先日、サリドマイドの薬害の歴史を振り返る記事(リンク)を投稿致しましたが、そこで少し触れた医薬品リスク管理計画(RMP)について、今日は簡単にまとめてみたいと思います。
一般の方には馴染みがあまりない資料になるかもしれませんが、その薬のリスクについて俯瞰できる資料となっており、見る価値のある資料ですので、どんなものなのか一緒に見ていければと思います。
なお例にもれず、RMPについても添付文書や審査報告書と同様にPMDAで公開されており、一般の方も無料で閲覧可能です。
素晴らしいですね。
今日はみなさんご注目のCOVID-19治療薬レムデシビル(商品名:ベクルリー)のRMPを例に見ていきましょう。
ちなみにベクルリーのRMPは先月末にひっそりとアップされていたのですが、そんなに注目されることなかったように思えます。
みなさんあまり興味ないということでしょうか?
ということで、この記事の需要がどこまであるか分かりませんが、これまでずっとレムデシビルを追ってきていますので、その縁もあって、例として取り上げてみようと思います。
Contents
RMP(Risk Management Plan)とは?
概要
医薬品にはリスクがつきものです。
なぜなら医薬品は体内にとって異物であるためです。
このリスク管理を適切に実施するには、各段階で関わる人たちが「なぜその活動をしているのか」を理解しておく必要があります。
そこで作られているのが、医薬品リスク管理計画書(RMP:Risk Management Plan)です。
RMPは「開発」「審査」「市販後」の一連のリスク管理をひとつにまとめた文書であり、開発段階から市販後までの医薬品のリスク全体を俯瞰することができる文書なのです。
リスクの内訳
さて「リスク」について、どんな情報が挙げられるでしょうか。
いつも取り上げているような「臨床試験で判明した安全性情報」、これは当然取り上げられるべきリスクとなります。
臨床試験で得られた情報は添付文書に反映されますので、大雑多に言えば、まずは添付文書に記載されるような明確なリスクがRMPに取り上げられるといってもよいでしょう。
ここで終わってしまうのであれば、RMPはいらないですよね?
だって添付文書読めばいいですもの。
添付文書の情報というのは開発~審査段階における情報であり、これだけでは片手落ちなのです。
では他にどのような情報が記載されるのでしょうか。
それは「薬との関連は疑わしい、たぶんあるかもしれないけど、まだ確認が十分にされていない情報」や「高齢者や小児、妊婦への効果や安全性情報といった不足している条件」が記載されるのです。
これらを整理するとRMPにおけるリスクは次の3点にまとめられます。
これら3点のリスクをまとめて「安全性検討事項」と呼びます。
RMPの記載項目
さて、RMPで扱う3点のリスクについて見てきました。
それでは次に、そのリスクを踏まえて、どのようなManagement Planが立てられるのかを見ていきましょう。
上記で掲げた、安全性検討事項に対し、どのように「情報収集」をするのか、またどのように「情報提供」をするのかがRMPに記載されているのです。
RMPにおいては下記のように言葉を定義しています。
各活動は全ての医薬品に対して行われる活動(通常の活動)と医薬品の特性に合わせて行われる活動(追加の活動)の2種類があります。
例えば、例を挙げると下記のようなものがあります
「医薬品安全性監視活動」の「通常活動」は「副作用症例の収集」
「リスク最小化活動」の「追加の行動」は「適正使用のための資料配布」
何となく概要はつかめましたか?
後でレムデシビル(ベクルリー)のRMPを実際に見ていきますので、ここではこの程度に留めます。
RMPの活用方法
先にこのRMPをどのように活用していくかという点について、まとめておきましょう
RMPはその医薬品のリスク全体を俯瞰できる資料です。
そのため新薬を採用したり、使用したりする際のリスク把握に使える資料です。
また特定されたリスク(つまりは明確なリスク)について、把握することで、そのリスクに対して特に注意を払ったり、検査値のモニタリングを行うことができます。
潜在的なリスクについても把握しておくことで、予期せぬ副作用や症状が発現した際に、原因を特定する一助となるのです。
RMPのライフサイクル
RMPは「新たに医薬品を承認申請するとき」「医薬品の製造販売後において、新たな安全性の懸念が判明したとき」に新たに作成されるものです。
それ以降、安全性監視活動やリスク最小化活動の結果、内容が更新されることがあります。
そして医薬品の承認後一定期間が経過したあと、再審査が実施されますが、RMPの策定・実施に係る承認条件が満たされたと判断されると、承認条件としてのRMPは終了し、RMPとRMP資材は、PMDAのホームページのRMP一覧から削除され、一定の役割を終えることになります。
※もちろんその後も活用していくことは重要だと思います。
RMPにちょっと興味が出てきましたか?
実際に使用するのはDr.や薬剤師ではありますが、こういう資料があるということを覚えておくと、何か気になったときに添付文書などと併せて調べてみるきっかけになるかもしれません。
RMPの具体的な記載(レムデシビル:ベクルリーの場合)
ではここからは、レムデシビルの実際のRMPを見ていきましょう。
※あくまで1例として見ているだけですので、詳細は原本をご覧ください。
※2020年5月時点のRMPを参考としています。
安全性検討事項
・重要な特定されたリスク
急性腎障害、肝機能障害、Infusion Reaction(注射後の反応)の3つですね。
以前の添付文書解説の際にも挙げている事象ですね。
(【添付文書の読み方】レムデシビルを例に「添付文書」を読み解いてみよう!)
これまでの臨床試験から因果関係が否定できない事象として挙げられています。
・重要な潜在的リスク
該当項目はありません
・重要な不足情報
臨床試験データが極めて限られていることから、安全性情報についての情報が限られているということですね。
同じく有効性についてもデータが限られていることは検討すべき事項ですね
医薬品安全性監視計画の概要
・通常の医薬品安全性監視活動
副作用、文献・学会情報及び外国措置報告等の収集・確認・分析に基づいて安全対策を検討し実行することです。
いわゆる一般的な対応ですね。
・市販直後調査
・市販直後調査に準じた監視活動
・SARS-CoV-2による感染症患者を対象としたベクルリーの一般使用成績調査
調査実施予定期間: 2020年7月(登録開始)から8ヵ月(変更の可能性あり)
患者登録予定期間: 2020年7月(登録開始)から6ヵ月(変更の可能性あり)
目標登録症例数:検討中
登録方法:全例登録方式で登録する。レトロスペクティブな登録を可とする
観察期間:本剤投与開始から投与終了後又は投与中止後4週まで
上記のような条件で、使用実態下での安全性と有効性に関する情報を、収集及び評価します!
・中等度患者対象国際共同第III相試験(GS-US-540-5774)
・重度患者対象国際共同第III相試験(GS-US-540-5773)
現在中等度患者6,000人対象、重症患者1,600人対象の臨床試験が継続していますので、この結果を待ちましょうということですね。
有効性に関する調査・試験の計画の概要
・中等度患者対象国際共同第III相試験(GS-US-540-5774)
・重度患者対象国際共同第III相試験(GS-US-540-5773)
こちらについても同様に継続中の臨床試験の結果を待ちましょうということですね。
リスク最小化計画の概要
・通常のリスク最小化活動
添付文書及び患者向医薬品ガイドによる情報提供といった、通常の対応のことですね。
・市販直後調査による情報提供
・市販直後調査に準じた活動による情報提供(市販直後調査終了後一定期間)
・医療従事者向け資材(同意説明文書を含む)の作成、配布
医療従事者に対して、本剤の特例承認の位置づけ、本剤の有効性及び安全性情報を提供し 、患者さん向け資材の内容を患者さんなどへ説明、文書による同意文書の取得を依頼し、適正使用と安全性情報の収集への協力依頼を周知徹底するための資材の作成と配布について記載されています。
・患者向け資材の作成、配布
投与される患者さん等へ、本剤の特例承認の位置づけ及び本剤の安全性情報を提供すること、患者さん等から既往歴、合併症(特に妊娠、腎/肝に関する疾病)や投与時に使用している薬剤について医療従事者へ申し出ること等 をまとめた文書を作成・配布し、本剤の適正使用を確保するための資料の作成と配布について記載されています。
・副作用発現状況の定期的な公表
SARS-CoV-2による感染症患者を対象としたベクルリーの一般使用成績調査の結果が得られ、承認条件解除までの期間は、2週間毎に副作用の集計一覧を作成し公表を行うと規定されています。
う。
今日は上記のように概要をみてきましたが、それぞれのリスクの項目には「リスクとした理由」「医薬品安全性監視活動(情報収集)の内容及びその選択理由」「リスク最小化活動(情報提供)の内容及びその選択理由」が細かく記載されていますので、ご興味のある方はご覧いただければと思います。
まとめ
今日は医薬品のリスク管理計画(RMP)について、レムデシビル(ベクルリー)を参考に見てきました。
添付文書やインタビューフォーム、審査報告書などとともに、一般に無料公開されているものですので、興味がある方は見てみると面白いかもしれませんね。
「副作用のない薬など存在しません」
つまり言い換えれば、医薬品はリスクとベネフィットの微妙なバランスで成り立っているものということができますね。
承認されている医薬品ですら副作用があるということですので、いわゆる民間療法で副作用がないというのは笑えるお話ということです。
そんなに素晴らしいならば、ぜひ臨床試験をして、薬として承認を目指すとよいですよねー。
・・・いや、副作用がないことはありますね。
それは「その治療に何ら意味がない場合」です。
いずれにしても、現在の科学水準において、副作用が全くないけど、がんが治るといった夢の治療法というのもは、すべからく疑ってもよいでしょう。
話が飛びましたが、ご自身の飲まれている薬にどんなリスクがあって、どんな対応がなされているのか、気にしてみると色々と発見があるかもしれません。
Dr.や薬剤師でなくても、見る価値がある資料だと思いますので、ご興味がある方はぜひどうぞ。
おまけ:レムデシビルの中等度試験の速報結果
レムデシビルですが、中等度の試験の結果はあまり良くありませんでしたね。
5日投与では臨床的改善率で有意差は出てはいますが、10日投与群では有意差が出ず。
これまでの試験結果では重症例では臨床的改善率で有意差は出るものの、値としてはそこまででもなく、亡くなった方の割合では有意差がつかずという、特効薬とは言えない結果でした。
うーん、やはり他の薬へのつなぎとなる位置づけが妥当ですかねー?
でも少なくともプラセボ対照試験で結果出している分、他の治療薬「候補」よりはましな状況といえるでしょうか。
参考
・PMDA ホームページ
医薬品リスク管理計画(RMP:Risk Management Plan) | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
・3分でわかる!RMP講座第3版(医薬品医療機器総合機構安全性情報・企画管理部リスクコミュニケーション推進課)
・今日からできる!How to RMP~RMPってなに?編~林昌洋(一般社団法人日本医薬品情報学会理事長)
・ベクルリーRMP(2020年5月)
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。