国産ワクチン開発を進める塩野義の手代木社長が、ワクチンの承認ついて「条件付き早期承認制度」を適用するようにと提言しています。
この条件付き早期承認制度とはいったい何なのか?
国産ワクチン開発に適用するべきなのか?
といった点について、今日は考えてみたいと思います。
ちなみに私は塩野義を応援していますが、国産ワクチンを条件付き早期承認制度に当てはめるのは断固反対です。
※参考:薬機法第14条10項
条件付き早期承認制度の概要
さて、まずは条件付き早期承認制度の概要を見てみましょう。
この制度は簡単にいうと、「条件付きで、早期に承認する制度」です!
というと身も蓋もないのですが、制度の要旨はそのままなのです。
もう少し詳しく述べると、
特定の条件を満たす医薬品(医療機器や再生医療等製品にも適応されている)について、
検証的臨床試験(P3試験)をすっ飛ばして、先に取り合えず承認してあげちゃうという制度です。
本制度の申請後は優先審査が適用されるため審査期間も短縮されます。
そして発売後に有効性・安全性を評価することを「条件」に承認とするのです。
そんなことやってよいのか?という声が聞こえてきそうですが、
もちろんその辺の医薬品においそれと適応することができるものではありません。
そんなことをしては、有効性や安全性の確認が不十分な医薬品が世の中にあふれることになります。
だからこの制度の適用には満たさなければならない条件があります。
では、その条件とは何なのでしょうか?
見てみましょう
条件付き早期承認制度を適応する条件
条件付き早期承認制度の対象となる医薬品は、次の条件の「全て」を満たさなければなりません
全部まるっと満たさなければならないのです!
1-1生命に重大な影響のある疾患であること
1-2病気の進行が不可逆で日常生活に著しい影響を及ぼすこと:
⇒対象の疾患が重篤である
2-1既存の治療法、予防法、診断法がない
2-2有効性、安全性、肉体的、精神的な患者負担の観点から、医療上の有用性が既存の治療法、予防法、診断法より優れていること
⇒医薬品の医療上の有用性が高い
3.検証的臨床試験の実施が困難、または実施可能でも患者が少ない等、相当の期間がかかること
4.検証的臨床試験以外の臨床試験などにより、一定の有効性・安全性が示されること
⇒検証的臨床試験が難しく、他で有効性や安全性がある程度示されていること
まとめると、
それが対象となりうるということです。
ずいぶんとハードルが高いことがお分かりいただけますでしょうか。
なお厚生労働省から発出されているQAに記載がありましたが、
あくまで希少疾病用医薬品の限定されるものではなく、対象疾患などに応じて個別に判断されるとのことです。
(グレーにしておいて個別で対応できるようにしているということです)
また「検証的臨床試験以外の臨床試験等」というものが一体何なのか?ということですが、
探索的臨床試験(P2試験)の成績が主に活用されることとなります。
それ以外には治療薬の薬力学的指標として妥当な指標(代替エンドポイントに類する)の成績を確認する試験や、検証的臨床試験の代替エンドポイントによる中間解析結果などが考えられます。
具体的な事例としては、以前考察した日本新薬の国内初の核酸医薬品ビルテプソが挙げられます。
対象疾患はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)と重篤な疾患であり、
既存の治療法の効果もあまりない、
希少疾患で対象患者も少なく、治験困難であり、
P2で疾患の根源的原因である部分への効果が見て取れる等、
条件を満たすということが分かりやすい医薬品と言えるでしょう。
この医薬品は開発戦略も素晴らしいので、詳しくは審査報告書の記事をご覧ください。
私はすごい好き。
国産ワクチンに適用するべきか?
さて、では本題。
この制度を開発中の国産ワクチンに適用するべきか?について考えてみましょう。
それぞれの条件について、一つずつ考えてみます。
1-1生命に重大な影響のある疾患であること
1-2病気の進行が不可逆で日常生活に著しい影響を及ぼすこと:
⇒対象の疾患が重篤である
この項目はCOVID-19という疾患をどうとらえるか?ということに帰結します。
COVID-19は社会的にも大きな影響を与えている疾患であり、これまでのワクチンや治療薬が特例承認されていることを考えると、国産ワクチンにおいてもこの項目を満たすということに疑いはないでしょう。
2-1既存の治療法、予防法、診断法がない
2-2有効性、安全性、肉体的、精神的な患者負担の観点から、医療上の有用性が既存の治療法、予防法、診断法より優れていること
⇒医薬品の医療上の有用性が高い
この部分が私が最も引っかかるところです。
パンデミック直後のワクチンが全くない状況であれば、この項目を満たすのは確実でしょう。
既存の予防法が存在しないわけですからね。
しかし現在はファイザー(ビオンテック)やモデルナをはじめとした、非常に有効性や安全性の高いワクチンが複数存在しています。
そし日本でも接種が進んでいます。
国産ワクチンがこれを満たすというのは、ちょっと横暴すぎると思います。
既存ワクチンの有効性が50%程度であったとか、重篤な副反応が認められており、代替となるワクチンが待ち望まれているというのであれば、話は別ですが、全くそんな状況にはありません。
デルタ株などの変異ウイルスにより、有効性が減弱しているとの報告も見受けられますが、それでも十分な有効性が認められており、国産ワクチンが変異ウイルスに対して、既存治療より優位であることを示す結果は今のところ見えていません。
このような状況の中、本項目を国産ワクチンが満たすというのは、やはり無理があるのではないでしょうか?
3.検証的臨床試験の実施が困難、または実施可能でも患者が少ない等、相当の期間がかかること
4.検証的臨床試験以外の臨床試験などにより、一定の有効性・安全性が示されること
⇒検証的臨床試験が難しく、かつ他で有効性や安全性が示されていること
この項目は分からなくもないですね。
ワクチン接種が進み、対象患者(というかワクチン未接種の健常者)が少なくなってくる状況や、先日考察したプラセボ使用の倫理的な観点から考えれば、検証的臨床試験が困難というのも一理あるでしょう。
しかし検証的臨床試験以外で一定の有効性が示されているかは議論が残ります。
この部分については代替エンドポイントによる試験成績も該当するため、塩野義としては抗体価等を示していきたいのかと思いますが、このエンドポイントが妥当なのかどうかは、まだ結論が出ていません。
本当に満たしているといえるのかは慎重に考えるべきです。
まとめ
今日は条件付き早期承認制度の概要や適用条件を踏まえて、国産ワクチンに適用するべきか考えてみました。
みなさんは国産だからとひいきして、対応するべきだと思いますか?
私はそういうことをしていては日本の信頼を失いますし、中国のことをあれこれ言えなくなると思います。
それによる国産ワクチン忌避は、国産ワクチンのみならず、既存のワクチン忌避にもつながる可能性も考えられます。
せっかく順調(と言えるかは分かりませんが)に進んでいる接種に水を差すことにもなりかねないのです。
国産ワクチン開発は今後のパンデミックに対する備え、ノウハウの蓄積という観点でも、進めるべきだとは思いますが、国産だからとひいきする必要は全くないと私は思っています。
戦略物資として国産が必要というなら、むしろ既存ワクチンを国内生産できるように対応を進めていくべきではないでしょうか?
もし日本の医薬品産業を応援したいというだけなら、
こんなことより、薬価をですね、
どうにかして頂けませんかね?
(いつもの話なので省略)