るなの株と医療ニュースメモ
株や医薬品関連ニュースに一歩踏み込みます!
医療の話題

BCGワクチンが抗がん剤に変身!薬の再開発、ドラッグリポジショニングとは?事例も紹介

f:id:Luna1105:20200307162632j:plain

ハンコ注射で有名なBCGが膀胱がんの治療にも用いられていることをご存知ですか?

このように薬を再開発する動き(ドラッグリポジショニング)が近年注目されています。

今日はこのドラッグリポジショニングについて、今後の医薬品開発戦略に与える影響も含めて考えてみたいと思います。

少し重めの内容ですので、興味がない方は下記の表だけ見て、少しでもへぇーって思っていただけますと幸いです。

ドラッグリポジショニングとは? (Drug Repositioning:DR)

ドラッグリポジショニングをそのまま和訳すると、薬の再活用、再活性、再開発のような感じになるかと思います。

少し詳しい方だと「それって適応拡大と同じでは?」と思われるかもしれませんが、その答えはある意味正しいということができます。このドラッグリポジショニングという言葉はまだ明確な定義づけがされているわけではないためです。

そのような中で「敢えて」適応拡大と差別化するのであれば、下記のようになります。

適応拡大:薬の適応を関連する領域に広げること(拡大)

ドラッグリポジショニング:薬の適応を全く別の種類の領域に広げること(既存薬の再定義)

※厚生労働省生活衛生局の方から以前お話を伺った内容を参考にしております。

例えば、うつ病の薬が社会不安障害の適応を取れば適応拡大、うつ病の薬が抗がん剤で適応を取得したらドラッグリポジショニング、というようなイメージです。

 

ドラッグリポジショニング事例

さて、薬の新たな側面を活用するドラッグリポジショニングですが、どのような事例があるでしょうか。少し例を挙げてみましょう。

一般名 既存の適応(商品名) 追加適応(商品名)
カルメットゲラン BCGワクチン 表在性膀胱癌、膀胱上皮内癌

(イムノブラダー)

ジフェンヒドラミン 悪心・嘔吐・めまい

(トラベルミン)

睡眠改善

(ドリエル(OTC))

レバミピド 胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善(ムコスタ) ドライアイ

(ムコスタ)

ビマトプロスト 緑内障、高眼圧症

(ルミガン)

睫毛貧毛症

(グラッシュビスタ)

デュタステリド 前立腺肥大

(デュタステリド)

男性型脱毛症

(ザガーロカプセル)

冒頭でご紹介したようにワクチンであるBCGが癌に使われたり、胃薬であるムコスタがドライアイに使われたり、緑内障治療薬のルミガンが睫毛貧毛症(まつ毛が少なくなる病気)に使われたり、なかなか面白いと思いませんか?

これらがどのように見つかったかですが、上記のような薬剤は主に「副作用を主作用に切り替えたもの」になります

例えば緑内障の薬のルミガンはまつ毛が伸びるという副作用が出てしまいました。むしろこれは女性としてはちょっと羨ましいですよね(笑)。ということでそれをメインに開発してみよう!となったわけです。

他にも酔い止めのトラベルミンを飲むとなんだか眠くなりませんか?これはヒスタミン受容体に作用していることが原因ですが、この眠気を睡眠改善薬として活用したものが、OTC薬(市販薬)のドリエルです。

このように副作用を悪いものとしてではなく、よいものとして切り替えて、それをメインにして薬剤を開発したということですね。

上記のような事例は既に上市されている薬剤の転用事例ですが、近年では開発段階からスクリーニングにかけて、薬剤の適応を探る動きも出てきています。効果や市場規模、開発成功率、競合品の状況等を踏まえて、その適応で開発を進めるかを検討しているということですね。(厳密言うとこれは「リ」ポジショニングではないのかもしれませんが)

ドラッグリポジショニングの開発における利点

上市されている薬剤のドラッグリポジショニングには下記のような利点があると言われています。

・確実性:安全性が臨床レベルで確認済み、体内動態がヒトで確認済み

・低コスト性:多くの既存データが利用できる、通常よりも短期間で開発可能

・優位性:発見した新薬効に関する特許を申請済み、蓄積されたノウハウが存在

要はドラッグリポジショニングは全く新しい医薬品を開発するよりも、だいぶ楽に開発を進めることができるというわけです。ただしこの利点のうち、特許という制度が足を引っ張ることもあります。

足を引っ張る特許制度

特許には様々な種類がありますが、化合物としての特許、いわゆる物質特許についてはドラッグリポジショニングを行っても取得できません。基本的には用途特許(どのようにその物質が使われるか)になります。

そうすると製薬企業としては開発費をペイすることが難しく、開発に及び腰となるわけです。

大学の研究者についてはどうでしょうか。薬学部の研究室のホームページを見てみると、既存薬が別の疾患にも効かないか研究しているようなところがたくさんあり、素晴らしい研究成果を出されている研究者の方もたくさんおられます。

そのような方が研究対象の薬剤を他の疾患の適応取得に向けて動くためには、基本的には特許を持っている製薬会社と組む必要があります。

特許を持っている製薬会社が乗り気であればそれでよいのですが、乗り気でない場合は他の製薬会社を探す必要があります。その際は特許を持っている製薬会社から過去の臨床試験データを頂く必要がありますが、これが物凄くハードルが高く、だいたいがこの段階で開発をあきらめることになります。

ドラッグリポジショニングの今後

では今後もドラッグリポジショニングはそこまで進まないのかと言われると、そんなことはないと思われます。

製薬企業の集まりである製薬協が2025年のビジョンを定めており、その中の「先進創薬技術の積極的導入」の項目に下記のような記述があります。

「上市品や開発で中断した既存の化合物について新たな適応症での可能性を探索するドラッグ・リポジショニング、このほか、ヒト臨床データ等を含むビッグデータの利活用、ゲノム編集技術や再生医療技術の活用などに取り組む。」

上記を踏まえると、薬剤の開発が難しくなる中、ドラッグリポジショニングは今後の開発戦略の一つとして、重要な位置づけを担っていくことになるのではないでしょうか。ドラッグリポジショニングのスクリーニングを手掛ける企業もありますので、個人投資家の視点でも注視していきたいと思います。(取ってつけた株要素)

まとめ

ドラッグリポジショニングについて考えてみましたがいかがでしたか?

身近にある医薬品、医師から処方された医薬品について、どうやって開発されたのか調べてみると、何か新しい発見があるかもしれませんね。

ちょっと重い内容になりましたが、学会で聞いたときは結構面白かったので私なりにまとめてみました。

お付き合いいただきまして、ありがとうございました。