医薬品に関連する内容を中心として記事を書いていると、どうしても避けられないのが薬価の問題ですね。
このブログでもオプジーボやゾルゲンスマを代表として、多くの記事において、薬価について触れてきました。
その中でちょこちょこ出てきていたHTA(Health Technology Assessment:医療技術評価)について、今日は取り上げたいと思います。
この分野は大変奥が深く、突き詰めていくと非常に面白いのですが、私の知識レベルの問題もあり、今日はあくまで基本について触れていきたいと思います。
具体的な算出方法というより、概念的なところを考えてみようというわけです。
医薬品の評価をどのように行っていくのか。
単純な有効性や安全性を超えた視点で見てみましょう!
Contents
HTA(Health Technology Assessment:医療技術評価)とは?
HTAとは「イノベーションの程度と患者さんの得られるベネフィットに基づき、患者さんや社会に対する医療の価値をはかるもの」です。
誤解を恐れず簡単に表現するとすれば「その治療はかかるお金の分の価値があるのか」ということですね。
ただし単純に「金銭的価値だけを比較するわけではない」のです。
ここが一番勘違いしやすいところです。
比較すべきは「患者さんの健康上のメリット」なのです。
例えば、生存年数が伸びたとか、救命率が増加したとかですね。
もっと身近な例でいうと「140円の雪見だいふく」と「270円のハーゲンダッツ」の価値を比べて、安いから雪見だいふくが優れていると言い切れますか?
ハーゲンダッツはその濃厚な味とプレミア感、それに付随する満足度という価値があるわけです。
値段だけではなく、その中身を含めて評価する必要があるのです。
なお、私は雪見だいふくを2個買います。
医療費の抑制ではなく健康上のメリットを比較
もう一度整理しましょう。
医薬品の費用対効果を考える際は、「医薬品による介入とその後の医療費の抑制度合い」を測りにかけるのではなく、それらと「健康上のメリット」を比較することが重要ということです。
そのための指標としてQALY(Quality adjusted Life Years:質調整生存年)という考え方があります。
これは生存年数に健康状態を重み付けした、疾患の領域を跨って比較できる指標です。
ただ生存年数が増えましたではなく、生きている期間におけるQOL(Quality of life:生活の質)等も考慮した指標というわけです。
同一のQALYでも必ずしも同じ意味合いではないため、絶対的な指標ではない点は注意する必要があります。
少しわかりにくいかもしれませんが、例えば、生存年数自体の改善と生活の質の継続的改善を比べた時、生存年数の改善のほうが価値があるかもしれませんよね。
1年しか生きられないところ、2年生きられたことと、
吐き気の副作用が軽減して毎日過ごしやすくなったのでは、
重みは等しくないのではないかということですね。
オプジーボはご存じですか?
小野薬品の開発した免疫チェックポイント阻害剤で、画期的な作用機序を持つ抗がん剤ですね。
この薬は医療経済を崩壊させるとして、特別な制度をもって不当に薬価が引き下げされた気の毒なお薬です。
★参考:オプジーボ
オプジーボ、夢の薬か金喰い虫か、高い薬価の変遷と特例市場拡大再算定制度(小野薬品:4528)
しかし・・・
この薬をHTAの観点で評価した場合、日本での販売価格は高すぎるかもしれません。
画期的新薬は評価していただきたいですが、その評価方法も時代に即して変えていかなければならないのです。
薬の承認はゴールではなくスタート
これまで日本においては、医薬品の承認=保険適応の流れであり、「承認」が一つのゴールでした。
この承認申請の流れは以前簡単に解説させて頂きましたね。
★参考: 医薬品の承認申請から販売開始までの流れ
医薬品の承認申請から販売開始までの流れとは?一般的な流れを解説
これからは承認後にも、どの程度の薬価で販売していくのか、どのような人に対して使用していくべきか等の課題、ハードルが課されていくことが予想されています。
日本はこの制度から遅れていましたが、ついに2019年より本格的に動き出し始めました。
ハーボニー(C型肝炎治療薬)やオプジーボ(ノーベル賞で一躍有名となった免疫チェックポイント阻害剤)のような高額な医薬品が世に出てきたことで、医薬品の効果や新規性だけではなく、医薬品の価格や、費用対効果にも焦点が当てられ始めているということです。
イノベーションの正当評価の機会:付加価値の創造
これまでの新薬開発では「主要評価項目」、要は薬の効き目ばかりが着目されていました。
しかし今後は薬の価値を裏付けるために別の指標が必要になってくるのではないでしょうか。
最近はSF-36といった、患者さんのQOLを主観的に評価する指標を取り入れる動きもあります。
ただこれは主観的評価であり、人種差も大きいので、なかなか難しいですけどね。
余談ですがこの人種差が大きいというのが民族特性を反映していて面白いです
このように従来の薬の評価以外に評価するべき事項を組み込むと、製薬業界にとっては開発コストが上がるのかもしれませんし、逆に上手く臨床試験を行い、付加価値をつけることで高い薬価が実現できるかもしれません。
薬価は数円の差でもすさまじい利益の差を生み出します。
それは使う人の数と使う日数が掛け算されるためです。
1錠100円の薬を毎日3錠服薬すると300円です。
それが1年分で109,500円です。
それを100万人が使うとすると1095億円の売り上げです。
薬価が5円上がるとどうなるでしょうか?
1日は315円、1年分で11,4975円、100万人では約1150億円です。
1年間の売り上げでも50億円も変わりますね!
50億円の売り上げなど大したことないと思われますか?
この50億円はただの売り上げではありません。
この増えた薬価分の売り上げは全てが利益となるのです!
そう考えると数円の差が大きいことが分かるかと思います。
このように医薬品に付加価値をつけることが、薬価改定に苦しむ製薬業界の助けになるかもしれませんね。
しかし残念ながら現在の日本の制度は付加価値がある薬剤を評価する制度ではなく、どちらかというと、付加価値のない薬剤の価格を抑える制度になっている気がします。(主観あり)
あーあ、いつものことですね。
まとめ
今日は医療技術評価の触り、基本についてまとめてみました。
医薬品の価値というのは単純な有効性や安全性だけで決まっていく時代は終わったのかもしれません。
そして、価格が高いからとそれだけを非難するのは非常にナンセンスなのです。
1億6700万円のゾルゲンスマで騒がれていますが、長い目で見れば既存治療と比べて費用的にも安く、1度の治療で完結することから、QOLや予後も良好な可能性があります。
それをただ価格が高いから、医療経済的に薬価の引き下げを要求するのは、まったくもって遺憾ですね。
★参考:ゾルゲンスマ
億越えの世界一高価な遺伝子治療薬ゾルゲンスマ承認、薬価はどうなった?(ノバルティス)
HTAは日本でも制度化して動き始めている制度です。
機会があれば、日本における医療技術評価の具体的な流れについて、今後解説していきたいと思います。
ただ内容は今日以上に重い内容になりますので、記載する場合はよく検討したいと思います。
※原価や研究開発のコスト等を含めて、ベースの薬価を算定する制度は別途あります。HTAだけで薬価が決まるわけではありませんので、ご注意下さいー!
※髪型をイメチェンしましたー!!サムネイルにてこずりました。
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