未だに消えないワクチンの不妊デマ。
これはワクチンには昔からあるデマで、コロナのワクチンに限らず、よくワクチン忌避のネタとして用いられています。
ファイザー(ビオンテック)の新型コロナウイルスワクチン、コミナティについては、臨床試験で確認しているのは当然として、その後の大規模な調査でも問題ないことが分かっています。
厚生労働省や河野大臣も明確に否定しており、多くの医師もそれはデマであり、不安になることはないということを、エビデンスを交えて説明していますので、敢えて私が説明するようなことではないと思いますが、
今日はちょっと違った切り口をということで、コミナティの審査報告書における非臨床試験の記述を中心に取り上げて、生殖発生に与える影響について考えてみたいと思います。
例によって専門的な記述は多少丸めて書いておりますので、詳細知りたい方は審査報告書をご覧ください。
PMDAのサイトから無料で誰でも閲覧できます。
概要/有効性/安全性
いつもは薬の概要や有効性、安全性について見ていきますが、それは以前行っていますので、基本的な情報をご要望の方は下記をご参照ください。
今日はいつもは飛ばすマニアックな非臨床試験を中心に取りあげます。
卵巣への分布?
ワクチンの成分が卵巣から検出された!
だから危ない!
という指摘を見たことがありませんか?
これはいわゆるADME(体内動態)の記述、つまり医薬品(この場合ワクチン)が体に入ってから体の外に排出されるまでの一生を見る試験の中で見つけた記述で騒いでいたのでしょう。
この部分の記載についてまずは考えてみましょうか。
その前にこのワクチンがどんなものであるか復習しましょう。
mRNAとLNP
コミナティはmRNAワクチンです。
mRNAは脆弱であり、生体内に投与されると、生体内の核酸と同様に速やかに代謝されて消えてしまいます。
だからこそmRNAワクチンを作ることが難しく、そしてmRNA医薬品というものがなかったのです。
このあたりのお話は下記を参照頂ければと思います。(だいぶ昔の記事です。承認されたこと書かなきゃ・・・)
ともかくmRNAは繊細なものでして、体内にずっと残って悪さする可能性はまずありません。
むしろ繊細過ぎて扱いに困っていたぐらいですので、体内に残るのであれば、それこそ素晴らしい医薬品がぽんぽこできていたでしょうね。
くだらない冗談は置いておいて、この脆弱なmRNAの問題点を解決して誕生したのがこのコミナティです。(だからノーベル賞クラスかも!)
どうしたかというと、mRNAを LNP という脂肪の膜で包み込んだのです。
LNP にmRNAを封入することで mRNA が代謝されることなく宿主細胞内に取り込まれ、細胞質内でタンパク質を発現することが可能となりました。
そのためLNPに封入したmRNA製剤の体内動態は、封入されている mRNA による影響を受けることなく、LNPに依存すると考えられます。
要は「中身(mRNA)ではなく包んでいる膜(LNP)によって、どこに運ばれて、どうやって消えていくかが決まる」というわけです。
さて本題です。
恐らく騒いでいる人が気にしていたのは、ADMEのD(Distribution)、つまり分布のところの記載でしょう。
本剤ではマウスにおいて、標識ルシフェラーゼ遺伝子発現 mRNA-LNP で分布を確認しています。
要は「ワクチンに標識(マーカー)をつけて、どこにいったのかなー?というのを見る試験」ですね。
単純に言うと、ワクチン注射しただけでは、ワクチンがどこ行ったか分からないので、目印つけて見えるようにしたということです。
その試験の結果ですが、投与部位以外で放射能が認められた(つまりワクチンが移行した)主な組織は、肝臓、脾臓、副腎、卵巣であり、投与 8~48 時間後に最高値(それぞれ 26、23、18 及び 12 μg lipid eq./g)を示していました。
あ、卵巣に移行しているから危ない?って。
まず前提としてこのような試験で医薬品の体内動態を見ることは通常も行われており、投与部位や標的部位以外に多少分布が認められること自体は、よほどのことがない限り問題とはなりません。
例えば反復投与により肝臓や腎臓に蓄積し、長期間服用すると肝毒性、腎毒性が認められるようなケースは注意が必要ですが、この程度の分布はありうることであり気にするレベルではないのです。
しかもワクチンですので、頻繁に繰り返し投与するものでもありませんしね。
(定期接種が必要になるとしても、少なくとも短期間で頻繁に繰り返し投与することにはならない)
改めて整理します。
ワクチンを投与すると主に投与部位に分布し、一部は全身(主に肝臓)へ一時的に分布し、それぞれでタンパク質を発現することになります。
しかしいずれの部位でも時間の経過とともにワクチンや発現したタンパク質は消失するため、問題とならないということです。
mRNA自体は脆弱ですぐに消失してしまうことも踏まえ、一時的に卵巣に少量分布したとしても全く気にする必要はないということですね。
審査報告書ではむしろ肝毒性の方に重きをおいて考察されています。
ラットで血中GGTの増加や肝細胞の空洞化が認められたからですね。
ただ本剤投与により肝臓及び胆道系への傷害を示唆する病理組織学的所見及び臨床検査値(血中 ALT、AST、アルカリホスファターゼ及び総ビリルビン)の変化も認められないことや、
肝胆道系障害に関する有害事象が臨床試験において報告されていないことから、問題ないとされています。
遺伝毒性試験
では次に遺伝毒性について見てみましょう。
遺伝毒性(Genotoxicity)とは、DNAや染色体、それに関連するタンパク質が作用を受け、その結果、細胞のDNAや染色体の構造や量を変化させる毒性のことを指します。
なんとこのワクチン、遺伝毒性を見ていないのです!
なんて騒がれたのを見たことはありませんか?
しかし実は遺伝毒性を見ていないのは事実なのです。
本剤に含まれる mRNA は天然型の核酸から構成され、新添加剤(ALC-0159、ALC-0315 及び DSPC)にも遺伝毒性の懸念がないためですね。
mRNAですし、添加物の遺伝毒性の有無についてもすでに分かっているからいらないのです。
生殖発生毒性試験
次に何だか話題になっていた生殖発生毒性試験の結果でも見てみましょう。
生殖発生毒性試験の目的は、ヒトでのリスク評価に資する情報となる哺乳類の生殖発生に対する医薬品の影響を明らかにすることです。
受胎能、胎児の催奇形性なんかをヒトで見ようなんてまずいですよね?
試験したら不妊になりましたとか、生まれてきた子供の手足がなかったとか、そんなことあったらどうするつもりでしょうか?
そんなことするやつは、FDAの故ケルシー氏に助走をつけて殴られるでしょう。
動物実験を非難する動物愛護団体もさすがにドン引きすると思います。
細胞を使って試験しろ!というならまだしも、動物じゃなくてヒトに上げてしまうなんて恐ろしい…
ちなみにケルシー長官の活躍に関するお話はサリドマイドのところで記載しています。
生殖発生毒性に関しては、通常、無毒性量(NOAEL:no-observed adverse effect level)を求めることが望ましいとされています。
これは毒性学的なすべての有害な影響が認められなかった最高の暴露量のことを指します。
要は「この用量までは少なくとも問題ないよ!」という用量ですね。
さて本剤はラットでこれを確認しています。
結果を抜粋しました。
30μg RNA/bodyという非常に高用量を投与されていますが、問題となるような所見は認められてないことが分かりますね。
つまり本剤の無毒性量は30μg RNA/bodyということです。
そして本剤投与により、親動物及び次世代への影響は認められていないことを示しています。
ちなみに審査報告書における生殖発生毒性試験に関する記述は上記の表の他に、2行だけです。
これは軽視しているのではなく、懸念するレベルの内容ではないからですね。
まとめ
今日は審査報告書の中でもマニアックな非臨床部分を中心に見てみました。
こんなところで議論するよりも、既にヒトにおける大規模な調査結果も示されているので、問題ないことは自明ではありますが、非臨床試験でも当然問題ないことは確認されているということを、ご認識頂けますと嬉しいです。