COVID-19治療薬候補の臨床試験において、稚拙な試験デザインのものが散見されるのは過去に記したとおりです。
では、どんな評価項目が良いのか、何に留意すればよいのか?
今日はその点について、各国の規制当局が集まって協議をした結果をご紹介しようと思います。
規制当局の議論というのは、すなわち、医薬品を承認する際の着眼点でもあります。
試験デザインについて考えるうえでは、非常に参考になるものと思われます。
そんなん関係ないわー!って方は、報道されるような治療薬候補の臨床試験の試験デザインや評価項目に注目してみてください。
それがちゃんとした内容でなければ、その薬は候補から外れると思っていただいても、大した差支えはないでしょう。
どこかで記しましたが、コンセプトのずれた試験、成功した結果に意義を見出すことが難しい試験は、はじめから失敗しているようなものなのです。
※今日は治療薬についてです。ワクチンはまた別で。
Contents
ICMRAとは?
まずはこの議論を行う組織について、簡単にご紹介しましょう。
ICMRA(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities)は、日本語では「薬事規制当局国際連携組織」と呼ばれます。
日本をはじめとして、アメリカ、オーストラリア、フランス、ドイツといった、主要な国の規制当局が集まって協議を行う組織です。
その目的は下記のとおりです。
各国の規制当局が集まるという非常にハイレベルな組織であり、ここでの決定事項は各国の規制当局における決定や判断にも影響することとなります。
COVID-19によるパンデミックに際して、専門の会合が開かれており、ワクチンや治療薬の開発についても盛んに議論されています。
今日はこの会合の結果のうち、治療薬の開発に関するものを抜き出し、簡単に考察していこうと思います。
COVID-19治療に用いられる医薬品に関するランダム化比較試験の主要評価項目について
議論に至る経緯と目的のまとめ
COVID-19治療薬の治験実施者より、試験の対象集団(例:軽症の外来患者と重症の入院患者)によって異なる主要評価項目が提案されてきました。
つまりこれまでの試験は対象集団も主要評価項目も様々であったということですね。
COVID-19治療のために開発される医薬品について、世界全体で将来の臨床試験を迅速かつ一貫して実施するため、どの評価項目が規制当局にとって受け入れ可能と判断できるのかを議論し、可能であれば合意をしていくことが重要となります。
つまり、これまでバラバラであったものについて議論し、「推奨される主要評価項目を定めたい!」というのが目的ということです。
推奨される主要評価項目:概要
主要評価項目は理想的には臨床的意義があるもの(生存や患者の状態の把握)にするべきです。
つまり真のエンドポイントとしては亡くなった方の割合等が望ましいということですね。
ただしこれは理想であり、実際はサロゲートエンドポイント(代替)を立てることになります。
エンドポイントとしては、現実的なサンプルサイズで十分に検出できることや計測可能であることも必要となります。
これを踏まえて、重症度別の協議結果についてまとめました。
中等症/重症のCOVID-19入院患者のケース
COVID-19治療薬の臨床的ベネフィットを提供するための主要評価項目として適切と考えられ、かつ承認をサポートできるような条件として、下記が例として挙げられました。
亡くなった方の割合だけが許容可能な主要評価項目ではないことで合意されましたが、すべての場合において、亡くなった方の割合は主要な副次評価項目として収集されるべきとされました。
やはりメインは「回復までの期間」というところが設定しやすいでしょうか。
また、ある時点において評価項目を見る場合、「臨床的に意義のある治療効果を把握するために最も有益な時点をどのように選択するか」は課題として残っているとのことです。
要は「いつ時点の状態を評価するのがいいのかなー。分からないなー」ということです
軽症のCOVID-19外来患者のケース
亡くなった方の割合は、主要評価項目として適切ではないとされました。
やはり軽症では有意差を出しにくいということもあるのでしょう。
試験の主要目的にもよりますが、下記が適しているとして合意されています。
入院率等の評価項目は、客観性に欠き、許容されないと考えられています。
またPOC(proof-of-concept)試験(※有効性を証明するための重要な試験)においては、ウイルス学的な評価項目が有用であることは基本的に合意されましたが、
第Ⅲ相試験の主要評価項目は、試験の主要目的を考慮して決定されるべきであるとされました。
つまり軽症対象とする際は、ウイルス量等も評価項目に含めてもよいのではないかということですね。
事例:レムデシビル
試験課題名
Adaptive COVID-19 Treatment Trial (ACTT)
概要
2020/2/21から始まった試験で、中等症~重症のCOVID-19の患者1063人(予定800人)を組み入れたプラセボ対照の無作為化二重盲検試験でした。
プラセボ群は1日目に200 mgのプラセボを静脈内投与し、続いて100 mgのプラセボを1日1回の維持量で、最長10日間投与。
レムデシビル群は1日目に200 mgのレムデシビルを静脈内投与し、続いて100 mgのレムデシビルを1日1回の維持量で、最長10日間投与。
観察期間は29日間です。
主要評価項目
主要評価項目は「回復までにかかった期間」です。
回復の定義は、「退院もしくは通常の活動レベルに戻ること」と定義づけています。
考察
上記のICMRAで議論されたものと同じですね。
時系列的には逆ですが、レムデシビルの試験が一つの基準と言えますね。
参考
レムデシビルのプラセボ対照二重盲検試験結果まとめと所感(NIH)
事例:アビガン1
先日失敗した特定臨床研究について見てみましょうか。
試験課題名
SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験
概要
「対象は無症状/軽症患者」であり、アビガンを投与してウイルス量が減るかを見よう!!という試験でしたね。
組み入れ患者数は89名と極めて少なく、44名がアビガンの通常投与群(1日目から内服)、45名が遅延投与群(6日目から内服)に無作為割り付けされました。
片方ははじめからアビガンを飲んで、もう一方は6日目からアビガンを飲み始めるということです。
主要評価項目
主要評価項目は「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」でした。
考察
上記のICMRAの議論を踏まえると、ウイルス学的な評価項目を主要評価項目としたのは、ダメではなかったのかもしれません。
結果は惨敗でしたが。。。
重症への推移率を主要評価項目に据えていたら、結果は異なっていたのでしょうか?
まぁこの例数ではだめだったと思います。
参考
いったい何がしたかったのか?アビガンの特定臨床研究の結果と私見【ファビピラビル】
事例:アビガン2
試験課題名
非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたファビピラビルの有効性及び安全性の検討-アダプティブ,単盲検,ランダム化,多施設共同比較試験(P3試験)
概要
非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者に対して、肺炎の標準治療に加えアビガンを追加したときの治療効果が、追加しない場合に比べて上回ることを確認します。
アビガン群に割り付けられなかった人は、肺炎治療に加えてプラセボが投与されます。
目標例数は96例、治験期間は2020年6月まででしたが延長しています。
9月には終わるめどがついていますね。
各症例の観察期間は28日間です。
ただしアダプティブデザインですので、途中で変更がある場合があります。
主要評価項目
主要評価項目は、体温、酸素飽和度、胸部画像所見の軽快、SARS-CoV-2が陰性化するまでの期間になります。
症状軽快後、48時間後に一定の間隔で2回のRT-PCR検査を実施し、「2回とも陰性だった患者」を抽出して、投与開始から1回目のRT-PCR検査で陰性が出るまでの期間をアビガン群とプラセボ群で比較するということです。
副次評価項目は、有害事象と7ポイントスケールによる患者状態推移となります。
考察
ん?ちょっと待って、このデザインと対象患者数。
もう負けているようなものでは・・・?
(追記)
と思いましたが、結果はなかなかきれいに出せました。
しかし単盲検ということで、承認には至っていません。
現在リベンジ中ですね!!
参考
どんな試験か見てみましょ?アビガンの国内第3相臨床試験開始、試験概要と用語の解説(富士フイルム)
まとめ
ちょっと固い内容でしたが、ICMRAにおけるCOVID-19試験の評価項目についてのディスカッションについてまとめてみました。
あちこちでワタワタしながら進んできたCOVID-19治療薬の開発ですが、世界の規制当局間において、試験の枠組みに関する議論は進んでいるのです。
COVID-19治療における標準治療は進化しており、今後の臨床試験デザインを考える上で適切に考慮する必要性はありそうですね。
若干後付けにはなってしまいますが、やはりパンデミック化における臨床試験・臨床研究においては、ある程度の取りまとめ役が必要であったのではないかと思います。
時間やリソースを無駄にしないためにも、各国で情報共有しながら、適切に進めて頂きたいですね。
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