市販の風邪薬では子供用のものも売られているのを見かけることがあるかと思います。
では、医療用はどうでしょうか?
ADHDの薬など、「小児」が疾患の対象であれば、小児用の臨床試験を実施しており、承認を得ているものはあります。
しかし大多数の薬においては、小児の適応は取れていないのです。
これはなぜでしょうか?
今日は小児治験の難しさとそれを解決するためのすべについて、考えてみたいと思います。
参考としてPMDAの小児医薬品WGの資料を用いています。
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小児医薬品の現状
冒頭でも述べましたが、小児医薬品の現状について簡単に振り返ってみましょう。
有効性や安全性に関する十分なデータがない。
これまでに何試験か臨床試験の情報を挙げてきました。
ほとんどの場合において、選択基準は18歳や20歳以上の成人でしたね。
小児対象の試験でもなければ、小児を対象として治験を行うことは稀です。
それは小児にそのまま成人での投与量を適用するわけにもいかず、安全性にも懸念が生じる恐れがあるためです。
通常、治験においては高度な腎機能・肝機能障害の患者さんは除外します。
ニュアンスはことなりますが、大きく捉えれば、小児を除外するのも同じような考え方になりますね。
有効性や安全性についてデータがなければ、適応を取ることはできません。
必然的に次のようなことになります。
添付文書に小児の用法・用量が明記されていない。
臨床試験を実施しておらず、適応を取得できていないということは、必然的に小児に対しての添付文書記載はありません。
つまり小児の用法・用量が明示されません。
しかし、臨床現場には小児の患者さんは当然存在するわけです。
すると臨床現場では、必要性に迫られて、「適宜」減量して使用したりするわけです。
なぜ開発が進まないのか?
さて、小児の医薬品が必要ということは、誰もが思うところではあると思います。
しかし実状として、日本では治験があまり行われておらず、小児に適応のある医薬品は少ないのです。
なぜでしょうか?
新生児から思春期まで多様で、医薬品の剤形や薬物動態等、各年代に応じた対応や検討が要求される。
「小児」と一口に言っても、新生児から思春期まで幅広いのです。
30歳女性と40歳女性はそこまで劇的な身体上の変化はありませんが、
0歳児と10歳児ではそれは大きな違いがありますよね?
10歳児と15歳児だって、思春期の二次性徴を考えれば大きな違いがあるわけです。
このように「小児」という対象は幅広く、各年代に応じた対応や検討が必要となるのです。
臨床試験の計画や同意取得等に小児特有の配慮を要する。
臨床試験では同意取得が絶対です。
同意取得のない治験など、人体実験と同じです。
小児治験でも当然、同意取得をする必要があります。
ただ当然大人用のものでは対応できないので、小児用のものを作成します。
小児だけでなく、代諾者として親(被験者の最善の利益を図りうる者であること)の同意も得なくてはなりません。
試験デザインとしても注意するべきポイントがあります。
例えばあまり多くの検査を1日で対応することができなかったり、iPadを用いた患者日誌なんて3歳児には対応できなかったり。
大人のようにはいかないのです。
対象患者数が少なく、一人当たりの投与量も少ない。
極めつけは採算性です。
小児の数は多くありません。
そして投与量も大人よりも少ないです。
つまり儲からないのです。
まとめ
まとめると
ということです。
だから小児の適応を無理に取ろうとはしないのです。
この課題は世界においても同じことですが、欧米については日本より一歩先に進んでいます。
次の項目で見てみましょう
欧米の取り組み
欧米では、成人対象の開発過程における小児開発に関する検討は義務なのです。
義務というのは強いです。
やらざるを得ないですからね?
アメリカとヨーロッパの規制要件を見てみましょう。
アメリカではBPCA及びPREA施行後、600以上の添付文書に小児情報が記載されています。
「義務」が大きな飛躍につながったと言えるでしょう。
なるべく頑張って?ではだめなのですね。
行けたら行く的なノリに期待してはいけません。
日本での取り組み
欧米では小児開発に関する検討は義務ですが、日本ではそのような規定はありません。
現状は下記のようなインセンティブをもって、開発を促しているにとどまっています。
再審査期間の延長
小児への使用が想定される医薬品について、承認申請中又は承認後引き続き、小児の用量設定等のための臨床試験を計画する場合にあっては、
再審査期間中に行う特別調査等及び臨床試験を勘案し、再審査期間を10年を超えない範囲で一定期間延長することが定められています。
要は「小児対象の試験をするなら、延命してあげる」ということです。
薬価加算(5~20%)
小児に係る効能効果/用法・用量が含まれ、比較薬が小児加算適用されていない新規収載品(国内で小児効能・効果に係る臨床試験を実施していない場合を除く)を補正加算の対象として規定しています。
要は「小児で適応を取るなら、少し薬価におまけしてあげる」ということです。
その他インセンティブではありませんが、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」や「特定領域治験等連携基盤整備事業(小児治験ネットワーク)」による開発のサポートを行っています。
しかしこれらでは小児対象の医薬品の開発を後押しするにはだいぶ弱いのが現状です。
どうすればいい?
改正薬機法で「特定用途医薬品」というカテゴリーが新設され、小児用医薬品の優先審査が行われる法整備が進んできています。
しかし採算性の低さについては、まだ支援が足りないと考えています。
特許期間延長や新薬創出加算の企業要件とする等のインセンティブが欲しいと思います。
併せて欧米で行っているような、規制による開発検討の義務付けも必要になるのではないかと思います。
ある程度の強制力がなければ、現状は変えられないかもしれません。
試験の難易度という点については、モデリング&シミュレーションを活用していく方向性が考えられます。
海外と同様に成人データや海外小児データがある場合は、データを外挿し、臨床試験をせずに小児投与量を予測していくということです。
薬物動態(PK)において、リアルワールドデータを活用していければよいですね。
参考:リアルワールドデータ
https://www.luna1105kablog.com/entry/real-world-data
まとめ
ICH-E11(小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンス)においては、下記のような記載があります。
現在、医薬品の小児患者のために適切に評価され小児患者に対する適応を持つ医薬品は限られている。
小児への使用が想定される医薬品については、小児集団における使用経験の情報の集積を図ることが急務であり、
成人適応の開発と並行して小児適応の開発を行うことが重要である。
また、成人適応の承認申請中又は既承認の品目について、引き続き小児の用量設定等のための適切な臨床試験(治験、市販後臨床試験)の実施が望まれる。
※現在E11Aが出ていますが基本理念は変わっていません。
ICHを見ずとも、小児の医薬品が必要なのは分かることですね。
それでもこのように定めなくてはならないぐらいには、小児の医薬品の開発のハードルというのは高いということです。
先日、オーファン・ドラッグのお話を上げましたが、小児用の医薬品についても、もしかしたら似たようなものかもしれませんね。
参考:オーファンドラッグ
https://www.luna1105kablog.com/entry/orphan-drug
開発する側に対する飴(インセンティブや要件緩和)と鞭(強制力)の両方を上手く使って、小児用医薬品の開発も進めていって頂きたいなーと思います。
なお私は飴ではミルキーが好きです。
最後まで持たなかった。
今日は真面目な内容だったのに。
ともかく、小児用の医薬品の開発の難しさと重要性について、ご参考となりましたら嬉しいです。
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。