以前、ゲーミフィケーションについてご紹介させて頂きました。
何か事件があるとゲームが趣味だったのが悪いのでは?とか、槍玉に挙げられることが多いですが、そもそもこのご時世、ゲーム機を持ってない年頃の男の子のほうが、珍しいのでは?
というか、ワイドショーで虚偽ばかり振りまくメディアの方が、よほど有害なのでは?なんて思いますね。
そんなゲームを治療に活かすという画期的な試みなのですが、アメリカにて、ついに1製品承認に至りましたので、今日はその内容について触れてみたいと思います。
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ゲーミフィケーションとは?
「ゲーミフィケーション」という言葉があります。
これは2011年頃にアメリカのシリコンバレーで使われ始めた言葉で、「ゲーム以外の文脈にゲームの要素を展開する」という意味です。
簡単に言うと「ゲームを活かして、ヒトの行動を変えていくこと」です。
製薬会社はその名の通り、主として医薬品を開発・製造・販売しています。
ところがこの医薬品の開発には莫大な費用と期間を必要とし、失敗すれば全てパーになってしまいます。
特に近年は開発候補化合物の枯渇や要求水準の上昇、そして日本でいえば薬価抑制政策の影響もあり、製薬会社の経営に影を落としています。
そこで製薬会社はこの「ゲーミフィケーション」を取り入れたヘルスケアソリューションの開発に手を広げてきたというわけです。
・参考
ゲームを悪者にばかりしないで!医療分野における活躍、ゲーミフィケーション(武田、塩野義、アステラス)
製品の概要(AKL-T01/米での名称:EndeavorRxTM)
今回アメリカで承認された「AKL-T01」は塩野義さんが日本や台湾における独占的開発権・販売権を取得しているデジタル治療アプリになります。
導入元はアメリカのAkili社(アキリ社)になります。
8~12歳の小児の注意欠如・多動症(ADHD)におけるコンピュータを用いて評価された不注意症状の改善を適応として、世界初のゲームベースのデジタル治療として米国食品医薬品局(FDA)の承認取得したことが先日公表され話題を呼んでいます。
AKL-T01は、スマートフォンやタブレット上で操作するゲーム形式の治療法であることが大変画期的なものとなります。
ゲームをしていると集中力が高まるなんていうのは、多かれ少なかれ経験のあるところだと思います。
あの感じをもっとしっかりと医学的に効果が認められるようにデザインしたゲームを行っていただくということです。
このゲームは、Akili Selective Stimulus Management Engine(SSMETM)コアテクノロジーに基づいて、認知機能において重要な役割を果たすとされる脳の前頭前野を活性化するように設計されており、患者さんの状態をモニタリングしつつ、最適化された難易度のゲームに継続して取り組むことで、患者さんの状態改善を促すとのことです。
といっても、実際にどんな感じの治験を行って承認されたかは、プレスリリースではあまり触れられていませんので、ランセットの論文と治験の概要をもとに少し深堀してみましょう。
アメリカにおける臨床試験の概要と結果の紹介
・参考文献(ランセット)
https://www.thelancet.com/journals/landig/article/PIIS2589-7500(20)30017-0/fulltext
・臨床試験概要(NCT02674633)
Software Treatment for Actively Reducing Severity of ADHD – Full Text View – ClinicalTrials.gov
導入元のAkili社のProduct pageで紹介されている上記の論文とClinical trials.govに載せられている治験情報を合わせて簡潔にまとめていきます。
なお和訳は「適当るな訳」ですのであしからず。
試験名
A Randomized, Controlled, Parallel-group, Intervention Study to Assess At-home, Game-based Digital Therapy for Treating Pediatric Participants Ages 8 to 12 Years Old With Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD)
小児ADHD患者(8〜12歳)を対象とした自宅でのゲームベースデジタル療法を評価するための、無作為化、並行群間、介入研究
治験概要
2つのiPad-baseのビデオゲーム(AKL-T01、AKL-T09)に患者を無作為に割り付け、28日後のADHDの改善効果を比較しています。
治験スケジュール
スクリーニング、ウォッシュアウト/ベースライン、治療という3つの主要なフェーズで構成されています。
評価項目
・主要評価項目(28日目のデータ)
Test of Variables of Attention:T.O.V.Aの注意機能スコアを用いたAttention Performance Index(API)のベースラインからの変化量
(※T.O.V.A.は米国FDAが承認した注意および抑制制御に関する客観的な評価方法です。)
・副次評価項目(28日目のデータ)
1.Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery (CANTAB) のベースラインからの変化量(※CANTABはワーキングメモリーのテストです。)
2.ADHDの症状のベースラインからの変化(Attention Deficit Hyperactivity Disorder Rating Scale (ADHD-RS), subscale and total scale )
3.Behavior Rating Inventory of Executive Function (BRIEF-Parent), subscale
(※BRIEFは実行機能のテストです。)
4.TOVA 8の非複合スコアの変化量
5.Impairment Rating Scale (IRS) の変化量
6.Clinical Global Impression – Improvement Score (CGI-I) の変化量
(※CGI-Iは臨床的変化量を数字で表す評価スケールです。)
主な選択基準
特別変わった基準は見受けられませんでした。
ADHDの試験では知能指数が基準に入ることが多いですね。
薬で治療中の場合はウォッシュアウトが必要となります。
主な除外基準
細かい点は省きますが他の精神疾患をり患している場合は、評価に影響を与えますので除外していますね。
色覚異常や兄弟の治験登録制限は普通の試験はなくて面白いですね。
どれくらいプレイするの?
1日25分、1週間に5日間のプレイを4週間行うとのことです。
プレイ時間はそんなに長くないですね。
ゲームは1日1時間何て言いますからね。
・・・私はそんなもの、守っていません。
と言いたいのですが最近忙しくて必然的に守っています。
どんなゲームなの?
これ一番気になるところですよね。
でも細かいこと書いてなくて分かりませんでした。ごめんなさい。
対照製品であるAKL-T09はワードパズルと書いてありました。
結果
APIのベースラインからの変化量について、AKL-T01群は、対照群に対して統計的に有意な改善を認めました(p=0.006)。
かなり綺麗に出ていますね。
また、安全性においては、AKL-T01群で問題となる有害事象は見られず、重篤な有害事象の発現も認められておりません。
要は有効性は統計学的に明らか、安全性は何ら問題ないということですね
国内における臨床試験
日本においては、塩野義製薬が開発番号SDT-001として本製品の開発に取り組んでおり、6歳~17歳の小児のADHD患者を対象として、有効性と安全性を探索的に検討することを目的とした第II相臨床試験を実施中です。
目標症例数は247例、治験期間は2021年7月31日までです。
2020年7月19日現在、目下参加者募集中です!!
ぜひ日本でも承認されることを祈っています!
参考:臨床試験情報詳細画面 | 一般財団法人日本医薬情報センター 臨床試験情報
デジタル治療アプリの利点
ここからは今回の機器のようなデジタル治療アプリの利点や欠点について、私見を述べさせていただきました。
低い開発コスト
色々な記事で触れていますが、医薬品の開発には多大な費用がかかります。
化合物の創製から臨床試験までで、それこそ数百億ぐらいかかるケースもあるのです。
ゲーミフィケーションに代表されるデジタル治療アプリは、医薬品と比べると開発コストが低く、他業種の参入障壁も低いと思われます。
低い副作用リスク
医薬品と異なり、体内に入り各種受容体等に作用するわけではありませんので、副作用のリスクは低いと言えるでしょう。
ゲームやって、癌が発生したり、重篤な下痢が発生することは、まずないですよね?
頭痛や眼精疲労なんかはあるかもしれませんが。
これは医薬品にはない利点かもしれません。
データ収集の容易さ
これは場合によりますが、デジタル治療アプリを使用する場合は、そのアプリ自体を用いてデータを収取できる利点があります。
もちろん採血を行わなければ臨床検査値は分かりませんが、得られるデータは増えますね。
デジタル治療アプリの欠点
売り上げ、保険償還・・・先行きが不透明
つい先日、エビリファイのデジタル治療で大塚製薬と組んでいたプロテウス社が破産してびっくりしました。
これ、あまり売れなかったのですね。
まだまだ未開拓な分野ですので、薬価?がどうつくのか、保険適応されるのか?売上予測は?など、先行きが不透明な部分は多くあります。
まとめ
つい先日、日本でもキュアアップの禁煙治療用アプリが承認されて注目を浴びました。
このADHD治療アプリも日本での治験を行っています。
きっと近い未来には、ゲーミフィケーションがもっと身近な存在になるのではないかと思います。
だからといって、医薬品が淘汰されるとは思いません。
ただ、この治療アプリが「治療という概念」に一石を投じるのは間違いないと思います。
それぞれが補完し、治療効果を高めあっていくことが、患者さんにとって有益なことではないかと思います。
まだまだ五里霧中な状態かとは思いますが、私はこのゲーミフィケーションは次なる飛躍の分野だと考えています。
つまり投資チャンスでもあるということです。
塩野義さんはチャレンジングな会社で、たまに変なところを掴んでいますが、SageやOTSそしてこのAkiliのデジタル治療アプリ等、面白いところにも手を伸ばしていますね。
なかなか目の付け所がシャープです
いやシオノギですが。
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