最近やっていない、先駆け審査に指定された化合物のその後を追う本シリーズ。
久々に見たら試験に進行があったものがありましたので、触れてみたいと思います。
いや楽天メディカルの光免疫療法(アキャルックス)とか、進行どころか承認もされましたけどね。
条件付き早期承認制度を適応するべきかは、議論が分かれるところですが。
ちなみに私はアキャルックスに関しては懐疑派です。
いずれにせよあの記事も更新しておかねば。
さて、今日取り上げるのは武田さんのTAK-925です。
ナルコレプシー患者さんを対象とした第1相試験が進行中でしたが、久々に見てみたら特発性過眠症に対しても試験が進んでいましたので、そちらをご紹介しましょう。
Contents
ナルコレプシーと特発性過眠症
ナルコレプシーは簡単に言うと、「日中突然強い眠気に見舞われて、急に眠ってしまう疾患」です。
オレキシンを産生するニューロンが消えることで起こるとされます。
幻覚や金縛り等も特徴で、感情の高ぶりに合わせて全身の力が抜ける「情動脱力発作(カタプレキシー)」を伴うこともあります。
一般人口における有病率は0.02-0.04%程度と非常に希少な疾患ですが、患者数は全世界で300万人を超えると推定されています。
また慢性疾患であり、根治的な治療方法はなく、なるべく正常な状態に近づけて保つことが治療の目標となります。
治療方法としては、中枢神経刺激薬の投与(目覚めさせる)、抗うつ薬の投与(レム睡眠の制御)、睡眠薬の投与(夜間睡眠の安定)が柱ですが、有効な治療選択肢は少なく、アンメットメディカルニーズの高い疾患なのです。
不眠がQOL(生活の質)に影響したり、精神面に影響を与えることはよく知られていることではありますが、過眠だってQOLに大きく影響する事象だと思います。
特発性過眠症はナルコレプシーと同じ中枢性過眠症に分類されますが、レム関連症状が乏しい等の違いがあります。
TAK-925とは?
TAK-925は武田薬品が創製したオレキシン2受容体の選択的作動薬になります。
オレキシンの不足が原因であれば、オレキシン受容体を刺激すればいいのです。
TAK-925は2019年にナルコレプシーを対象して先駆け審査指定され、開発が進められていますが、同じように特発性過眠症に対しても開発が進められています。
現在実施中の1b試験について簡単に見てみましょう
特発性過眠症における第1b相試験
https://www.takeda.com/ja-jp/who-we-are/research/clinical-trial/TAK-925-2002/
JAPICやClinicaltrials.govのリンクも含めて、武田さんのホームページに綺麗にまとめられています。
分かりやすいですね。
試験の概要
正式な試験名は「特発性過眠症患者を対象とした静脈内単回投与TAK-925の第1b相無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験」です
本試験はクロスオーバー試験となっています。
簡単に言えば、1人の人に治験薬を服薬する期間と対照薬を服薬する期間の両方を設けるということです。
今回の試験でいえば、下記のような形となります。
- A群 TAK-925 + プラセボ
- B群 プラセボ + TAK-925
投与期間1のDay 1にTAK-925(投与量A)を9時間かけて静脈内単回投与し、その後24時間の休薬期間を設け、投与期間2のDay 3にプラセボを9時間かけて静脈内単回投与するというデザインです。
治験の目的は、P1bですので、特発性過眠症患者におけるTAK-925(投与量A)を静脈内(IV)単回投与した時の薬物動態(PK)、薬力学(PD)、安全性及び忍容性を検討することとなります。
試験期間は2021年7月まで、目標症例数は40例の登録を予定しています。
なお本試験はアメリカと日本で実施される多施設共同試験となります。
全体の治験期間は約41日間で、最長28日間のスクリーニング期間、6日間の入院期間と治験11日目の治験終了時追跡調査を含みます。
Clinicaltrialsを見ると日本では隅田病院とPSクリニックの2施設で治験実施中とのことです。
今後はどうする?
条件付き早期承認制度の活用?
特発性過眠症の患者さんは少なく、大規模な第3相試験は実施困難となる可能性が考えられます。
しかし条件付き早期承認制度に該当できるのかと考えると難しいかもしれません。
条件付き早期承認制度の要件は下記のとおりです。
- 適応疾患が重篤である
- 医療上の有用性が高い
- 検証的臨床試験の実施が困難、または実施可能でも相当の期間がかかる
- 検証的臨床試験以外の臨床試験などにより、一定の有効性・安全性が示される
これらを満たさなくてはなりません。
上記を考えるうえで、壁になりそうな点が「適応疾患が重篤である」ですね。
QOLを著しく害する疾患ではありますが、重篤という概念では要件を満たすとは判断されない可能性が高いと思われます。
もう少し条件を考えても良い気がしますが。
希少疾患医薬品としての対応?
日本における特発性過眠症の患者数は1,100人~1,500人と言われており、先に承認を取得したモディオダールが希少疾患医薬品として認められていることを考えると、まず問題ないかと思います。
しかし第3相試験を実施なくてよいわけではありませんので、開発が大変なことには変わりありません。
臨床試験の難しさ
そして治験を行う上で、もっとも注意するべきことは特発性過眠症の診断の難しさです。
これについてはモディダールの記事に詳細に考察しましたが、モディオダールの治験の際は、適格でない患者さんが多数組み入れられ、結果として、診断の難しさを知らしめることとなり、流通管理の厳格化の一因となってしまった過去があります。
同じ失敗を繰り返さないためにも、武田さんには慎重に患者さんをセレクトして、組み入れを進めて頂けるような試験デザインと施設選定を行っていただきたいと思います。
参考:モディオダール
参考:オーファンドラッグ
患者レジストリの活用
患者レジストリとは、特定疾患で患者の治療内容や治療経過を管理するデータベースのことです。
患者レジストリを用いた治験は、ランダム化比較試験を代替する実施方法として近年注目を浴びています。
例えば、免疫抑制剤「プログラフ」の多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎の適応追加申請や、低ホスファターゼ症治療薬「ストレンジック」の新薬申請においては、国内外の後ろ向き研究で得た自然歴データが治験の外部対照群として用いられた実績があります。
PMDAも疾患登録システムの患者レジストリを用いた医薬品の承認申請について、
「現状の医薬品開発では難しい疾患に患者レジストリを活用していく方向性が一番分かりやすい」との見解を示しています。
また2020年度中にレジストリに関するガイドラインを策定し、難病や希少疾患を対象とした治験対照群やレジストリ内臨床試験、製造販売後調査などでの活用を想定しているとのことです。
特発性過眠症についても患者レジストリが使えれば、治験は簡略化できるかもしれません。
先に挙げた診断の問題ももしかしたら低減できるかも?
まとめ
今日はTAK-925の特発性過眠症に対する臨床試験について考えてきました。
アンメットメディカルニーズを満たす医薬品ですので、開発を早く進めて頂きたいところですが、失敗しては元も子もありません。
ノウハウを生かして、慎重かつ迅速に開発を進めて頂きたいと思います。
※P.S.