待ちに待ったファイザー製の新型コロナウイルスワクチン、コミナティが2/14に承認されましたね!
2/17から国内の医療従事者に対する先行接種が始まる見込みです。
なお2/16現在、世界中で1億5000万回以上接種もされており、多くの海外の著名人も接種しています。
そんな中ですら、「国内で先行接種する医療従事者が実験台だ!」なんて声も散見されますが、
国内でも臨床試験はちゃんと行われていたのですよ。
今日は公開された審査報告書の内容から重要と思われる項目をピックアップして、簡単に紹介させて頂きます。
ワクチンが不安だという方、医療従事者が実験台だと言う方は、まずは臨床試験結果について、自分の目で確かめてみることをお勧めします。
※本記事は審査報告書の内容を敢えて簡単に説明していますので、専門的な事柄について、多少丸めて記載しています。詳細は審査報告書をご覧ください。
※審査報告書は海外データ含めて論じていますが、本記事では主に国内データを中心に取り扱います。
Contents
コミナティについて
まずは本剤の概要について見てみましょう!
ファイザー(ビオンテック)製の新型コロナウイルスワクチンは下記のような名称となっています。
商品名:コミナティ筋注
一般名:コロナウイルス修飾ウリジン RNA ワクチン(SARS-CoV-2)
有効成分名:トジナメラン
ご存じのとおり、mRNAワクチンというこれまでにない画期的な技術が用いられたワクチンです。
もう少しかっこよく言うと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードするmRNAを有効成分とするワクチンとなります。
標的タンパク質を持続的かつ効率的に翻訳するため mRNA の塩基配列が最適化され、また、生体内でのRNA分解を抑制し、mRNAの細胞内へのトランスフェクションを可能とするためmRNAをLNPに封入しています。
ちなみに核酸配列についても審査報告書に全て記載がありますので、情報が公開されていないなんてことはないのですよ。
また、気になる方もおられるかもしれませんが、ウイルスのmRNAをそのまま打ち込むということではないのですね。
まぁ、別にそのままでもどうということはありませんけどね。
そもそもmRNAワクチンは核内には入りませんし、
逆転写酵素がないからDNAにはなりませんし、
mRNAワクチンが遺伝子に影響を与える可能性は皆無と言ってもよいでしょう。
もしあなたが人類を超越しているのであれば、この限りではありません。
申請パッケージについて
さて有効性や安全性について見ていく前に、今回の申請パッケージについて触れておきましょう。
今回は国内第1/2相試験(P1/2試験)と海外の臨床試験データ(主に大規模第3相試験データ)を組み合わせて承認申請しています。
「日本での臨床試験が足りない!」とか言う人もいますので、これが妥当なのかということについて、まずは考えてみましょう。
以前記事でも触れましたが、PMDAが2020/9/2に
「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの評価に関する考え方」
という資料を提示しており、今回の申請パッケージはこの方針に準拠したものとなっています。
・参考記事
簡単に大事なところを抜粋して見てみましょう。
・感染症予防ワクチンの有効性は、原則として発症予防効果を主要評価項目として評価を行うものであり、
COVID-19 の発症予防効果について代替となる評価指標が明らかになっていない現状においては、
原則として、SARS-CoV-2 ワクチン候補の有効性を評価するために、COVID-19 の発症予防効果を評価する臨床試験を実施する必要がある。
・SARS-CoV-2 については、COVID-19 の流行の程度が国・地域によって異なること、
ウイルス株が地理的・時間的条件によって異なっていく可能性があること、
また、COVID-19 が重症化する患者の割合が国・地域によって大きく異なり、その背景については様々な検討がなされていることを踏まえると、
SARS-CoV-2 ワクチンのベネフィット・リスクの判断については、各国・地域の状況によって異なる可能性がある。
その他、民族的要因の差が SARS-CoV-2 ワクチンの有効性及び安全性に影響することも考えられる。
そのため、海外で発症予防効果を評価するための大規模な検証的臨床試験が実施される場合においても、国内で臨床試験を実施し、日本人被験者において、ワクチンの有効性及び安全性を検討することは、必要性が高いと考える。
・海外で発症予防効果を主要評価項目とした大規模な検証的臨床試験が実施される場合には、
国内で日本人における発症予防効果を評価することを目的とした検証的臨床試験を実施することなく、日本人における免疫原性及び安全性を確認することを目的とした国内臨床試験を実施することで十分な場合がある。
まとめると、
現時点で COVID-19 の発症予防効果の代替となる評価指標(例えば抗体価)が明らかになっておらず、発症予防効果と免疫原性との関連は明確ではないものの、迅速な SARS-CoV-2 ワクチンの開発が求められている状況等を考慮すると、
本剤の有効性については、海外の検証的試験(海外 C4591001 試験)の成績に基づき評価し、それに加えて国内臨床試験成績から日本人の免疫原性及び安全性を確認することで、日本人における本剤の有効性及び安全性を評価すればよい!
国内160名のP1/2試験だけでよい理由がご理解いただけましたか?
有効性
変異株に対する効果(非臨床試験)
それでは有効性について見てみましょう。
非臨床試験に関連する部分は国内試験ではないので、今回は取り上げないつもりですが、気になる方もおられると思いますので、変異株に対する効果の部分は見ておきましょう。
COVID-19の流行は、当初SARS-CoV-2のSタンパク質が D614(614 番目のアミノ酸がアスパラギン酸)であるウイルスが主流であったことから、本剤に用いられているmRNA 配列もD614をコードしています。
一方、2020年2月頃より D614G(614番目のアスパラギン酸がグリシンに置換)であるウイルスが増加し、11月時点においてD614G が世界的に最も累積頻度(89.0%)の高い変異とされています。
また12月には、Sタンパク質に複数変異を有し、感染性がより高いとされる変異株が、英国(VOC-202012/0112))及び南アフリカ(501Y.V213))で報告されています。
では、D614をコードしたこのワクチンが、変異株にも効果があるのでしょうか?
それを調べるために、本剤のmRNAがコードするSARS-CoV-2のSタンパク質と同じ配列を有するアミノ酸変異を加えた 19 種類の S タンパク質遺伝子を用いてウイルスを作成し、得られた血清を用いて各シュードウイルスに対する中和活性を測定しています。
その結果、検討したすべてのシュードウイルスに対する中和作用が確認されています。
このことから、PMDAとしては、2021 年 1 月 27 日時点で流行している「種々の変異株に対して本剤の一定の有効性は期待できる」と考えています。
しかしながら、SARS-CoV-2 のRNA ウイルスとしての生物学的特性や、COVID-19回復者血清の反応性が低い変異株が報告されていること等も考慮すると、
今後の流行において、本剤による免疫応答を回避する変異株が出現する可能性もあり、
各変異株に対する本剤の中和作用については、製造販売後も引き続き情報収集し、新たな知見が得られた場合には必要に応じて情報提供する等、適切に対応する必要があるとしています。
免疫原性と発症予防効果
さてそれでは臨床試験の成績を見てみましょう。
ファイザー社のプレスリリースにもありましたが、
国内では2020年10月よりP1/2試験が実施されています。
20歳以上85 歳以下の日本人健康人を対象(目標例数 160 例:本剤群 120 例、プラセボ群 40 例)の無作為化観察者盲検プラセボ対照並行群間比較試験ですね。
安全性、忍容性及び免疫原性の検討を目的としておりました。
参考:臨床試験で何を確認するのか
さてこの試験における有効性の結果ですが
治験薬2回目接種後1カ月のSARS-CoV-2 血清中和抗体価のGMT
1回目接種前に対する2 回目接種後1カ月の GMFR[両側 95%CI]は、
本剤群で 489.9[420.4, 570.9]及び 48.1[41.3, 56.0]、
プラセボ群で 10.6[9.8, 11.4]及び 1.1[1.0, 1.1]でした。
大事なのは「この結果が海外C4591001試験と同程度以上の値であった」ということです。
つまり、国内試験の日本人被験者で、海外試験と同様の SARS-CoV-2 血清中和抗体価の上昇が認められていること、
複数の国、人種、民族が組み入れられた海外C4591001試験において有効性が示されたことを踏まえると、
日本人においても海外C4591001試験と同様の本剤の有効性は期待できるということです。
なお海外試験で検討されている範囲では人種及び国別の COVID-19発症予防効果に顕著な差は認められていません。
海外で大規模臨床試験において発症予防効果が認められた。
日本人でも海外と同等以上の免疫原性が認められた。
だから、日本人でも発症予防効果は期待できるというロジックです。
安全性
続きまして安全性について見てみましょう。
国内試験では治験薬各回接種後7日間の反応原性事象を見ています
結果としては、本剤群の多くの被験者で 1 回目又は 2回目接種後7日間のいずれかに、局所反応及び全身反応(それぞれ 91.6%及び 78.2%)が認められ、発現割合はプラセボ群よりも高い結果となりました。
局所反応とは、注射したら赤くなるし、腫れるし、痛いということです。
全身症状としては、嘔吐は本剤群とプラセボ群で同程度でしたが、それ以外の発熱・頭痛・疲労・悪寒等は本剤群でプラセボ群よりも高く、また、本剤群ではほとんどの事象が10%以上に認められました。
なおGrade 3 以上の重い事象は、疲労、注射部位疼痛、頭痛、悪寒及び関節痛に認められた。
しかしこれらの結果は海外試験と比較して、特に日本人に多いものではありませんでした。
これに対するPMDAの見解を見てみましょう。
この国内の試験結果とこれまでの海外の臨床試験を踏まえると、PMDAは下記のように考えています。
現時点の情報において、
被験者の多くに反応原性事象として収集された局所反応及び全身反応が認められていたものの、ほとんどが軽度または中等度であり、回復性が認められていること、
国内外の安全性プロファイルに大きな差異は認められていないこと、
その他の有害事象の発現状況や年齢別の発現状況等から判断すると、
本剤の承認の可否に影響する重大な懸念は認められていないと考える
ただし、下記事項は本剤の被接種者にとって重要な情報であり、これらの情報については発現時期や持続期間等も含めて、医療従事者や被接種者等に対して適切に情報提供する必要があるとしています
多くの被験者に認められた全身反応は日常生活に影響を及ぼす可能性があること
Grade3の全身反応及び 37.5℃以上の発熱も一定の割合で認められていること
1回目接種後よりも2回目接種後で発現割合が高い事象が認められていること
副反応はそれなりにあります。
特に局所反応はかなり認められます。
でもそれをあげつらう必要はありません。
日本人に特別多い事象はないのです。
なお妊婦さんについては非臨床でも特段懸念はなく、海外でも少数の接種事例があることを踏まえ、予防接種上のベネフィットがリスクを上回る場合は接種可としています。
臨床的位置付けについて
COVID-19の病態や治療薬の効果、これまでに行われた国内外の臨床試験結果を踏まえて、このワクチンの臨床的位置づけについて整理してみましょう。
COVID-19の病態
・SARS-CoV-2曝露から発症までの潜伏期間は1~14日間で、通常は5日程度で発症することが多い。
・症状が発現する前から感染性があり、発症から間もない時期の感染性が高いことが市中感染の原因とされている
・COVID-19 との因果関係は明らかとなっていないが、一部の感染者ではウイルス
消失後も、嗅覚障害、味覚障害、呼吸困難、脱毛等の症状が遷延するという報告もある
・COVID-19 を発症すると、重症化や亡くなる場合もある
治療薬の現状
・レムデシビルが治療薬として承認され、デキサメタゾンは既承認の効能・効果の範囲で使用可能であり、その他、医療現場では重症度や症状に応じて各種治療薬が用いられているが、これらの治療を行っても感染者数、重症例や亡くなる方は増加している。
医療体制の現状
・国内では感染者数の増加が続いており、医療体制がひっ迫している状況である
かかる前に防げるのって素晴らしいことだと思いませんか?
まとめ
さて、今日は国内初の新型コロナウイルス感染症のワクチン、コミナティについて審査報告書の国内試験を中心に見てきました。
改めて内容をまとめてみましょう。
海外C4591001 試験の第Ⅱ/Ⅲ相パートの結果から、本剤の COVID-19 の発症予防効果は示され、
国内試験で海外C4591001試験と同程度以上の血清中和抗体価の上昇が確認されたことから、
日本人に対しても同様の COVID-19 の発症予防効果が期待できると考えられ、
安全性及び忍容性についても承認の可否に影響する懸念はない!と考えられました。
本剤接種後の長期の有効性及び安全性や重症化抑制効果は現時点では不明であり、
変異株に対する本剤の有効性に不確実性はあるものの、
本剤の接種により COVID-19 の発症予防効果が期待でき、
国内の発症者数の低減につながることが期待できること、
2021 年 1 月時点で感染者数が増加し医療体制がひっ迫している現状を踏まえると、
本邦初の COVID-19 に対する予防ワクチンとして、本剤を接種可能とすることは意義がある!と考えられました。
如何でしたか?
国内試験も踏まえた、このワクチンの有効性/安全性、そして臨床的な意義がご理解いただけましたか?
これまでに用いられていない技術で作られたワクチン
わずか1年で開発が進み、海外で承認されたワクチン。
国内で大規模臨床試験が行われていない点。
ぱっと見の印象では怖い!と思ってしまうのかもしれませんが、
この技術はぽっと出の技術ではなく、これまでの多くの基礎研究の積み重ねが導き出した技術なのです。
このスピードは途中をすっ飛ばしたからではなく、みんな一生懸命頑張ったからなのです。
そして日本人でも大丈夫だということも、ちゃんと確認できているのです。
ワクチンに不安が残る人も、今一度、冷静に考えてみて欲しいと思います。
他の審査報告書シリーズ
参考
コミナティ筋注審査報告書(令和3年2月12日)