9価の子宮頸癌ワクチン(HPVワクチン)であるシルガードが5年の歳月を経て承認され、喜びの声があがっています。
私も記事を作成して、微力ながらワクチン接種の啓発に努めました。
シルガードは臨床試験や世界/日本における大規模調査で安全性に問題ないことが確認されております。
しかし過去にはワクチンによる副反応(原因も明確)で大きな事件となったものがあります。
それがMMRワクチン事件です。
今日はMMRワクチンの事例を振り返り、その原因や対策について考えてみましょう。
なお、私は承認されているワクチンについては、積極的に接種するべきというスタンスです。
反ワクチンは心底軽蔑しており、HPVワクチンもぜひ定期接種されるべきと考えています。
そのスタンスの上で、過去のMMRワクチン事件について考察しています。
MMRワクチンとは?
MMRワクチンとは麻疹(Measles)、おたふくかぜ(Mumps)、風疹(Rubella)の生ワクチンを混合したものです。
一つのワクチンで3つの疾患を予防しようというコンセプトのワクチンでした。
1988年に厚生省の委員会が早急に接種できるように進めていこう!という旨の意見書を出し、翌年1989年の4月から接種が開始されました。
MMRワクチンは、3つのワクチンメーカーが開発したそれぞれの疾患に対する各々3種類のワクチン株を用いた、独自株ワクチンが承認されていました。
しかし、なぜか定期接種においては、それぞれの疾患に対して、ワクチンメーカー各社が1種類のワクチン原液を作成し、それを混ぜ合わせるという統一株ワクチンを使用することとなりました。
なんだかややこしいお話なのですが、要は「色んなメーカーのを混ぜちゃった」ということです。
混ぜちゃったこと自体はワクチンの効果や副反応に影響が生じる可能性は低いかもしれませんが、この3社のワクチンの中に、「良くないもの」が含まれていたとしたら、どうなるでしょうか?
・・・というのは後ほど記載しますが、とりあえず定期接種後に何が行ったか見てみましょう。
副反応の発生と接種の取りやめ
MMRワクチン接種開始後、接種した乳幼児において、発熱や痙攣、嘔吐などの症状を伴う「無菌性髄膜炎」の発生が報告されるようになりました。
その後調査が重ねられ、MMRワクチンによる無菌性髄膜炎も発生頻度は1,200人に1人程度であると確認されました。
かなりの頻度ですね。
この結果を受けて、1993年4月にはMMRワクチンの接種見合わせとなり、以降定期接種されることはなくなりました。
接種を受けた乳幼児は全国で約183万人。健康被害の救済認定を受けたのは約1,000人でうち3人が亡くなったとのことです。
何でこんなことになってしまったのでしょうか?
ワクチンの製造工程の問題
大方の予想はつくかと思いますが、今回混ぜ合わせたワクチン原液のうち、「良くないもの」が1種類ありました。
MMRワクチンの対象におたふくかぜがありますが、とあるメーカーがおたふくかぜワクチンについて、「勝手に製造方法を変えていた」のです。
具体的には細胞培養法だけだったものを羊膜培養法も混ぜて製造していました。
要は「承認された製造工程とは別の工程で作成」していたわけです。
これはとんでもなくクリティカルな問題です。
このことが原因となりMMRワクチンが汚染され、「薬害」が発生してしまったのです。
「ワクチン製造工程の承認時からの無断変更」
「ワクチン株を混合して統一株としたこと」
上記2点が薬害の根本的な原因であると私は考えます。
承認されたワクチン自体の問題ではなかったのです。
被害の拡大の要因
伝えたかったことの一つは、よくワクチンの副反応のお話の時に取り上げられるMMRワクチンの事件の原因が、承認されたワクチンのせいというよりかは、人為的なことが原因であったことです。
要はきちんとルール通りに承認されて工程で進めていれば、この被害は防げた可能性が高いのです。
しかし、問題はこれだけではありません。
副反応被害が拡大してしまった要因の一つとして、行政による対応の遅さ、副反応情報の把握の遅さや評価の誤りも指摘されています。
情報把握の遅れ
予防接種による副反応の報告は、任意接種の場合は企業報告として、安全対策部局に送られていました。
一方で定期接種の場合は、都道府県経由で予防接種担当部局にのみ送られていました。
そして安全対策部局に送られるべき任意接種の副反応情報も、安全対策部局に送られないといったことが生じていたのです。
要は副反応情報を正確に把握していなかった可能性があります。
これが副反応情報の実態把握が遅れた原因であるかもしれません。
なお現在は医療機関→企業→規制当局の流れは確立されています。
副反応情報の過小評価の可能性
上記の件が影響している可能性は高いですが、それでも副反応情報を過小評価していた可能性も考えられます。
1989年の定期接種開始後、副反応情報が出始めると、1989年9月頃に添付文書改訂指示が飛び、10月頃に無菌性髄膜炎の発生率が数千人から3万人に一人であり、接種は慎重に行うように厚生省から通達がありました。
翌年の1990年には再び添付文書改訂の指示が飛び、無菌性髄膜炎の発生率が数千人に一人であると通達されました。
最終的には1991年4月に前述のとおり、無菌性髄膜炎の発症率は1,200人に一人まで跳ね上がったわけです。
臨床試験では当然こんな頻度で無菌性髄膜炎が発症したわけではありません。
この間数年経過しているわけですが、副反応情報の把握が遅れていただけではなく、過小評価してしまっていた可能性も考えられるのです。
この副反応情報を受けて、原因究明のためにもう少し早めに動いていれば、被害は拡大せずに済んだのかもしれません。
まとめと後書き
今日はMMRワクチン事件について見てきました。
承認された製造工程を逸脱しない、謎の混合はしないといった低レベルな原因を学びたかったわけではありません。
大事なことは「承認されたワクチン自体に問題はなかった」こと、
そして「副反応の情報について、客観的なデータに基づき、過大評価も過小評価もせずに取り扱う必要があるということ」です。
MMRワクチン事件では、副反応情報の把握が遅れ、過小評価してしまいました。
医薬品にせよ、ワクチンにせよ、副作用や副反応の情報は治験だけで全てを補うことなど不可能です。
市販後の調査の重要性もさることながら、得られたデータを適切に処理していく必要があります。
もちろん、あのHPVワクチンの「多様な症状」を危険な副反応であり、警戒するべきものと考えろというわけではありませんよ?
あの対応はむしろ逆に過剰で誤った対応であったわけです。
副反応と思われる事象について、過小評価も過大評価もいけないのです。
客観的なデータに基づいて、適切に評価することが重要だということです。
冒頭でシルガードの安全性は十分に確認されていると述べました。
しかしそれでもシルガードの副反応と「される」多様な症状について、医薬品リスク管理計画には綿密な対応策が記されています。(別途取り上げる予定です)
これはHPVワクチンが非常にセンシティブな扱いであることに起因すると考えられますが、MMRワクチンのような過去の事例も踏まえての結果であると考えています。
ワクチンはごく小さなリスクであるとは言え、健常な状態から能動的にリスクを負ったうえで、多大なるベネフィットを享受するものです。
この心理的な壁により、副反応については過剰に反応される傾向があります
例えば抗癌剤を服薬して吐き気が出たとして、製薬会社を訴える!!と騒ぎ立てますか?
解熱剤を服薬して胃が痛くなったとしたら、処方した医師を糾弾しますか?
恐らくそんなことはされないかと思います。
でもワクチン接種して、発熱したり、ちょっとだるくなったりしたらどうでしょう。
そんな時、普通の薬より過剰に反応している人が多いように見受けられます
(あくまで私見です、統計データは持っていません)
副反応情報について、客観的なデータから適切に処理していくこと。
これはワクチンを提供する側の製薬企業、審査する規制当局側は当然留意するべきではありますが、ワクチンを受ける側としても必要だと思います。
過去のHPVワクチンの副反応報道を反省しないメディアには特に留意頂きたいと思います。
※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。