治療効果を検出できるというわけです。

 

 

患者さんとDr.の期待による影響の最小化

盲検化されたプラセボ対照を使用する場合は、患者さんとDr.の双方が実薬を投与されていない可能性があることを知っているために、両者の期待の結果として生じる改善の程度を減らしうるということです。

 

もっと簡単に言うと思い込みによるバイアスを減らすことができるわけです。

 

私なんか、きっと治験に入ったらプラセボでも完治しちゃいますよ!
・・・感知の誤字じゃありませんよ?

  

 

プラセボ対照とする欠点

次に欠点を見ていきましょう

 

倫理上の懸念

これは分かりますね。

プラセボは薬ではありません。

プラセボを飲むことで治療が阻害されることは倫理上の懸念として残ります。

 

なお、特定の集団に対して、亡くなる可能性を減らせる場合や回復不能な障害を防ぐことが知られている有効な治療が存在する場合には、通常、その集団でプラセボ対照試験を倫理的に実施することはできません。

抗がん剤とかが分かりやすいですね。

 

ただし、これが具体的にどのような条件、どのような集団に当てはまるのかは議論の余地があります。

 

例えば大うつ病の臨床試験のガイドラインではプラセボは8週間までが望ましいとしています。

これは安全性上の懸念があるため、短期のエンドポイントを設けていると言えます。

 

一方で有効性を評価するためには疾患特性に応じて、一定の服薬期間や評価期間を設ける必要があるわけです。

試験デザインはそのような部分との競合の末に決定されるのです。

  

 

患者と医師の治験実施上の懸念

これは治験を行うDr.と患者さんの関係性の問題とも言えます。

 

Dr.が実薬を用いた治療を行わず、また治療を遅らせることで悪い結果をもたらす可能性が少しでもあることを、患者さんと合意していたとしても、プラセボを投与するということには躊躇する心理が働く可能性があります。

 

患者さんも自身の状態が改善しないことから、プラセボに割り付けられたと感じて、治験を途中でやめてしまう可能性もあります。

これはデータにとっては悪影響です。

 

  

 一般化可能性

治験というのは閉じられた世界です。

以前リアルワールドデータのお話をしましたが、現実世界とは別の世界なのです。

 

特にプラセボ対照試験は、「現実世界」の有効性と異なる結果を与える人工的な環境で実施されているということができます。

 

倫理上や実施上の懸念のために、プラセボ対照試験の試験集団が目的集団を代表するものとなりえない場合、試験結果の一般化可能性の問題が起こりえます

 

例えば、治験においては厳正な選択除外基準が設けられています。

重い肝障害や腎機能障害患者、妊婦や小児は除かれるケースがほとんどです。

 

それはそのような方を治験に組み入れることに、倫理上や安全性上の懸念があるためです。

 

そうでなくても基準の外で、患者さんのセレクトを絞るケースもままあります。

綺麗なデータを出すために上手に試験を行うということです。

ここはあまり深く書くとあれなのでやめます。

  

要は限られた患者さんによる閉じられた世界のデータは、リアルワールドにおけるデータ、つまり普通の患者さんたちに対して、そのまま当てはめられるデータとは必ずしもなりえないということです。

 

これが一般化の問題です。 

この辺を補うのが臨床研究であり、製造販売後臨床試験というわけですね。

  

 

まとめ

今日はプラセボ対照試験の利点や欠点について、考えてきました。

ちょっと専門的すぎる内容になってしまった気もしますが、アビガンをはじめとした、COVID-19治療薬候補の対応で、ばたついた政治家を見て、臨床試験について書いてみたくなり唐突に記事を作成しました。

イソジンで騒いだりもしてますしねー。くだらない。

 

たまにはこんなのもいいかなと思います。

 

え?ダメですか?
ここまで読んでこられたアナタなら、きっと大丈夫♡

 

 

※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。