ファイザーの新型コロナウイルスワクチン、コミナティ5-11歳用がついに特例承認されましたね。
待ち望んでいた方がいる一方、
「臨床試験がちゃんと行われていたのか?」
といった点を気にされる方も散見されております。
有効性や安全性については、アクセスしやすいところだと思いますので、
私はちょっと見方を変えて、
「どんな臨床試験の成績をもとに承認されているのか?」といった点や
「その妥当性について」考察していこうと思います。
※本記事は審査報告書の内容を敢えて簡単に説明していますので、専門的な事柄について、多少丸めて記載しています。詳細は審査報告書をご覧ください。
国内における申請パッケージ
さて、申請データの妥当性について考える前に、コミナティ5-11歳用のワクチンを国内で承認申請するにあたって、どんな臨床試験のデータが提出されたのか見てみましょう。
国内ではC4591007試験の免疫原性/安全性の成績を根拠として、承認申請されています。
この試験は5~11 歳の小児における免疫原性及び安全性を検討する海外第Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ相試験となります。
第Ⅰ相パートで用量検討を行い、安全性及び免疫原性の結果から10μg を選択した後、続く第Ⅱ/Ⅲ相パートで免疫ブリッジングの手法を用いて、
5~11 歳の小児と既に実施されているC4591001試験の16~25 歳の集団で得られた免疫原性データを比較評価しているのです。
ここでのポイントは下記の2つ。
・海外試験において小児の大規模な発症予防効果を確認する試験を行っていない
・国内の小児試験は行われていない
では上記の妥当性についてそれぞれ考えてみましょう。
小児の発症予防効果確認試験未実施の妥当性
見出しが長すぎて塵地螺鈿飾剣みたいになってしまった。
さて、まず第一に海外においては、16歳以上を主な対象とした海外第Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ相試験(C4591001 試験)の第Ⅱ/ⅢパートでCOVID-19 の発症予防効果及び安全性を確認しています。
その後、C4591001 試験に追加で組み入れられた12~15 歳の集団の免疫原性を評価し、
16~25 歳の集団の免疫原性と同程度であること、安全性についても特段の懸念は認められないことが確認されています。
ここまでは良いですね?
・16歳以上は大規模な発症予防効果/安全性を確認
・12-15歳は16-25歳と同等の有効性と安全性であることを確認
というわけです。
では小児はどうやって有効性と安全性を確認しようか?
これまでの流れで5-11歳に対して、大規模な発症予防効果を見る必要があるかどうか?という答えは見えてくると思います。
実際にそのような試験は行われていません。
その妥当性について考えましょう。
小児のワクチン開発において、他の感染症予防ワクチンにおいても、成人集団での有効性が臨床試験で確認されている場合、両集団での免疫原性が同程度であることに基づき、臨床的有効性を評価する免疫ブリッジングの手法が用いられ、薬事承認された実例があります。
これと同じ考え方でコミナティの対象年齢も広げていくということが、海外先進国の各規制当局に受け入れられたというわけです。
なお免疫ブリッジングに係る成功基準(GMRの両側95%CIの下限値が0.67を上回り、点推定値は0.8 以上、及び抗体応答率の差の両側95%CI の下限値が-10%を上回る)は、
感染症予防ワクチンの臨床評価に関するガイドライン(Guidelines on clinical evaluation of vaccines: regulatory expectations, WHO Technical Report Series 1004, Annex 9, 20178))や、
他の感染症予防ワクチンの多くの臨床試験における非劣性マージンの設定(Vaccine 2015; 33: 1426-32)などを参考に設定されております。
大丈夫です。私もたいして分かっていません。
ここでご理解頂きたいのは、
「コミナティ5-11歳用だけに特別な制度や基準を設けているわけではなく、これまでの感染症予防ワクチンと同等な基準」なのだということです。
だからコミナティを特別に無理やり押し通したなんてことはないのですよ。
またFDA の「Licensure and Emergency Use Authorization of Vaccines to Prevent COVID-19 for Use in Pediatric Populations」において、
一般的に小児はCOVID-19 発症や重症化の頻度が低く、小児集団でSARS-CoV-2 ワクチンの有効性を検証するための検出力を確保した臨床試験の実施が困難な可能性があることも示されております。
このような背景も小児の大規模試験を実施しなくてよいとする見解を後押しするものとなるでしょう。
COVID-19における発症予防効果と免疫原性の相関については、
中和抗体価がSARS-CoV-2 ワクチンの有効性を推測するバイオマーカーとなり得る知見が得られていること(Nat Med 2021; 27: 1205-11)を踏まえて、
成人等の別の集団でワクチンの有効性が検証されている場合、中和抗体価のGMT 及び抗体応答率による免疫ブリッジングの手法を用いて小児の有効性を推測可能であることが示されており、こちらについても妥当であるものと思われます。
これについてははじめから分かっていたわけではなく、大規模な発症予防効果の確認や接種の積み重ねが知見としてあったからこそでもありますね。
海外で小児の発症予防効果を確認していないことの妥当性はご理解頂けましたでしょうか?
国内小児臨床試験未実施の妥当性
さて次は国内で小児試験が行われていないことの妥当性について考えてみましょう
まず重要な点として、日本人の20歳以上の試験は国内で実施されています。
これはC4591005試験であり、コミナティを初めて特例承認した際の申請パッケージに含まれていたものです。
この試験は20~85 歳を対象とした国内第Ⅰ/Ⅱ相試験(C4591005 試験)であり、
この結果、日本人における免疫原性はC4591001試験(前述の海外大規模試験)の被験者における免疫原性の結果と同程度であること、安全性についても特段の懸念は認められないことが確認されています。
この辺りの詳しいお話は下記記事を参照ください。
ここで重要なのは、
日本人と海外の成績に差はなかった。
つまり人種差は認められなかったという点です。
そのため改めて国内で小児の試験を行い、人種差を確認する必要性は極めて少なく、実施しなくても差し支えないと判断されたわけです。
またコミナティ承認後に12 歳以上に対する接種が進められ、国内での使用経験が多く集積されていることも追い風となっています。
日本人で試験を実施しろ!という方は、日本人における特異的な反応を懸念しているのでしょうから、この対応については特に異論ないのではないでしょうか?
まとめ
さて今日はコミナティ5-11歳用の申請パッケージや大規模発症予防効果確認試験/国内小児試験未実施の妥当性について考えてきました。
小児では大規模試験を実施していない
国内で小児試験を実施していない
だから危ない!治験が不十分だ!!
ではなく、科学的な見地からその妥当性について考えてみることが重要ではないでしょうか?
今回は試験の成績、有効性や安全性については直接触れずに、申請データパッケージの妥当性を検証してきましたが、みなさまの参考になりましたら幸いです。
参考
・コミナティ審査報告書(2021/2/14、11/11、2022/1/21)