先日に引き続き、コミナティ5-11歳用の審査報告書を参考に、気になる部分を一緒に考えていきましょう。
今回は小児におけるワクチン接種後の心筋炎/心膜炎のリスクについてがテーマです。
モデルナよりも少ないとはいえ、コミナティでも接種後に心筋炎/心膜炎の報告があり、小児への接種を検討するにあたり、懸念されている方もいるかもしれません。
この点について審査過程において、どのような議論がなされ、そして承認に至ったのかを見てみましょう。
※本記事は審査報告書の内容を敢えて簡単に説明していますので、専門的な事柄について、多少丸めて記載しています。詳細は審査報告書をご覧ください。
Contents
承認申請パッケージについて
今回の記事を読む前に、コミナティ5-11歳用を国内で承認申請する際に用いたデータパッケージについて、把握しておいて頂ければと思います。
承認申請のメインデータはC4591007試験(海外の5-11歳対象の免疫原性/安全性の確認試験)です。
詳しくは下記をご参考ください。
心筋炎・心膜炎の事例や頻度について
5-11歳対象の臨床試験における発現
さて、本題に入ります。
まずコミナティ5-11歳用を承認するにあたり、重要である海外の小児試験(C4591007)における心筋炎/心膜炎の発現頻度はどうだったでしょうか?
結論から申し上げますと、この試験では5-11歳において心筋炎/心膜炎の発現は認められませんでした。
しかしだからと言って、5-11歳で心筋炎/心膜炎のリスクは考えなくてよいというのは早計です。
もともと頻度が少ない事象であり、規模が大きくないこの試験では、心筋炎/心膜炎のリスク評価は難しいからです。
これまでに蓄積されたデータ
では次に、これまでの接種から蓄積された事例を見てみましょう。
ファイザー/ビオンテックのデータベース
ファイザー社の所有する安全性データベースでは、 2020年12月19日~2021年10月28日の期間において、5~11 歳の小児における心筋炎/心膜炎の報告は1例あったとのことです。
当該症例はコミナティ(接種用量不明)2回目接種から4日後に心筋炎を発現し、8日間入院したことが報告されていますが、転帰は不明(2021年12月8日時点)となっています。
また、同データベースで 2021年10月1日~同年10 月28 日に報告された心筋炎/心膜炎(年齢を問わない)は1,861 例(心筋炎934 例、心膜炎927 例)でした。
うち、12~15 歳の小児(承認用量は30 μg)における報告は、心筋炎83 例(うち国内9 例)、心膜炎38 例(うち国内3 例)でした。
転帰は、心筋炎については回復/軽快39 例、未回復20例、不明24例、心膜炎については回復又は軽快15 例、未回復13例、不明10例であり、いずれも致死的な転帰は報告されていないようです。
回復までの期間は、心筋炎においては、情報が得られた8 例について中央値(範囲)は5(1~10)日間であり、心膜炎では情報が得られた1例について25 日間でした。
心筋炎/心膜炎の確定診断例が少なく、接種との因果関係を評価するための情報(ウイルス感染や他の要因を除外するための情報や病歴等)が十分得られておらず、因果関係評価は困難となっていますが、
コミナティ接種後の発現時期や2回目接種後の報告が多いことは、これまでのワクチン接種後の心筋炎の報告と一致していました
イスラエルのデータベース
先行して接種の進んでいるイスラエルにおける調査結果はどうなっているのでしょうか。
イスラエルの安全性監視データベースに基づく調査結果では、12~29 歳の年齢層におけるワクチン接種後の心筋炎の発生頻度(10 万接種回当たり)は、16~19 歳の男性で1回目接種1.21 / 2回目接種16.47 と最も高く、
12~15 歳の男性で1回目接種0.63/2回目接種8.20 であり、年齢が下がるほど発生頻度が高くなる傾向は認められなかったとのことです。
(Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee October 26, 2021 Meeting Document)
NEJMにおける報告
NEJMに報告されたデータにおいては、海外においてコミナティを含む SARS-CoV-2に対するmRNA ワクチン接種後の心筋炎又は心膜炎の報告は、2回目接種後に多く、特に若年層の男性の2回目接種後に多いことが報告されています
(N Engl J Med 2021; 385: 2140-9)。
国内における事例と協議結果
日本においては、第72 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3 年度第22 回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会において、
国内における報告、心筋炎関連事象疑い210 例(報告期間2021 年2 月17 日~同年10 月24 日)についても、2回目接種後の発現が多く、特に10 代や20 代の男性で多いこと等が示されています。
また同報告期間において、コミナティ接種後の心筋炎関連事象疑い症例において、亡くなった事例が国内で13例報告され、これらのうち現時点で「mRNA ワクチンとの因果関係がある」と結論付けられる症例は認められないものの、mRNA ワクチンの接種と心筋炎関連事象による死亡との因果関係に関して注視すべき状況にあるとされています。
一方で、ワクチン接種後の心筋炎の発生頻度は、COVID-19 に合併する心筋炎関連事象の発生頻度よりも低いことから、10代及び20代の男性も含めてSARS-CoV-2 ワクチンは引き続き接種可能と判断されています。
コミナティ接種後の心筋炎や心膜炎の発現状況についてはご理解いただけましたでしょうか?
ディスカッション
さてこれらの結果をどうとらえるべきでしょうか?
個人的な見解となりますが、コミナティの副反応として、心筋炎/心膜炎があること自体は疑いようのない事実だと考えています。
もちろんファイザー社や規制当局も、因果関係を確定させる情報はない状況ではありますが、別に因果関係を否定しているわけではありません。
あくまで情報が不足しており、確たることが言えないというだけです。
5-11歳の臨床試験では心筋炎/心膜炎は認められておらず、また5-11歳の小児について、世界で初めて承認/緊急使用許可がなされたのは2021 年10 月29 日であるため、現時点で5~11 歳の小児における心筋炎又は心膜炎のリスクを評価するための十分な情報は得られていません。
残念ながらこれは事実ではあります。
しかしだからと言って5-11歳に接種には大きなリスクがあり、不適当と考えるのは早計です。
なぜなら比較するべきリスクは、
接種することのリスク/COVID-19にかかることによるリスクだからです。
接種のリスクと比べるべきは接種しないことで心筋炎や心膜炎の「副反応」を避けることとの比較するのではなく、接種しないことでCOVID-19にかかり、重症化や後遺症が残るリスクと比較しなければなりません。
上記を踏まえて、審査過程における協議を見てみましょう。
下記の3点を考慮するとコミナティ接種によるメリットは大きく、本薬のベネフィットリスクプロファイルは良好であると審査報告書では結論付けられています。
・他の年齢層においてmRNA ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の発生頻度は低く、発現したとしてもほとんどが無症状/軽症であると報告されている(Circulation 2021; 144: 471-84 等)
・小児のCOVID-19 は比較的軽症とされているものの、重症化する場合もある
・COVID-19 に合併する心筋炎、MIS-C/PIMS、後遺症等のリスクがある
確かに小児における重症化の割合は、成人よりも低く、接種による心筋炎や心膜炎のリスクもゼロというわけではないので、接種について躊躇する方もおられるかもしれませんが、接種しないことのリスクについても冷静に受け止めた上で判断頂ければと思います。
私としては子供に説明の上、接種させるつもりですが、これまでの大人における接種と比べると、その必要性は下がるかもしれないという点は理解できるところではあります。
接種しないことに理解はあるといっても、いたずらに不安を煽ったり、危険性をでっちあげるようなことはあってはならないと思いますけどね。
保護者の方は、出典のないネットの情報や、専門家でない個人の経験談、芸能人の意見等を参考にするのではなく、不安であれば医師や薬剤師とも相談しながら、接種するかしないか決めていけばよいのではないかと思います。
参考になりましたら幸いです。