少し前の民放ドラマで「MRが医師にお金を渡して症例を入れてくれと頼む」という、突っ込みどころが多い、程度の低い演出を見たことがあります。
現実に開発担当がお金を渡して症例を入れるようなことは断じてありません。
しかもなぜそこにMRが出てくるのか意味不明です。
フィクションにしても酷すぎますが、まぁそれはこの際置いておきましょう。
上記のような異常なお金の流れはないにしても、例えば製薬企業が医師に講演会を依頼し、その謝金としてお金をはらうということは、通常行われています。
この謝金ですが、「度を越えた額」となってしまうと、癒着だとかお金で動かしたとか言われてしまうわけです。
実際に過去に問題となってしまったケースもありますね。
そんな事例を教訓として、業界では透明性ガイドラインというものを作って、更新を重ねてきました。
今日は透明性ガイドラインを簡単に紹介しつつ、実際に企業から医療機関や医師にどれくらいのお金が支払われているか、見てみましょう!
透明性ガイドライン策定の目的
先ほど挙げたように、製薬企業と医療機関、医師が癒着しているような誤解を与えないようにしないといけないわけです。
製薬企業の活動が信頼されるためには、「利益相反状態の適切な管理」と「製薬企業と医療機関、医療関係者との関係の透明性を高めるための取組み」が必須となるということです!
利益相反(Conflict of Interest:COI)とは、一般的には、ある行為が、一方の利益になると同時に、他方の不利益になるような行為をいいます。例は後述します。
これを踏まえて策定されたのが透明性ガイドラインです。
2011年に策定され、随時改訂を重ねてきました。
製薬企業と医療機関や医師が癒着すると何がいけないのでしょうか?
それは利益相反が生じるためといえます。
それが薬の適切な選択をゆがめてしまう可能性があるのです。
Aという薬と、Bという薬があったとき、
患者さんにはAを使うのが最も適切であるのに、お金を積んでくれたBを使う。
そういうケースがありえるわけですね。
また治験や臨床研究においても問題となりますね。
要は実薬のほうにおまけしたり、結果をよく見せたりしてしまう可能性があるということです。
二重盲検試験であれば、どちらが実薬かは通常は分かりえませんが、有害事象などから推測されることはあります。
金額の公開
ここからが面白い人には面白いのですが、なんと各社、医師にどれくらいお支払いしたか公開しています。
というかそういうルールなのです。
ご存じでしたか?
公開方法
自社ウェブサイトを通じて公開します。
公開時期
各社の毎事業年度終了後 1 年以内に公開します。
公開内容
ここからは公開される内容の内訳について、透明性ガイドラインを引用しながら、実際の例を挙げて見ていきましょう。
研究費開発費等
医療用医薬品の研究・開発、製造販売後の育薬にかかる費用等を各項目の年間総額と共に、公開します。
治験費用もここで公開されるのですよー!
なお医療機関等に支払われない会合開催に伴う費用(会場費、飲食費、旅費等)はその他費用に含まれます。
例えば某大手T社の2018年度の共同研究費の支払額を見てみましょう。
(リンクは貼りません)
例えばA県がんセンターには約994万円、K林大学医学部付属病院には約1755万円支払われていますね!
この年で一番高いところは約4,700万円支払われていました。
臨床試験費ではどうでしょうか?
一番高いM病院では1億円を超える金額が支払われています!
別にこの金額が高いからと言って悪いわけではないのです。
ただ特定の医療機関で治験を実施しすぎることは、もしかしたら何らかの癒着やバイアスを招く可能性がないとは言えませんし、メディアがいちゃもんつける要因になりえます。
学術研究助成費
学術研究の振興や助成等を目的として提供される資金等を各項目の年間総額と共に公開します。
これが高額で問題となったことがありましたね。
いわゆる寄付講座もここに含まれます。
例えば同様にT社の2018年度の奨学寄附金を見てみましょう。
総額はいくらだと思いますか?
10億円を超えています!!
件数にして1,000件越えです。
金額を見ると50万円単位が多いですが、6,000万円を超えているところもありましたね!
わいろではありません。
奨学寄付金です。
私は悪いことだとは思いませんが、深く。。深く突っ込まれるとちょっと嫌かも。
原稿執筆料等
自社医薬品をはじめ医学・薬学に関する科学的な情報等を提供するため、もしくは研究開発に関わる講演、原稿執筆や監修、その他のコンサルティング等の業務委託の対価として支払われる費用等を公開します。
同じく、例を見てみますと、
某社は1年間で10億を超える講師謝金を支払っています。
件数にして1万件以上です!
こちらに関してはご自身で調べて頂きたいのですが、医療機関名、所属や役職も明示されています。
要は誰にお支払いしているか、まぁ分かるということです。
どこそこ病院の内科の教授に100万円かー!とかわかっちゃうのですよね。
別にマスコミや雑誌の記者でなくとも、このような情報は見ることができるのです。
そのための透明性ガイドラインでもあります。
情報提供関連費
自社医薬品をはじめ医学・薬学に関する科学的な情報等を提供するために、必要な費用等を以下の要領で公開します。
某社の合計は1年間で約70億円です。
優れた薬も知られなければ使ってもらえませんので、CM費用みたいなものですね。
その他の費用
社会的儀礼としての接遇等の費用を以下の要領で公開します。
某社の合計は1年で約8,600万円です。
内訳は不明でした。
まとめ
今日は透明性ガイドラインの概要と、実際の金額を覗いてみました。
特定の教授や病院に大金が支払われることの是非は協議されるべきかもしれません。
しかし業界のKOL (Key Opinion Leader)、いわゆる影響力のある方にアクセスして対応するとなると、おのずとアクションする先生が決まってくるのです。
その人の影響力を無視できないわけです。
「薬を宣伝する」のではなく、そのKOLにまずは「薬を理解してもらう」ことが重要なのです。
私は日本全国の病院を訪問しているとはいえ、見ている世界はごく一部です。
それでも医師の世界の縦社会は強く感じます。
多かれ少なかれ、そのような社会はあるのです。
大学病院の医局とクリニックの医師では環境は異なりますけどね
私は特定の教授や病院に大金が支払われることは、今の構造上は致し方ないこと、必然んの結果と取りますが、ここは意見が分かれるところでしょう。
みなさんはどう思われますか?
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