※0518 P1成功を追記
COVID-19の治療薬として、ギリアドのレムデシビルが米国にて緊急承認されましたね。
解析前の主要評価項目の変更等議論が残るところではありますが、ひとまず治療薬の開発が一歩前に進んでよかったです。
日本における特例承認はちょっと雑すぎると思いますけど。
さて、治療薬は光明が見えましたが、ワクチンのほうの開発はどうでしょうか。
日本でも「お騒がせバイオ」のアンジェスを中心として、様々な企業が開発に取り組んでおりますが、今日はアメリカのモデルナ(Moderna)が開発している「mRNAワクチン」について、基本的なところを見ていきたいと思います。
参考として用いた資料は医薬品医療機器レギュラトリーサイエンスにて発出された「mRNA 医薬開発の世界的動向」です。
面白い資料なので、未読の方はご一読されることをお勧めします。
Contents
mRNAとは?
mRNAとはメッセンジャーRNAのことですね。
DNAからコピーした遺伝情報に従い、たんぱく質を合成する役割を担っています。
転写とか翻訳とか、生物でやりましたねー!
覚えておられますか?
DNAの次の工程くらいの認識で、今日の記事では問題ありません。
誤解を恐れず言えば、DNAという設計図からタンパク質という完成品を作るまでのつなぎみたいなものですね。
なおDNAからmRNAを合成する酵素がRNAポリメラーゼです。
mRNA医薬品の特徴
さて、それではワクチンについて触れる前に、mRNA医薬品全体について俯瞰しましょう。
mRNAを医薬品として用いる上で、4点特徴が考えられます。
mRNA はホストゲノムに挿入されるリスクが無い
mRNA は核への輸送が不要で、ゲノムへの挿入変異リスクもないため安全性に優れると考えられています。
つまりmRNAワクチンはDNAワクチンのような発がん性のリスクがありません。
mRNAは生体内で非常に不安定である
mRNA は生体内では極めて不安定な物質であり、効率良い生体内投与には DDS 技術(ドラッグデリバリー技術)などの応用が不可欠です。
つまりmRNAを薬として用いる場合はちゃんと標的部位まで運ぶ必要があるのです。
しかしワクチンとして用いる分には、後述のとおりこの欠点はあまり気にする必要はありません。
※DDS:体内での薬物分布を制御することで、薬物の効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑えることを目的とした技術のこと
mRNA は免疫反応を誘発する
またmRNA は自然免疫機構を介した強い免疫原性を持つため、薬物として使用する際にはその制御が不可欠となります。
こちらもDDS技術を用いて、変なところで免疫が発動しないようにする必要がありますが、同じくワクチンとしてはそこまで問題にならないと思います。
mRNA は細胞質に入るだけでタンパク質発現する
mRNA は原理的にどのようなタンパク質でも産生することができ、ワクチンとしてはがんの個別化治療、感染症領域ではウイルス変異への迅速な対応、パンデミックへの対応が期待されています。
特にゲノムへ取り込まれないことが安全性の観点で重要となります。
この点はアンジェスのDNAワクチンにはない強みと言えるでしょう。
(現状アンジェスのDNAワクチンに発がん性が認められているわけではありません。あくまで原理上のお話です)
mRNAワクチンの利点
体内における安定性は気にならない
先ほどmRNAは体内で不安定というお話をしましたが、ワクチンとして用いる分にはこの欠点は軽減されます。
なぜならワクチンは基本的に皮内投与であり高性能の DDS があまり必要ないためです。
そのためmRNA医薬品の分野では、ワクチンとしての研究が最も進んでいると思います。
※追記:
皮内投与でもDDSが全く必要ないわけではないとのことです。
抗原タンパクに対する可能性は無限大
感染症やがんに対する応用が進んでいますが、いずれも mRNA からのタンパク質発現によって抗原提示を行うという点では共通しています。
いずれも核酸配列を変えることによってどのような抗原タンパクに対しても対応可能であり、夢が溢れるワクチンですね!
安全性に優れる
感染症予防に用いる従来のワクチンは、病原性をなくしているとはいえ細菌やウイルスなどが元になるので、健常人に対する投与においても、ほんの少しとはいえリスクがありました。
特に生ワクチンはわずかながらも病原性があり、ごくまれに重篤な副反応が生じる可能性もあります。
mRNA では病原体を用いないので安全性に優れていると考えられています。
ワクチン設計が容易で安価で大量製造可能
従来のワクチンはワクチン設計、大量製造を迅速に行うことは容易ではありませんでした。
ウイルスは生き物ではないため、インフルエンザウイルスワクチン等はニワトリの卵を用いて培養を行っています。
一方、mRNA では新しいウイルス型の確定、ゲノム配列の確認ができれば、ワクチン設計は比較的容易です。
製造についても抗原たんぱく質の生成が不要なため、安価に大量生産できます。
(安価にできるかは製造技術と体制にもよりますね)
COVID-19のmRNAワクチン
現在、COVID-19の感染部位の3Dマップは完成しており、Sタンパク質がヒトの細胞に結合して感染を引き起こす部分が分かっています。
この3Dマップをもとに、NIH(NIAID)とアメリカのmRNA医薬品開発の大手のModernaがmRNAワクチン「mRNA-1273」の開発を進めています。
Modernaはアメリカ政府から520億円ほど援助されており、強力なバックアップを受けております。
Modernaによれば、現在実施中の臨床試験が上手くいけば、今年の秋から第3相試験を開始できるとのことです。
これだけのバックアップと研究実績のある企業ですので、ワクチン開発としてはなかなか有力な企業なのではないかと思います。
よく調べていないので、あくまで理論上のお話からのフィーリングですけどね。
ほら、そういうほうがバイオは儲かったりしません??
0518追記
ModernaはP1に成功したそうです!
ワクチン接種で全員に抗体ができ、副反応も注射部位の発赤程度と大したことないです。
現在P2中で、7月からP3予定ですね!
アメリカ政府としても是が非でも成功させてきそうな気がします。
もちろんまだ失敗可能性があることには注意ですよー!
この企業に「株券刷るのが得意なアンジェス」が果たして勝てるのか。
私は一応アンジェスも応援しています!
COVID-19以外のmRNAワクチン開発状況
2019年時点でワクチンとして開発が進んでいるものを抜粋しました。
やはりModernaが多いですね。
まとめ
今日はmRNA医薬品の基本とmRNAワクチンの特徴や利点についてまとめました。
まだ実績が伴っていない分野ではありますが、なかなか夢のある分野だと思いませんか?
Modernaがワクチン開発を成功に導けるかは分かりませんが、決して低くはない可能性なのではないかと考えています。
ただし、既存の医薬品のように簡単にはいかないことは留意しておかなければなりませんね。
参考
・mRNA 医薬開発の世界的動向[医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,PMDRS,50(5),242 ~ 249(2019)]
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。