先日、日本医師会のCOVID-19有識者会議から、パンデミック時における治療薬開発について警鐘を鳴らす提言がありました。
ここ2-3か月間、「私がずっとぶぅぶぅいっているようなこと」をさくっと明快にまとめてくれています。
今日はこの内容を要約しつつ、簡単な解説を添えながら見ていきましょう。
予定にはなかったのですが、胸に刺さったので急遽記事にしました!
ちょっと雑なところは後で直します。
提言内容はこちら
「新型コロナウイルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」(日本医師会COVID-19有識者会議声明 2020年5月17日)
www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp
レムデシビルの承認について
はじめのセクションではレムデシビルの承認について触れています。
COVID-19は人類にとって経験のない疾患であり、多くの既存薬や候補化合物が有効性を期待して、治療に用いられてきた中、レムデシビルがプラセボ対照ランダム化二重盲検比較臨床試験の結果に基づき、高いエビデンスレベルで有効性が確認されたことを述べています。
★参考
・simple試験概要の解説
「レムデシビルの治験失敗報道の考察」と「実施中のGlobal P3試験の概要紹介」
・ACTT試験の結果の解説
レムデシビルのプラセボ対照二重盲検試験結果まとめと所感(NIH)
プラセボ対照の二重盲検試験というのは、自然治癒やDr.や患者さんの思い込みによるバイアスが少なく、エビデンスレベルが高いということです。
この結果を受けて、レムデシビルはアメリカでの緊急使用承認、日本では特例承認で承認を取得しましたね。
今後レムデシビルは、他の有効性および安全性に優れた薬剤の登場までの間、COVID-19に対する標準治療薬と位置づけられるとしています。
しかし、レムデシビルがCOVID-19の特効薬に位置づけられるかどうかは、肝障害などの副作用の問題もあり未知数と述べています。
そもそもの切れ味も微妙でしたしね。
つまりレムデシビルで全てが解決するわけではなく、あくまでつなぎとしてはいいのではないか?ということですね!
このあたりについては、私も同意見で全く異論ありません。
★参考
・特例承認の解説
特例承認ってなに?なぜアビガンではなくレムデシビルなの?その妥当性は?
エビデンスの判定レベルを下げることへの警鐘
次のセクションが個人的にはもっとも重要だと思います。
このセクションでは、エビデンスレベルの低い(不十分な)状態での治療薬の承認に対して、「科学を軽視した判断は最終的に国民の健康にとって害悪となり、汚点として医学史に刻まれることなる。」という強烈な言葉を引用して、批判しています。
私は医師会というのは診療費にうるさくて、薬剤費を下げろという煙たい存在と感じたりすることも、正直ありましたが、ちゃんと言うこと言ってくれるのだと、深く感動しました。
「汚点として医学史に刻まれることになる」
まさにそうだと思います。
先日のサリドマイドの記事(サリドマイドにおける催奇形性の薬害の教訓と対策は活かせるか? )にも書きましたが、あのようなことは二度と繰り返してはならないのです。
もちろんクリティカルな副作用というだけに限らず、効果のない薬を承認してしまうことだって、国民に対する大きな不利益となります。
この言葉の重さは政治家やメディアには伝わるのでしょうか。
さて、では具体的な内容について見ていきましょう
・「有事だから」エビデンスが不十分でも良いということには断じてならない。
・COVID-19治療薬開発のためには、適切に設計され、適切なコントロール群(抗ウイルス薬または免疫調整剤を含まない群)を含むランダム化比較試験(RCTs)」を実施することを求めており、「十分な検出力確保のための症例数設計」が重要。
・COVID-19のように、重症化例の一方で自然軽快もある未知の疾患を対象とする場合には、症例数の規模がある程度大きな臨床試験が必要。
・観察研究だけでは有意義な結果を得ることは難しい。
「観察研究により有望とされた事項は、質の高いランダム化比較試験により厳格に確認または否定されなければならない」つまり適切な臨床試験の実施は必須。
簡単にまとめると下記3点です。
次に観察研究の問題点と臨床試験の必要性について触れています。
・ランダム化比較試験に患者を登録するよりも、観察研究の方が患者の同意も取得しやすい。
・観察研究の方が試験参加医師の負担も少ない。
・「エビデンスの判定基準を下げる」という誘惑には抗うべき。そうしないと医薬品の有効性は承認前には証明されず、有効かつ安全な治療薬の開発にも悪影響を及ぼす。
・科学的に有効性が証明された治療を選ばずに、証明されていない薬剤を患者が強く希望したために、治癒するチャンスをみすみす逃した事例が過去にあったことを忘れるべきではない
・「科学」を軽視した判断は最終的に国民の健康にとって害悪となり、汚点として医学史に刻まれることなる。 」
簡単にまとめると下記のようになるかと思います。
メディアへの警鐘
最後のセクションでは、目に余るメディアに太い釘を刺しています。
彼らは痛覚がマヒしているので、この程度の釘では効かないかもしれませんが、医師会という医療の専門家集団の提言です。
政治家やワイドショーに出ている芸人、自称専門家のような素人の「質の低いコメント」ではないのです。
少しは耳を傾けてもらえるといいなーと、ほんのちょびっと期待しています。
では具体的な内容を見ていきます。
・最近COVID-19に感染した有名人がある既存薬を服用して改善したという報道や、一般マスコミも「有効』ではないかと報道されている既存薬をなぜ患者が希望しても使えないのか、と煽動するような風潮がある。⇒使えたらまずいでしょうに。。。
・パンデミック下のランダム化比較臨床試験不要論を主張する医師も存在する。
・サリドマイドなど数々の薬害事件を忘れてはならない。
・品質、有効性、および安全性の検証をないがしろにした結果の不幸な歴史をのりこえるべく、今日の薬事規制が存在している。
・ある既存薬のランダム化比較試験は進行中であり、近く結果の発表が見込まれる。 有効性が科学的に証明されていない既存薬はあくまで候補薬に過ぎないことを改めて強調し、エビデンスが十分でない候補薬、特に既存薬については拙速に特例的な承認を行うことなく、十分な科学的エビデンスが得られるまで、臨床試験や適用外使用の枠組みで安全性に留意した投与を継続すべき。
ここのセクションは非常に面白くて、「直接言及したいけど言えない思い」があふれ出ています。
オブラートにやさしく包んでいるのですが、あちこちからとげが飛び出して、もはや名指ししているのと変わりません。
私はこのセクションで噴き出してしまいました。
るな的にまとめると下記のようになります。
所感
冒頭でも述べさせていただきましたが、この提言は、私が最近この小さなブログでぷりぷり怒りながら主張していたことと、非常にかみ合っており、私としては医師会がこういうことを言ってくれるのだと感動した次第です。
アビガンについては、臨床研究の結果が良くなかったという「噂」が飛び交っています。
データを見ていないので、確たることは言えませんが、まさかこの状態で承認されるようなことはないと願いたいところです。
期しくも、アビガンの臨床研究の結果が漏れ出てくる前に出された提言です。
医師会の意見をよく聞いて、政治家は無駄に圧力をかけて承認しないようにしていただきたいところですね。
歴史に汚点を残すことになりかねません。
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